過酷な状況に置かれた少数民族の問題にどう取り組むか。ノーベル平和賞受賞者のアウンサンスーチー氏だからこそ、それが問われている。
ミャンマー西部ラカイン州に住むイスラム教徒少数民族ロヒンギャの問題だ。先月下旬に始まった治安部隊とロヒンギャ系武装組織の衝突が拡大し、国際社会の懸念が強まっている。
59の村で約7000軒が焼き打ちにあった。死者は400人以上とされるが、1000人超との情報もある。州内のロヒンギャ100万人のうち40万人以上が難民となり、隣国バングラデシュに流入した。
ミャンマーの実質的な最高指導者であるスーチー氏はきのう、首都ネピドーで今回の事態について初めて演説を行った。
スーチー氏は国際調査受け入れを表明し、ロヒンギャの権利拡大と和解に取り組む姿勢を示した。一方で「すべての人権侵害と違法な暴力を非難する」と語り、武装組織にも責任があるという考えをにじませた。
自らの沈黙に対する国際的批判に応えようとしたものの、明快な姿勢を示したとは言えない。国内向けの配慮は必要だろうが、事態の深刻さに比べると不十分だった。
問題の背景にあるのは、ミャンマーの人口の9割を占める仏教徒が抱くロヒンギャへの敵対感情だ。
ロヒンギャは一帯が英植民地だった19世紀に現在のバングラデシュから来た移民が源流だ。英国は、多数派の仏教徒を統治する手先として移民を使い、両者を反目させた。
第二次大戦後に独立してからも、反目は続いた。軍事政権だった1982年にロヒンギャは「不法移民」として国籍を剥奪された。スーチー氏が熱心に取り組む少数民族との和解プロセスからも排除されている。
だが、民族や宗教の違いを理由とした対立を放置すれば、過激思想の流入を招きかねない。過激派組織「イスラム国」(IS)の侵入すら許す恐れがある。そんな事態を引き起こしてはいけない。
全面的な和解には多くの時間が必要だが、まずは眼前の人道危機解消を急がねばならない。家を焼かれ、町を追われた人々が安心して帰還できることが最優先だ。スーチー氏は強い指導力を発揮すべきである。
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