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余録

「かみさんに先に逝かれちまって…

 「かみさんに先に逝かれちまって俺一人こっちに残されちまったらさ、俺、さびしくってとても生きてく自信なんてないもん」。高齢の妻は病気で余命いくばくもない。テレビ局の裏方だった夫の「ちのやん」が胸の内を明かし、言葉をつなぐ。「だけどさ……」▲先週終了したテレビ朝日の連続ドラマ「やすらぎの郷(さと)」の印象深いシーンだ。倉本聰(くらもと・そう)さん脚本。石坂浩二さん、浅丘ルリ子さん、八千草薫さん、加賀まりこさんらそうそうたる俳優が顔をそろえた。テレビ業界に功績のあった人が暮らす老人ホームが舞台だ▲ちのやんは言う。「先に行く方と残される方。どっちがつらいだろうって想像するとさ、残される方が絶対つらいよね」「じゃあ俺、つらい方を引き受けてやろうって」。その言葉を聞いて、自分も同じことばかり考えていたと思うのは、やはり妻に先立たれた石坂さん演じる脚本家だった▲ある短歌を思い出す。<終わりなき時に入(い)らむに束(つか)の間の後前(あとさき)ありや有りてかなしむ>(土屋文明(つちや・ぶんめい))。92歳の夫が94歳で逝く妻を悲しむ歌だという。自分とのわずかな後前。そのわずかな時間が悲しいのだ▲高齢者には見応えのあるドラマが少ないといわれる中で「やすらぎの郷」は異彩を放った。生と死をめぐる重いせりふが短歌の慟哭(どうこく)のように心を揺り動かしたからだろう▲妻をみとったちのやんはほどなく、後を追うように息を引き取る。石坂さんのナレーションが静かに流れた。「ちのやん よかったな うまくやったな」

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