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女は死なない

第12回 あたしたちのほんとうの敵は?=室井佑月

 テレビでは、不倫した男女をぶったたくことが流行っている。

     リポーターが当事者に張り付いて、「会見を開いて謝罪しないのか?」などと喚(わめ)いている。

     巨額な金の不正が浮き彫りになった議員も、国家権力を私物化していたことが発覚した議員も、相手が現在、力があって大物であれば、メディアは追いかけまわしたりしない。

     不倫でたたかれている議員は、たたいてもなんら怖くないだろうとメディアに判断された人だ。そして、鬱憤が溜(た)まった国民の生贄(いけにえ)になる。

     一人の人間の些細(ささい)な失敗を寄ってたかって叩くことは、正しいと思えないが、視聴率が取れるという。つくづく、イヤな世の中だと思う。

     だいたい、リポーターたちは誰に謝罪を求めているのだ。

     不倫して謝罪するなら、自分の家族と相手の家族に対してだ。会見を開いて謝罪というのは、おかしい話。

     広い世の中、自分の夫、もしくは妻が浮気をしても、なんとも思わない人もいるかもしれない。だとすれば、誰に謝罪することもないわけだ。

     なぜ、こんなに不倫がたたかれるのか? 不倫は犯罪でもない。

     それについては、ある女友達との話の中で、「やっぱりそういうことなのかな」と思ったことがある。

     その友達は、今、ワイドショーを騒がせている元民進党の山尾志桜里議員を「ずるい」といった。

     山尾議員は子供時代、有名なミュージカルの主演を務め、それから東大の法学部を卒業し、検事となった。華麗なる経歴だ。政治家になってからも、出来る女として、注目を浴びる存在だった。

     夫もいて、子供もいて、仕事もうまくいって、それでもってお相手は年下のカッコイイ弁護士。女友達が「ずるい」といったのは、明らかに妬みだろう。

     確かに、お相手の男性の写真や経歴が出てきたとき、あたしも一瞬、山尾議員を羨ましいと思ったもの。

     しかし、わかってほしい。山尾議員をたたいてもたたいても、彼女が手に入れたものは、あたしたちのものにならない。

     無理でしょ、東大の法学部に入るなんて。政治家として彼女が脚光を浴びたのも、彼女が積み上げてきた努力があってこそのものだ。

     その成果として、彼女は素敵な家庭も、仕事での評価も、彼女を崇拝する年下の男友達も手に入れた。

     だから、もうやめにしないか? 差し出された生贄に大喜びするのは。

     生贄へのリンチに大喜びしている間に、いちばんぶったたかれなくてはならない悪者は逃げてゆく。その悪者が、あたしたちを ATMのように使い、私服を肥やし、あたしたちの生活を脅かしているのかもしれないよ。あたしたちが鬱々とした生活を送っているのは、山尾議員のせいではない。

     山尾議員を喜んでたたいているうちは、あたしたちの鬱々とした生活はつづく。

     このコラムを読んでいるのは、女性が多いと聞いた。

     あたしも人間だから、出来の良い、いかにも幸せそうな顔をした女がいたら、正直、嫉妬もするさ。

     しかし、おなじ女として、努力の上での成功を味わっている女の邪魔をすることは、自分の首を絞めることになると知っている。あ、力ある男の引き立てにより、社会的地位を得た女は論外ね。

     まだまだ世の中は男社会。男とか女とか関係なく、能力と本人の努力によって成功した人、とくにそれが女性であれば、あたしたち女は応援してあげても良いと思う。

     社会で成功した女が増えるということは、男女で差別されない、女が生きやすい世の中に近づくことでもあるのだから。

     なぜ、あたしがこんなことをいうかというと、あたし自身、社会に出て、理不尽に足を引っ張ろうとするのは、大抵、男であった。

     あたしより若くなく、あたしより能力のない、男であった。そういう男にたびたびくだらない噂を流されたっけ。

    「あの女、身体で仕事とっているから」、みたいな。

     もちろん、そんなことなどしてない。

     その男の仕事があたしの仕事になったのは、あたしのほうが、若くてギャラも安く、評価されるものが作れるってだけの話。そういった男は、女のあたしに負けるのがよっぽど悔しかったんだと思われる。それにまだ若く、なんの後ろ盾もない女のあたしは、ぶったたいてもなにをしても怖くない存在だったんだろう。

     そして、そういうことをされるたび、「負けるな!」とあたしに発破をかけてくれたのは女の先輩だった。かつて、おなじような理不尽な目にあった人たち。どれだけ彼女たちに励まされたか。

     女の敵は、女じゃないんだよね。

     

     

     

     

      

     

    室井佑月

    1970年、青森県生まれ。雑誌モデル、銀座・高級クラブでのホステスなどを経て、1997年に「小説新潮」主催「読者による『性の小説』」に入選し、作家デビュー。小説家、随筆家、タレントとして多岐にわたり活動している。2000年に第一子となる男児を出産。2016年には、一人息子の中学受験と子育てについて愛と葛藤の8年間を赤裸々に綴ったエッセー『息子ってヤツは』(毎日新聞出版)を上梓。主な著書に『熱帯植物園』(新潮社)、『血い花』(集英社)、『子作り爆裂伝』(飛鳥新社)、『ママの神様』(講談社)などがある。

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