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Promises 2020への約束:阿部一二三×西藤俊哉 頂点目指す20歳のホープ

お互い競技の基本ポーズで並ぶ阿部(右)との西藤=手塚耕一郎撮影

Promises 2020への約束

阿部一二三×西藤俊哉 頂点目指す20歳のホープ

 2020年東京五輪・パラリンピックで飛躍が期待される選手たちが競技の枠を超えて語り合う「Promises 2020への約束」は今回、1997年に生まれた20歳の有望株が顔を合わせた。今年の柔道世界選手権男子66キロ級金メダリストの阿部一二三(日体大)と、フェンシング世界選手権男子フルーレ個人で銀メダルを獲得した西藤俊哉(法大)は、ともに初出場ながら世界の強豪に鮮烈な印象を与えた。「東京で頂点に立つ」という思いは同じ。初対面ながら同い年の競技者はすぐに打ち解けた。【構成・岩壁峻、新井隆一】

    (対談は10月5日に行いました)

     柔道の阿部とフェンシングの西藤による「1997年生まれ対談」は、西藤が「阿部に注目していた」と切り出してから一気に打ち解ける展開に。体調管理の方法に遠征の必需品など、20年東京五輪での活躍が期待されるホープ同士の会話が尽きることはなかった。

    個人的に阿部選手に注目していた

     ――今年の世界選手権でお互い好成績を収めました。

     阿部 リオデジャネイロ五輪に出られず悔しい思いはあったのですが、代表選考を勝ち抜けなかった自分の弱さを感じました。だからこそ、今回世界一になったことで、「東京五輪に向けてやっとスタートを切れた」という感じですね。

     西藤 リオ五輪当時は現実的に出場が難しい立ち位置でした。ただ、今季は日本代表の団体戦でメンバー入りするなど結果を残せる自信もあった。世界選手権の準決勝でリオで金メダルのガロッツォ選手(イタリア)に勝利したことで、「実力がついてきた」という手応えもあります。今後は外国選手に研究されると思いますが、五輪に向けてはいい経験ができたとは思っています。

     ――同い年の選手を意識することはありますか。

     西藤 本当に偶然なんですけど、個人的に阿部選手に注目していました。うそじゃないですよ(笑い)。僕が出場権を逃した14年ユース五輪(中国)で阿部選手が(66キロ級で)優勝したことがきっかけです。圧倒的な強さで勝ち上がったと聞いて、その後も活躍をニュースなどで見ていました。今回、聞きたいことがあって……。世界選手権で僕は決勝で気負ってしまい、銀メダルでした。阿部選手はどのような気持ちでしたか。

     阿部 世界選手権ではすごく落ち着いていて、決勝戦の前も「どうやって相手を投げてやろうかな」ということだけをずっと考えていました。勝ち進んでもあまり意識をしないようにするうちに、緊張しなくなりました。いつもと同じように試合をする、という思いですかね。

     ――阿部選手は同年代で意識する選手は。

     阿部 バドミントンの山口茜選手とは接点も何回かありますね。クライマーの野中生萌選手とも知り合いです。でも、各競技ともこれから世界でトップに立つ選手が多いのが現状なので、同い年の選手を意識することはあまりないですね。

     ――互いの競技についてどういう印象を持っていますか。

     阿部 フェンシングって「剣がいつ当たったんや?」と思うくらい、動きが速い。でも、会場で試合を見たらすごく楽しいだろうな。剣が当たって痛くないですか。

     西藤 痛いです(笑い)。フランスの選手と以前対戦した時に、剣をしならせて突く攻撃を受けました。試合中にめちゃくちゃ痛くて、その後に病院でエコー写真を撮ってもらったら、あばら骨が折れていたことがありました。

     阿部 柔道だったら受け身があるから、思いっきり投げられても多少は痛みを防げる。フェンシングだと剣で思い切り突かれるから痛いですよね……。

     西藤 組んだときに予想以上に相手の気迫を感じて「やばい」と思う時はありますか。

     阿部 組み合った時には、相手の力がずっしりと伝わってきます。「この選手、強いな」と。勝てるか勝てないか、この時点で分かる場合もありますね。

     ――ともに体のバランスが重要な競技です。

     阿部 重心が低ければ低いほどいいわけではなく、高いほどいいわけでもない。自分の中で一番いい具合の膝の曲げ方とか重心の落とし方とか、一番踏ん張りが利く体勢があります。相手が右組みなのか、左組みなのかに合わせて、効果的な重心の置き方があるんです。その感覚は稽古(けいこ)で養ってきました。

     西藤 フェンシングは選手によってプレースタイルがまったく違います。僕は攻める側が多くて、攻める時に前がかりになるとすぐ重心が落ちてしまうので、できればちょっと重心を後ろに置いて、いつでも勢いよく出られるようにしておく。下がる時は重心を前に置いておいて切り返せるようにします。

     ――お互いの競技で気になる点はありますか。

     西藤 学校の授業で柔道はやりましたが、どうやって大きな相手を倒せるか気になります。組んで、駆け引きを考えたりしますか? 相手の癖を読むとか……。

     阿部 大きな選手とやる時は、力も自分より強いから相手の重心を崩して、足を払います。大きい選手は振り回されるのが嫌なので。足を出して、懐が深いから担ぎ技で投げに行くのが基本。相手の重心を崩すのが一番重要かなと思う。

     ――体調管理で気にかけているのは。

     阿部 普段はあまり食べる物を気にしないし、何でも食べます。ただ、減量中はすごい栄養を気にして、高たんぱく低カロリーにしないといけない。それが一番体重が落ちるので。ベストの体重はある? 僕は66キロ級ですが、68~69キロぐらいが一番体が動くけど……。

     西藤 ベスト体重は特に設定しないけど、素早く動きたい。シーズンオフで食事量が増えて運動量が減って、そこからフェンシングを再開すると、3キロぐらい増えただけで重くて変な感じになる。それがすごく嫌で。日本オリンピック委員会(JOC)のエリートアカデミーで5年間、栄養指導を厳しく受けてきたので、最低限の乳製品を取るとかは勝手に意識するようになりました。フェンシングには体重の上限がないけど、友達と焼き肉に行ったら「次の日は気をつけよう」などという気持ちが自然に浮かびます。

    すぐに打ち解けた同い年の阿部(左)と西藤=手塚耕一郎撮影

    遠征に欠かせないスピーカーと勝負パンツ

     ――遠征に必ず持って行く物は。

     阿部 BOSE社製のスピーカーを持って行くと聞いたけど?

     西藤 音楽鑑賞が好きなので、スピーカーにはこだわっています。あとは(非常食でもある)アルファ米を持って行く。

     阿部 僕も海外ではご飯や缶詰やおかゆを持って行きますね。おかゆは必ず。減量があるので、一発目に固形物を入れたら胃がびっくりしてダメになるので、おかゆから入れておなかを落ち着かせる。あとは赤パンツ。

     西藤 勝負パンツですね(笑い)。

     ――目標とする選手は誰ですか。

     西藤 (08年北京、12年ロンドン両五輪銀メダリストの)太田雄貴さんの存在が大きいです。初めて会ったのが小学3年。「太田選手と試合をしよう」というイベントに参加して、対戦したくて手を挙げました。五輪選手の存在を間近に感じて、そこから憧れになりました。「五輪で金を取りたい」という夢が芽生えたのも、その当時です。ただ、フェンシングをまねしようとかではなくて、人として、アスリートとして尊敬しているという感じですね。フェンシングの普及に動いたり、五輪の招致活動をしたり……。8月には日本フェンシング協会の会長にも就任するなど、全国のフェンシング選手にいろいろな道を示してくれています。

     阿部 僕は60キロ級で五輪3連覇した野村忠宏さん。ずっと野村さんの試合を見てきました。こんな選手になりたいという憧れが強くて。野村さんといえば、五輪でも攻め続けて頂点に立った印象がありますよね。僕も五輪に出たら一本勝ちを重ねたい。徐々に「一本を取りに行く柔道が阿部のスタイル」というイメージができあがってきたかなと思います。

     ――20年に向けた思いを聞かせてください。

     西藤 五輪で金メダルを取るのは、そんなに簡単ではないのは分かっています。事実、世界選手権でも銀メダルだったので。何より、東京五輪の出場権を取るためにこの3年でどう結果を出すかを考えなければなりません。20年までは時間がないとも思います。団体戦のメンバーにしても、日本代表のオレグ・マツェイチュク・コーチから「結果やランキングで選ばない。そのときに一番調子がいい選手を選ぶ。全員にチャンスがある」と言われています。今季の成績が良くても、ものすごい危機感を持って競技に取り組んでいる。「今」をしっかり見つめなければ、という意識が強いですね。「先を見すぎない」ということも大切です。

     阿部 僕は東京五輪で金メダルを絶対取りたい。五輪まで、まだ3年近く。今はこのまま、(国内、国際大会でも)負けなしで東京五輪に出場したいと考えています。今の状態を維持するのでなくて、「どれだけ自分がより強くなれるのか」ということを考えてやっていかないと。まだ世界選手権で1回優勝しただけ。五輪王者にならなければ、と思っているので。今から負けてはいられないですね。勝ち続けてこそ得る経験があると思います。周囲からも「負けて強くなるのでなくて、勝って強くなれ」と言われています。66キロ級では五輪2大会連続銅メダルの海老沼匡選手がずっと国内トップにいました。この階級での絶対的な存在が東京五輪に向けて73キロ級に階級を上げ、「誰がトップになるんだ?」と言われた中で、やっと自分が頂点に立てた。その座を譲る気もないです。このまま自分が66キロ級の戦線を引っ張り続けたいです。


     あべ・ひふみ 兵庫県出身。神港学園高2年だった2014年にユース五輪、講道館杯、グランドスラム東京でいずれも優勝して注目を集めた。全日本選抜体重別選手権は2連覇中。

     さいとう・としや 長野県出身。中学2年でJOCエリートアカデミーに入校。世界ジュニア選手権では、2014年に個人で銅、16年に団体で金、17年に個人と団体で銀メダルを獲得した。