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余録

「カリフ」はムハンマドの後継者たる…

 「カリフ」はムハンマドの後継者たるイスラム国家の指導者の称号だが、子どものころから耳にしているのは千夜一夜物語のおかげである。主人公の一人、ハールーン・アル・ラシードがカリフだったのだ▲シンドバッドやアラジンらが活躍する千夜一夜物語だが、こちらは実在の第5代カリフでアッバース朝最盛期の人物である。物語では水戸黄門のように家来と一緒に商人や修道僧に変装して街に繰り出し、珍しい話や出来事に出合う▲実在のハールーン・アル・ラシードはバグダッドの繁栄や学芸振興に尽力する一方、宮廷をラッカへ移してビザンツ帝国に遠征をくり返した。この時代のラッカは壮麗なカリフの居城をもつ都だった▲こちらは現代、「カリフ」を名乗る人物をいただく過激派組織「イスラム国」(IS)が首都と称してきたラッカの陥落である。クルド人民兵組織が「全市制圧」を発表し、3年間に及ぶIS支配からの解放が近く宣言されるという▲先月「肉声」だという戦闘継続声明を公開した自称「カリフ」、バグダディ容疑者は所在不明で、どこかで変装でもして忍んでいるのか。ともあれ彼が樹立を宣言したイラク、シリアにまたがる「国家」は事実上崩壊したといえる▲だがそれにより世界各地にテロが拡散しかねないから話はやっかいだ。さらにIS打倒で足並みをそろえてきた諸勢力の間では早くも対立が表面化しつつある。千夜一夜のおとぎ話にしてはならない暴力の停止と住民の暮らしの再生である。

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