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今週の本棚

海部宣男・評 『あなたの脳のはなし 神経科学者が解き明かす意識の謎』=デイヴィッド・イーグルマン・著

 (早川書房・1944円)

「私とは何か」に切り込む

 千二百年の昔、在原業平は通(かよ)った女性が居所を去った寂しさを嘆いて、“月やあらぬ 春や昔の春ならぬ わが身一つはもとの身にして”と詠(うた)った。現代の私たちは、そのわが身も「もとの身」ではないことを知っている。私の身体の数十兆の細胞は日々更新され、数年でほぼ入れ替わるからだ。ならば、存在し続けているはずの「私」とは何か。脳内のニューロン・ネットワークによる「記憶」や「心」こそが私だととらえられてきたと言ってよいだろう。だがニューロン・ネットワークも環境や刺激で大きく変化してゆくし、脳は「私」に閉じたものでもないらしい。先端に立つ脳科学者が実験的な研究を紹介しながら「私とは何か」に広く切り込んだのが、この本だ。好評を博したテレビシリーズの書籍版で、語り口はわかり易(やす)く、図版はよく考えられたものが多い。乳児の脳がどう発達してゆくかを具体的に追った研究なども興味深いが、ここでは特に考えさせられたことを中心に紹介したい。

 私たちの脳がAIと決定的に違うのは、千兆もの接続を持つ脳内ネットワークで、たくさんの選択肢が対立し…

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