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ナビゲート2017

誤読すれすれの深読み=粥川準二(科学ライター)

 筆者は科学ライターということになっているが、今年のノーベル賞で最も盛り上がったのは、医学生理学賞でも化学賞でもなく、文学賞だ。

     受賞が決まったカズオ・イシグロの代表作『わたしを離さないで』は、映画やドラマでもよく知られている通り、臓器摘出されて人生を終えることを運命づけられた若者たちの青春を描いたディストピア(反理想郷)SFである。筆者は講義などで、クローンや幹細胞、臓器移植など生命工学がもたらす問題について話すとき、この作品に言及することがある。

     しかし、本作品をそうした生命倫理的な問題を提起したものと理解するのは一面的かもしれない。

     筆者は2011年4月、この作品の映画版を観(み)た。東日本大震災後に初めて観た映画だった。その直後、電気を大量消費する都市ではなく地方に原発を建て続けてきた日本社会が映画の世界とダブって見えた。約1年後、福島第1原子力発電所の周辺で、それまでは津波によって溺死したと思われていた犠牲者のうち、数人は餓死していた(つまり誰にも助け出されずに放置されていた)ことがわかったという報道に接したとき、この作品を思い出した。

     ある学者が「科学的におかしいところがある」と指摘したのをピント外れだと思ったことがある。フィクションに科学的厳密性を求めて、暗喩を読み解かないのは愚かだ。

     確かに筆者は深読みしすぎているかもしれない。だが誤読すれすれの深読みができ、その上で社会や科学について考えられる作品こそ、広く読まれるべきではないか。


     林英一、金原ひとみ、長有紀枝、吉崎達彦、粥川準二の各氏が交代で執筆、毎週火曜日に掲載します。

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