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女は死なない

第13回 人はみな孤独=室井佑月

 家族がいても、恋人がいても、友達がいたって、自分は独りぼっちだと感じる瞬間はないだろうか?

     あたしは始終そう感じる。

     というか、そう自分にいい聞かせている。人間はみな孤独。死ぬまで「誰と引っ付いた、別れた」だのと大騒ぎしても、死ぬときは独りである。

     棺桶(かんおけ)も骨壺(つぼ)も一つでしょ。ほかの誰かと入るわけじゃない。

     だからこそ、生きているうちは誰かと一緒にいたくなるのかもしれない。

     誰かと一緒にいたい、という気持ちは悪くない。人間はみな孤独、それはそうなのだが、社会の中で人は協力し合わなきゃ生きていけない。

     年齢や性別、育った環境など、自分とまったく違う人とも。

     育った環境が違えば、考え方も異なるわけで、摩擦や衝突だってあるだろう。しかし、自分とまったくおなじ人が現れたって、摩擦や衝突はあるんじゃないか?

     まったくおなじ人間には、些細(ささい)な衝突で、相手のことを一刺しで殺せる言葉を吐けるだろう。急所もわかっているわけで。そっちのほうが恐ろしいわ。

     あ、話がちょっと逸(そ)れてしまった。

     あたしがいいたかったのは、誰かと一緒にいたいという気持ちは悪いものではないが、ただその際、その気持ちを自分のものだと理解することが肝心だ、ということ。

     誰かと一緒にいたいのは誰? 自分だ。

     なに当たり前なこといってんの?と今、思った? が、案外これが難しい。

     自分とは違う誰かと一緒にいれば、その行動からさまざまな違いがお互いに見えてくるわけで、そこでいちいち腹を立てていれば、疲れてしまう。そんな不毛なことはもうやめにしませんか。

     その人と一緒にいるのは、誰に命令されたわけでもなく、自分の意思。そして、人はそれぞれ違いがある。必ずある。

     相手の行動が鼻についてきたら、きっと相手もそう感じている。相手がそう感じていないのだとしたら、自分よりよっぽど悪意のない善人だってだけ。相手に悪意を抱いた、自分の心の小ささを恥じるしかない。

     家族であっても、友達であっても、恋人であっても、自分が嫌なら離れればいい。人は、それが案外できない。

     そして、自分の気持ち以外のところで、離れられない理由を探す。

     たとえば、たびたび親にお金をたかられる。この親がいたら、自分は貯金などできず、未来も描けない。でも、親だから。血が繋(つな)がっているから、子の自分が面倒を見なければいけない、とか。

     あの子は、昔から口が軽い。そして平気で嘘(うそ)もつく。でも幼馴染(なじ)みだからさ、とか。

     恋人の言葉の暴力が酷(ひど)い。あの人は勝手な人だ。しかし、あたしがいないと彼はダメになってしまうから、とか。

     ひょっとして、 たかりが激しい親も、嘘つきの友達も、乱暴な恋人も、お付き合いのある当人しか知らない良さだってあるのかもしれない。良いところから悪いところを引き算したら、良いところが残るってことなのかも。

     だったらそれは、その人が好きだってことだ。誰がなんといおうが、私はこの人が好きだから一緒にいる、そう認めたほうがいい。

     そうじゃなければ、離れられないと思い込んでいるだけだ。

     親が子の犠牲になることもあるかもしれないが、逆はない。当たり前の、正しい親であるなら、子に面倒はかけたくない。そういう気持ちが微塵(みじん)もない親など、縁を切ってしまっていい。

     ただ近くで育ったというだけの、幼馴染みの人生を背負う必要はないし、たまたま出会って付き合っただけの恋人だっておなじだ。

     もちろん、広い世の中だから、どうしても好きになれない人と一緒にいなきゃならないことだってある。その際は最小限のお付き合いにする。なるべく顔を合わさない。なるべく会話しない。摩擦や衝突を避けるために。

     至極、簡単なルールだ。

     でもな、人の気持ちはそう簡単じゃないんだよな。たとえば、あの人はみんなが良い人だと褒めるし、あの人に嫌われると自分は損をしてしまうかも……、みたいな曖昧な場合。

     最初にあたしがいった、人はみな孤独、自分は所詮独り、という言葉を思い出してほしい。「そのままにしておこう、誰にもいわなきゃいいんだから」と思えるから。

     あなたの気持ちは、あなただけのもの。誰かと共有する必要はない。

     かなり親しい家族や友達や恋人にだって、完全には自分を理解してもらえっこない。そして、いくら親しくたって、自分以外の誰かの心をこじ開けてみることはできない。

     今はSNSなどで、多くの人と簡単に繋がれる時代だ。でも、それは本当の繋がりじゃない。

     みんながみんな、孤独である。

     独りじゃないと、誤魔化(ごまか)しながら生きている。

    室井佑月

    1970年、青森県生まれ。雑誌モデル、銀座・高級クラブでのホステスなどを経て、1997年に「小説新潮」主催「読者による『性の小説』」に入選し、作家デビュー。小説家、随筆家、タレントとして多岐にわたり活動している。2000年に第一子となる男児を出産。2016年には、一人息子の中学受験と子育てについて愛と葛藤の8年間を赤裸々に綴ったエッセー『息子ってヤツは』(毎日新聞出版)を上梓。主な著書に『熱帯植物園』(新潮社)、『血い花』(集英社)、『子作り爆裂伝』(飛鳥新社)、『ママの神様』(講談社)などがある。

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