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SUNDAY LIBRARY 著者インタビュー 吉田勝次 『素晴らしき洞窟探検の世界』

“フツーの枠”に収まらない人生が楽しくてしょうがない

◆『素晴らしき洞窟探検の世界』吉田勝次・著(ちくま新書/税別920円)

 400メートルもの深い縦穴をロープ1本で降下する。かと思えば、狭い横穴を匍匐(ほふく)前進。洞窟内の水没部にダイビングをして、命がけで未知の空間を発見する。日本の洞窟探検のパイオニアだ。

 10代の頃に“やんちゃ”をし、ケンカに強くなりたくて少林寺拳法を始めた。道場に通い、それまでの友だちとは違ういろいろな年代の人に出会った。そこで、ある先輩から言われた一言が、吉田青年の胸に刺さった。

「『大きな魚のウロコより、メダカの頭にならんとダメだわ』って言われたんです。“本当に強い人間”って何だろうと考え始めました。ケンカに強いだけじゃダメだ。自分が今まで戦ってたのは実はケンカ相手じゃなくて、社会の抑圧だったことに気づいたんです」

 建設業に入り、持前の独立心の強さから21歳で起業する。時代はバブル期真っ盛り。

「22歳の頃には500万円の新車を現金で買えるくらいになってた。でもふと『このままじゃつまらんな』と思ってしまった。地元最大手の同業者が10階建てのビルを新築したんですが、張り合っても10階じゃ大した眺めじゃないなって(笑)」

 そこで山登りを思いつく。地元の登山用品店に直行するが季節は冬。まったくの初心者と聞いた店員が驚いて、きちんと講習を受けるよう勧めてくれた。

「装備はリッパでしたよ。お金はあったから(笑)。武道と現場で鍛えてたから体力にも自信はあった。でも山は、まるっきり違う。講師は有名な登山家の長谷川恒男さん。いちばん若いのにいちばんヘタレな僕に、山岳会に入るようにアドバイスしてくれました」

 初登頂で山が大好きになったわけではない。ヘタレな自分の“負けた感”が嫌だったという。

「それで山は5年ほど続けました。合間にスキューバダイビングもやったんですが、こっちは行動範囲の狭さが物足りなくて、すぐ飽きちゃいました」

 山からも離れはじめた頃、アウトドア雑誌の記事で洞窟探検を知る。洞窟内の写真の数々に衝撃を受けた。

「武道に仕事に登山と、翻弄されやすいんですね(笑)。すぐに洞窟探検の団体に電話をかけて、参加しました。驚きましたね~。狭い通路から広大な空間へ、どんどん景色が変わる。行ったからこそ見える風景。もっともっと、この風景を見たい、洞窟に入りたいと思った」

 以来、洞窟にのめり込んで現在に至る。吉田さんの洞窟探検の哲学や洞窟の魅力がわかるのが本書だ。探検の喜びや面白さが伝わってくるが、息詰まるような場面も少なくない。

「家族ですか? 全然関心ないんですよ。テレビで僕が出てる番組をやっても、誰も観ない。その時に思い知りました(笑)。嫁は、“フツーの枠”には収まらないって諦めてるみたいです」

 実は、歩道橋を四つんばいになって歩いていたほどの高所恐怖症。キャンプやバーベキューといったアウトドアには、まったく興味がない。休日なんてなくていい。映画とかドラマよりも、自分の人生の方が楽しい。……確かに“フツー”に生きるのは無理そうだ。(構成・小出和明)

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吉田勝次(よしだ・かつじ)

 1966年、大阪府生まれ。洞窟探検家。有限会社勝建代表取締役。洞窟探検チーム「JET」、洞窟探検プロガイドチーム「CiaO!」主宰。踏査した洞窟は国内外1000以上。テレビ撮影、学術調査などにも携わる

<サンデー毎日 2017年11月26日号より>

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