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キャンパスNOW

江崎玲於奈・山中伸弥 特別対談 ノーベル賞受賞者から次世代へ 求められる「創造性」

やまなか・しんや 1962年、大阪府生まれ。87年、神戸大医学部卒。大阪市立大、米グラッドストーン研究所、奈良先端科学技術大学院大などで研究を続け、2004年に京都大教授。06年に世界で初めてマウスiPS細胞作製成功を、07年にヒトiPS細胞作製成功を発表した。12年にノーベル医学生理学賞を受賞。マラソン愛好家でもあり、マラソン大会に参加して、iPS細胞研究基金への寄付を呼び掛けている。
えさき・れおな 1925年、大阪府生まれ。理学博士。東京帝国大(現・東京大)理学部物理学科卒。57年に世界初のトンネル効果による「エサキダイオード」を発見。60年に米ニューヨークIBMワトソン研究所入所。73年にノーベル物理学賞を受賞。98年に半導体超格子の研究で日本国際賞。92年に筑波大学長、2000年に芝浦工業大学長、現在、横浜薬科大学長と茨城県科学技術振興財団理事長も兼務している。
むらかみ・まさと 1955年、岩手県生まれ。工学博士。84年、東京大工学系大学院博士課程修了後、新日本製鉄第1技術研究所研究員。95年から名古屋大、岩手大、東京商船大の客員教授を経て、2003年から芝浦工業大工学部材料工学科教授。08年、副学長。12年に学長に就任。
村上学長を司会に対談をする江崎氏と山中氏

物理学賞 芝浦工大・江崎玲於奈名誉学長

医学生理学賞 京大iPS細胞研究所・山中伸弥所長

司会 芝浦工大・村上雅人学長

 エサキダイオードの発見でノーベル物理学賞を受賞した芝浦工業大学の江崎玲於奈名誉学長(92)とiPS細胞(人工多能性幹細胞)を作製し、ノーベル医学生理学賞を受賞した京都大学iPS細胞研究所所長の山中伸弥教授(55)による「理系白書特別対談」がこのほど行われた。芝浦工業大の創立90周年も記念したものだが、存命中の日本人受賞者では最高齢と最年少の2人の科学者による対談は、受賞時の思い出から日本の科学政策への提言まで多岐に及んだ。司会は芝浦工業大の村上雅人学長(62)が務めた。【構成・中根正義、丸山仁見】

     --山中先生がノーベル賞につながる研究成果を得た時のことを教えてほしい。

     山中 iPS細胞(注1)を発表したのはノーベル賞受賞の6年前、2006年だ。研究は、さらにその6年前から始めた。自分の研究室を持ち、新しいことをやろうと思って始めたのがきっかけだ。最初にその細胞を見た時は、感激というよりは間違いだと思った。

     --世界的な競争だったと聞いているが。

     山中 米マサチューセッツ工科大や英ケンブリッジ大のチームが体細胞から多能性幹細胞を作る研究(iPS細胞を作る研究)を進めており、勝ち目はないと思っていた。iPS細胞は作製方法が簡単で再現性もいいが、100万個くらいの細胞のうち数個しか残らない。普通なら、見逃してしまう。それを見逃さなかったのは、鋭敏な感度の高い検出方法を作ることができたからだ。

     --江崎先生の場合は?

     江崎 私が大学を卒業したのは1947年。この年に米ベル研究所において、真空管に代わるべきトランジスタが発明された。画期的なことだった。当時の日本は戦後最悪の混乱状態にあったが、占領軍からの自由・民主主義などが強調され、私は研究分野においても自分の将来は自分で決めるんだと心に決めた。そしてトランジスタの半導体材料こそ新しく自分が開拓すべき分野だと思い、全力を傾倒した。その成果が、1957年のエサキダイオード(注2)の発見だ。発明は必然であり、発明した人の手柄に帰せられるが、発見は偶然であるだけに私がノーベル賞を取ったというより、「偶然」が取ったという感じだ。

     --エサキダイオードが注目されたのは、日本の学界ではなく、海外だった。

     江崎 57年に論文として報告し、58年に欧州の国際学会で発表すると、トランジスタを発明したウィリアム・ショックレー博士が称賛してくれた。当時33歳の私が一躍、世界の半導体研究者の中に名をはせることになった。

     --日米の研究環境の違いを教えてほしい。

     山中 渡米して分かったのは、米国には本当にすごい人が世界中から来ているということだ。そういう中で、自分も何とかしなければと思うようになる。今はインターネットでも情報が入ってくるが、現地で入ってくる情報とは違う。だから、この10年間は毎月、米国に行っている。日米では、研究者を支える環境が全く異なる。論文の書き方、口頭発表の仕方をきちんと系統立てて教えてもらったのは米国だった。研究者が研究に専念できるサポートもしっかりしている。お金がかかる研究でも、研究成果を上げていると不自由なしにできる。

     江崎 エサキダイオード研究が米国で盛んになり、59年ごろになると多くの研究所や大学から招かれた。トランジスタを発明したベル研究所からも誘いがあった。有名なアレクサンダー・グラハム・ベルは、19世紀最大の発明とも言われる電話機を発明した。ベル研究所に設置された胸像に書かれた彼の言葉「時には踏みならされた道を離れ森の中に入ってみなさい。そこにはきっと今までに見たこともないものが見られるだろう」は有名である。私はその言葉に感動して、米国に行ってみようと決意した。米国では、創設されたばかりのIBMのワトソン研究所に入所し、半導体超格子(注3)の研究を始めた。研究には自由の尊重と厳正な評価が重要だ。

     --日本の科学技術は今、国際的に見て、どのようになっているのか。

     山中 二十数年前の米国では「日本の研究者が言っているのだから間違いない」ということをよく聞いた。同じ国の研究者の評価が高いことはとても誇りだった。今は、中国やシンガポールなどの地位が高くなっている。中国は国家事業で科学に力を入れ、欧米に多くの研究者を送り出し、その後、呼び戻しており、留学生も多い。一方、日本からの留学生数は、横ばいか減っている。

    科学技術に関心を 山中氏

    英知を身に着けて 江崎氏

     --科学政策に対し提言は。

     山中 iPS細胞は応用段階に入っており、まだ恵まれている。問題は基礎研究だ。私たちにとっても基礎研究はまだまだ必要だ。20年後、50年後、100年後も間違いなく基礎研究だ。私が大学院生の時は基礎研究は1人100万円でできると言われていたが、現在は1000万円くらいかかってしまう。それをどうしたらいいのか。

     江崎先生が言われたように、きちんとした評価も大切だ。もう一つは、独創的な研究をする環境が乏しいことだ。任期付きの研究者が増え、短期での成果が求められる。どうしたら、もっと本質的な研究ができるのか。若い研究者の勇気とやる気、それを見極める目利きも大切だ。

     江崎 研究は30代くらいの若者がいちばん創造力を発揮する。若手研究者の開拓的、先駆的研究能力の質を高める努力をしなければならない。量より質、評価する目利きが必要だ。創造性の高い研究能力のあるところを選び、資金を提供することが大事だ。

     --米国では評価が厳しいと話されたが。

     江崎 重要なことは、先入観にとらわれないことだ。フェアな評価が米国の研究レベルを高めている。私が筑波大の学長時代、産官学連携の「筑波大先端学際領域研究センター」(現・生命領域学際研究センター)を設立した。海外の研究員を募集したが、一番の問題は給与体系が年功序列的であったことだ。外国の優れた研究者を日本に招へいすれば、日本の学会の国際化が進み、レベルが上がるはずだ。日本は治安も安定しており、平和で安全な国だ。能力給に給与体系を整えオファーすると、世界の優れた研究者が来るはずだ。

     私は芝浦工業大の学長も務めたが、この大学には、理工学をやりたいという意欲を持った若者が来る。そういう若者をいかに学ぶことに動機づけるかが大切であることが分かった。一度動機づけられると、学習は能動的になり、先生はそばにいるだけでよい。1927年、建学の精神を基に設立された私学でこそ、それができると思った。

     --日本の大学は創造性を育てる教育が足りないという指摘がある。

     江崎 個々の創造性をいかに養成するかに日本の将来がかかっている。優れた素質を持つ人をもっと伸ばすという英才教育的なものが必要だ。設備の整った大学や研究所における傑出した研究成果がノーベル賞の授賞対象になる。山中先生もそうだ。しかし、私の場合は、当時はベンチャー企業だった東京通信工業(現・ソニー)の研究開発活動の中でエサキダイオードが誕生した。これは芝浦工業大などを卒業したエンジニアたちにもノーベル賞は無縁でないことを示唆するのではないか。

     山中 日本の教育は受験競争の影響か、教科書に書いてあること、先生の言うことを覚え、その通りに答えることが重視されている。ところが、研究をやっていると予想外のことが起こる。すると、がっかりしてしまう学生が多い。自然科学は全体の1割も解明されておらず、9割は分かっていない。人体や生物の実験を10回やったら予想通りになるのは1回だけ。9回は異なることが起こる。それを「おもしろい」と思うことが重要だ。

     江崎 パスツールは「チャンスは準備のできている人のところにやってくる」と言っている。チャンスのためには、準備をしなければならない。私は48歳でノーベル賞を受賞したが、山中先生は?

     山中 ちょうど50歳。

     江崎 やはり70代、80代で取るのとはずいぶん違ってくる。研究活動が活発な時にノーベル賞を受賞すると自分の主張が通り、研究資金も入手しやすく、研究も速やかに進展することになる。

     --最後に日本の若者にメッセージを。

     山中 科学技術は、国を支える屋台骨だ。日本の将来は科学技術にかかっている。技術者、科学者はそれを支える原動力になる。分からないことは、まだいっぱいある。それを探ることができ、知的好奇心を満足させるおもしろい仕事であり、世の中に光を差す仕事だ。もっと多くの人が関心を持ってほしい。

     江崎 科学者には、知性を最大限に発揮して、計画性や論理性を生かして真理を追究するというスピリットが求められる。若い人に、そうした「科学するスピリット」を理解してもらう教育が必要だ。今は、成果や結果ばかりが求められるが、素晴らしい成果が生まれるための「ウイズダム(英知)」に、もっと注目し、それを身に着けることを考えてもらいたい。

    ■ことば

    iPS細胞(人工多能性幹細胞)

     体のさまざまな部位の細胞になる能力を持つ人工の幹細胞。従来の万能細胞「胚性幹細胞(ES細胞)」は受精卵から作られた。一方、iPS細胞は皮膚や血液などの細胞から作製できる。臓器の細胞や組織を作り病気やけがの治療に使う再生医療や、病気の仕組みの解明、新薬の探索に役立つと期待されており、臨床試験が始まっている。

    エサキダイオード

     量子論的トンネル効果による電流が支配するダイオード。負性抵抗を持つので増幅、発振、スイッチングなどに活用される。

    半導体超格子

     組成の異なる薄膜状の結晶を交互に重ねた人工の半導体格子結晶は自然の物質を超えるさまざまな特性を示す。この超格子構造を組み込んだ半導体レーザーや半導体受光素子が光通信で実用化された。

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