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余録

平安時代の相撲節に出場した…

 平安時代の相撲節(すまいのせち)に出場した相撲人(すまいびと)・久光の得意技は爪を伸ばして相手をひっかくことだった。だがある時、怒った相手に頭をつかまえられ悶絶(もんぜつ)してしまう。以後、久光はこの相手との取組から逃げ回ったという▲「古今著聞集(ここんちょもんじゅう)」にある話だが、相撲節ではひっかきもありだったのか。新田一郎(にった・いちろう)さんの「相撲」(日本武道館刊)によれば、今の相撲も禁手(きんて)は少なく、顔面への頭突きや肘(ひじ)、膝打ち、種々の関節技などもルール上は禁手でないそうだ▲なのにそれらが抑制されるのは、相撲が他の多くの格闘技と違い「相手を痛めつけることを目的としない」からだという。だから打撃や関節技への防御策もあまりない。相撲の「技法」はそうした規則と抑制の中でつちかわれてきた▲そんな抑制の美学が身に深くしみこんでいたはずの横綱である。懇親の酒席で、後輩力士をビール瓶で殴ったというのには絶句せざるをえない。横綱・日馬富士(はるまふじ)関が同じモンゴル出身の前頭・貴ノ岩関にけがをさせたというのである▲相撲協会に提出された診断書は「頭蓋底骨折(ずがいていこっせつ)」となっているから軽いけがではない。すでに警察にも届け出ずみとのことで、ならば協会はいつこの事件を知ったのか。九州場所3日目の力士らを襲った衝撃はただならぬものがあろう▲日馬富士というしこ名には「相撲界に陽(ひ)をかざしてほしい」との親方の願いがこめられていた。軽量のハンディを強気でのりこえる相撲に魅了されてきたファンには、ただただ悲しい土俵外の禁手である。

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