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Promises 2020への約束:杉本早裕吏×鈴木琴莉 強く美しく自分らしく

日本代表を率いる主将として語り合う新体操の杉本早裕吏(右)と水球女子の鈴木琴莉(左)=太田康男撮影

Promises 2020への約束

杉本早裕吏×鈴木琴莉 強く美しく自分らしく

 2020年東京五輪・パラリンピックに向けて競技の枠を超えて思いを語り合う「Promises 2020への約束」は今回、日本代表を率いる主将が顔を合わせた。今年の新体操の世界選手権の団体総合で42年ぶりの表彰台となる銅メダルに輝いた「フェアリー(妖精)ジャパンPOLA」の杉本早裕吏(さゆり)=日体大、21歳=と、ユニバーシアードで男女通じて初のメダルとなる銅メダルを獲得した水球日本代表「ポセイドンジャパン」女子の鈴木琴莉(ことり)=秀明大、20歳。ともに主将として心掛けるのは「自分らしく」。自然体だからこそ仲間の信頼を勝ち得ている。【構成・田原和宏、村上正】

    コミュニケーションを意識

     ――初対面ということで、お互いに自己紹介を。まずは名前の由来から。

     鈴木 水球の鈴木琴莉です。琴莉という名前は小さい頃は嫌だったのですが、皆さんに親しみを持ってもらえるようにと付けたそうです。

     杉本 琴莉? かわいい。新体操の杉本早裕吏です。物事を正確に早く理解でき、おおらかで豊かな社会に貢献できる人に育つようにという意味が込められているそうです。

     ――競技の紹介、魅力は。

     杉本 新体操は個人と団体がありますが、私たちは団体のためのチームです。団体種目の演技は2分半。曲に合わせてボールやフープなどを使って点数を競います。

     鈴木 水球の練習の一環で水中の動き、フットワークを身につけるために、シンクロナイズドスイミングの元選手を呼んで練習しています。水球の動きはばらばらなので、隣の人と手の高さを合わせたり、動きをそろえたりというのが全然できなくて。新体操もみんな一緒のことをするじゃないですか。すごいですよね。

     杉本 難しいですね。タブレット端末の「iPad」(アイパッド)で撮るなど研究して動きを合わせています。

     鈴木 (手具を)ピンポイントで投げないといけないのですよね。ちょっとでもずれると減点。そういう感覚は私たちにないので。ところで、水球は見たことありますか。ハンドボールやサッカーとも似ていますが、「水中の格闘技」とも呼ばれています。つかみ合いもあって激しい競技です。

     杉本 見たことありますよ。実は私、泳げないんですよ。最近ちょっとは泳げるようになりましたが。(巻き足と呼ばれる)足を水のなかでバタバタする動きとか、その中でボールを投げるのは考えられないです(笑い)。

     鈴木 陸でこんな難しいことをしていることも考えられないです(笑い)。

     杉本 お互いですね。

     ――互いに日本代表の主将。心掛けていることは。

     杉本 主将になって3年目(2015年2月就任)になりますが、やっぱり団体競技なので雰囲気が大切。新体操は練習時間が長くて、苦しいことが多いです。だからこそ、私が一番心掛けているのは笑顔。笑顔で指示したり、明るい雰囲気を心掛けたりしています。

     鈴木 どのぐらい練習しているのですか。

     杉本 試合時期は違いますが、普段は8時間ぐらい。団体競技なので、1人でも技ができなければ、他の選手も一緒に付き合わないといけない。ひたすら練習します。

     鈴木 主将になって3年目なんですよね。いま大学4年生だから1年生の終わりからですか。すごいですね。

     杉本 新体操は選手が若いので。

     鈴木 私たちも社会人の選手が3人。あとは全員学生です。年上の選手もいたのですよね。

     杉本 いましたね。

     鈴木 やりにくいことはありませんでしたか。

     杉本 最初はね。でも私たちはずっと一緒に生活しているので、敬語を一切なくしています。家族みたいな感じ。そういうところは気を使わなくてよかったなと思います。

     鈴木 私は今年度から主将を務めていますが、最初はなぜ私がという思いがありました。年上の選手に気後れすることはなくて、その点は大丈夫でしたが、私は技術がずば抜けているわけでも、何か特別なアピールポイントがあるわけでもない。「よし行くよ」と言葉で引っ張るタイプでもない。私自身を見てもらうしかない。年下の選手が言いにくいことをこちらから聞いてあげるとか、コミュニケーションを意識しています。団体競技は感情的になりやすいですからね。なぜあの時、あんなプレーしたのよという感じになりがちなので。

     杉本 大事ですね。私たちには「体調ノート」というのがあるのですが、毎朝それを見て、この子はこういう状態なんだと理解して練習場に行くようにしています。

    新体操日本代表の主将を務める杉本早裕吏=太田康男撮影
    水球女子日本代表の主将を務める鈴木琴莉=太田康男撮影

     

    ――理想のリーダー像は。

     杉本 この人というモデルは特にないのですが、私はあまり怒ることができない。怒ってまとめるよりも、柔らかくチームをまとめるタイプですね。やっぱり自分は自分。自分らしく、まとめようとしています。

     鈴木 それは分かる気がしますね。怒るのはきっと簡単。一歩引いてじゃないけど、私も最後にまとめる時にしっかり自分の意見や考えを言うように意識しています。

     ――主将に選ばれた理由は。

     杉本 山崎浩子先生に指名されたわけではなく、いきなり集められて紙を配られて、主将にふさわしい人の名前を書きなさいという感じでした。みんなに選んでもらったので、なぜ選ばれたか分からないです(笑い)。

     鈴木 それが一番いい決め方というか、安心できますよね。

     杉本 先生から言われたの?

     鈴木 はい。私は秀明大でも主将を務めています。加藤英雄監督は秀明大の先生でもあるので。加藤監督がやろうとしている水球の戦術を一番理解しているつもり。監督から言われなくても、私が伝えられることもある。選手で解決できることは、私が中心になって取り組むようにしています。

     ――水球は専用プールがある秀明大が活動拠点で、代表選手も多い。新体操は毎日、生活をともにしている。集団生活の楽しさ、難しさは。

     鈴木 新体操は年間の半分はロシアにいるのですよね。

     杉本 コーチがロシア人なので。向こうに行って練習することが多いです。

     鈴木 私たちも寮生活なのですが、もう話をしなくてもお互い分かりますね。

     杉本 分かります。今日は機嫌が悪いなとか(笑い)。

     鈴木 選手寮に談話室があって、そこで夕食を食べたり、練習が終わって集まったりするのですが、その時間が好きです。テレビを見ているだけの時もありますが、今日の練習はきつかったとか振り返りながら、ご飯を食べている時間が好きですね。

     杉本 同じですね。私たちもずっと同じ場所で生活しています。寝泊まりもお風呂も同じ。テレビを見るのも、何をしているわけでもないけれども落ち着きますね。みんな妹みたいでかわいいですから。たまに髪を結い合ったり、オフの前日は明日の服を決め合ったり。この服どう思うみたいな。家族みたいですね。

     ――選手は家族のようでもあり、ライバルでもある。代表争いの厳しさは。

     杉本 試合に出られない選手たちは悔しい思いがあると思いますが、表には出さないで「頑張ってね」と試合に送り出してくれる。近くで応援してくれるからこそ、私たちも頑張れます。大きな存在だと思います。

     鈴木 それまで一緒に練習しているわけですからね。

     杉本 そうですね。本当にぎりぎりになって、今回の試合はこのメンバーで行くというのが決まるので。

     鈴木 私たちは13人。交代は何回もできますが、試合に出場しているのは7人。ベンチに戻ればドリンクを出してくれたり、「さあ行くよ」と声を出してくれたり。ベンチにいる先輩は悔しいと思っているはずだが、そんな姿は見せない。だから雰囲気がとてもいい。私がベンチにいる時も、雰囲気や流れが悪い時ほど「ここもう1本いくよ」とか声を出すことを意識しています。

     杉本 似ていますね。やっぱり盛り上げることって大切ですよね。

     鈴木 空元気でもいいから、盛り上げることは大事だと思います。

    足りないものは何かで補う

     ――新体操のロシア、水球のハンガリーなどお家芸と呼ばれる強豪とどう戦っているのか。

     杉本 私はロシアで長期合宿しています。周りには小さな子もいますがやっぱり違う。ロシアは新体操王国なので。小さな時から基本をしっかりたたき込まれる。小さな頃から体もできているみたいな感じ。日本人はそこから違うし、スタイルも足が長くて顔は小さい。そこは勝てない。日本人が得意とするのは同時性。だから、その動きを極めようとしています。ロシア人は苦手だと思うので。

     鈴木 同時性? 動きをそろえるとか?

     杉本 そうですね。さっき話に出たシンクロみたいな。

    新体操日本代表の主将を務める杉本早裕吏=太田康男撮影

     鈴木 いくら1人がきれいでも、それがばらばらではね。水球も体格差が本当にすごくて。体重は食事で大きくすることはできるが、身長はかなわない。海外の選手は止まってプレーすることが多い。ポストプレーといって、ゴール前に大きな選手にボールを集めて攻撃するが、身長の低い私たちはそれができない。だから、守備でボールを奪い返したら、泳いでその勢いのままシュートに持ち込む。カウンター攻撃というのですが、止まったら水着を持たれるなどして動けなくなる。自分たちに足りないものを何かで補おうとするのは同じ。男子はリオ五輪に出場して「パスライン・ディフェンス」(ゴールと選手の間に入って守備をするのではなく、相手選手の前で守備をしてパスを封じる守備)と呼ばれる日本独自の戦略があるのですが、女子も取り入れています。外国選手と同じことをしていても勝てないから。

     ――新体操は世界選手権の団体総合で銅メダル。42年ぶりの快挙だった。水球もユニバーシアードで男女通じて初のメダル。快挙の要因は。

     杉本 練習の時からうまくいっていた。私たちは毎日、ミスしない演技を午前中に3本、午後に3本できるまでやるのですが、世界選手権はすんなりできた。リオ五輪の時はそれができなくて、ひたすら練習していました。練習がうまくいったからこそ、本番もそのままの気持ちで臨むことができたのかな。

     ――4位のイタリアとはわずか0・025点差。強豪国の演技を待つ間の気持ちは。

     杉本 自分たちの演技をするということだけを考えていたので、演技が終わってほっとしました。目標のメダルが見えたかなとも思いましたが、まだ強いチームはたくさん残っていたので、ぎりぎりまで分からなかった。試合とは違う緊張感がありました。

     ――水球も3位決定戦は予選で負けたロシアが相手。

     鈴木 相手に対応するというよりも、まずは自分たちの水球。心掛けたのは「共通意識」。予選でも対戦したので、どんな小さな事でもいいから相手選手の特徴を書き出して、この選手は何が強みで、何が苦手とか。チームで話し合ったのが大きかった。

     ――最後の有馬優美選手(東京女体大)の得点は鈴木選手の意表を突くパスから。

    水球女子日本代表の主将を務める鈴木琴莉=太田康男撮影

     鈴木 タイムアウトを取って、少し話し合う時間がありました。加藤監督の指示は「パスを回して様子をうかがえ」というものでしたが、相手もそれを予想していると感じました。有馬選手のシュート力は世界的にもレベルが高い。だから、有馬選手にパスを回すのではなく、シュートを打っていいよと。そしたら、試合再開後の速攻が決まった。結果オーライでしたが、大事な場面でそうやって打てる選手はいない。有馬選手のシュート力は私たちも信頼していたから。

     ――リオ五輪で新体操はメダルを狙ったが8位。水球も男子は32年ぶりに五輪出場権を得たが、女子の初出場は遠かった。

     杉本 リオ五輪はメダルを狙っただけに、悔しかった。本当はリオ五輪で現役を終わろうと思っていたのですが、このままではやめられない。次の五輪が東京で開催されるということもあり、もう1回チャレンジしたくなりました。リオ五輪から2週間後には次の代表選考があり、ゆっくり考える時間はありませんでしたが、今年は世界選手権でメダルを取れました。あきらめないでやってきてよかったなと思います。

     鈴木 リオ五輪はアジア予選で中国に負けました。その試合で私が1本外したシュートがあるのですが、それが忘れられません。シュートが決まっても結果は変わらなかったかもしれませんが、水球が嫌いになるような時期もありました。世界最終予選にも挑みましたが、リオ五輪に出場はできませんでした。リオ五輪を逃して競技をやめた先輩もいます。今までいろんなことを教えてもらった先輩たちのためにも、東京五輪で活躍したいという思いがあります。そのためには、ひとつひとつの大会で体格差のある相手にも勝っていかないといけない。

    東京では一番いい色のメダルを

     ――最後に改めて東京五輪に向けた思いを。

     杉本 せっかく日本で五輪が開催されるのだから、これまで支えてきてくれた方々に一番いい色のメダルを見せたいです。もう3年を切った。一日一日を大事に過ごして、東京では自信を持って踊りきりたいと思います。

     鈴木 東京五輪世代と言われますが、ひとつひとつの積み重ねが大事。東京五輪で水球を見たい、応援したいと思ってもらえるように、これからの大会でひとつひとつ結果を残していきたい。水球を知ってもらえるような結果を残すことが必要かなと思います。日本は開催国枠が与えられる可能性もありますが、結果にはこだわりたいです。日本で開催されたから出場できたではなくて、世界と対等に戦えるチームになりたい。

    新体操日本代表主将の杉本早裕吏(右)と水球女子日本代表の鈴木琴莉(左)。初対面だったが、主将同士すぐに打ち解けた=東京都北区で2017年11月8日、太田康男撮影

    すぎもと・さおり 愛知県出身。5歳から競技を始め、高校2年で代表入り。主将として臨んだ昨夏のリオデジャネイロ五輪では団体で8位入賞。さらに今年の世界選手権では団体銅メメダルと種目別で計3つのメダル(銀1、銅2)に輝いた。日体大4年。

    すずき・ことり 山形県出身。3学年下の弟の影響で小学5年から水球を始める。大学1年から代表入りし、今春から主将を務める。日本選手権は2度の優勝を経験。今年8月のユニバーシアード夏季大会では男女通じて初のメダルを獲得した。秀明大3年。