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余録

その昔、サケが川を上ってくる季節に1日漁を休み…

 その昔、サケが川を上ってくる季節に1日漁を休み、酒宴を開いて大騒ぎをする地方があった。その日に「耳ふさぎ餅」という餅をついたともいう。耳にすれば死ぬといわれた声が聞こえないようにしたのだ▲その声の主は「鮭(さけ)の大助(おおすけ)」で、サケの一族の王である。川を上る時には「鮭の大助、いま上る」と大声でくり返し叫ぶ。それを聞いた人間は3日と生きられないといわれた。同じような言い伝えは東北地方や新潟県に広く分布している▲この伝承、昔の人がサケの資源保護のために休漁日をもうける知恵だと見抜く方もおられよう。列島に暮らしてきた人々が縄文時代から貴重なたんぱく質の供給源としてきたサケである。その霊力にも一目置かれたのは当然であろう▲サケの不漁が伝えられている今シーズンである。秋サケの定置網漁の主要漁場である北海道では24年ぶりの不漁だった昨年をさらに大幅に下回る漁獲量という。イクラの品不足や値上がりも目立ち、年末年始の食卓をも直撃しそうだ▲おかげで人工ふ化施設に忍び込んでサケの腹を割き、卵だけを抜き去っていくイクラ泥棒が頻発した。捨てられた大量の死骸、そして人工ふ化事業への打撃を鮭の大助が知ったら、どんなたたりがあるかと人ごとながら恐ろしくなる▲この不漁、日本近海に戻ってきたサケが稚魚だった3~4年前の海水温の影響らしい。ただ地球温暖化もからむ海洋環境の変化には分からぬことが多い。大助の叫びに耳をふさいでいる時代ではなくなった。

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