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社説

危機の社会保障 「働けど貧しい」 支える側がやせ細っていく

 日本の失業率は、先進国でも最低の2%台だ。欧州には10%を超える国もあり、世界がうらやむ「完全雇用」を実現している。しかし、働く人々はうれしそうではない。

     国税庁によると、民間企業で働く社員やパートらが昨年手にした給与は平均約422万円で前年より1万円以上多かった。とはいえ、世界経済が一気に冷え込んだリーマン・ショックの前年2007年の約437万円には届いていない。

     そして、雇用形態による格差がある。正社員は約487万円で非正規社員は約172万円と、立場の違いが315万円の差を生んでいる。正規・非正規の分類が始まった12年以降、格差は年々広がっている。

     厚生労働省の調査によると、働く人の数はこの間、5161万人から5391万人に増えた。だが、企業はもっぱら低コストの雇用拡大に力を入れ、非正規が1816万人から2023万人に増加している。

    一人親世帯の貧困50%

     政府が民間に正規雇用増や春闘での賃上げを働きかけ、圧力をかけても限界がある。4年連続のベースアップは、経団連加盟の大手企業の正社員に限った話なのだ。

     そして、年172万円あれば、将来の生活設計を描けるかという現実問題が立ちはだかる。

     厚労省は「国民生活基礎調査」で日本の貧困状況を明らかにしている。15年の相対的貧困率は3年前の16・1%から15・6%に下がった。だが、一人親世帯に限れば50・8%と経済協力開発機構(OECD)加盟国で最悪の水準にある。

     この調査は生活の状況も聞いており、母子家庭では38%が「貯蓄がない」と答え、「生活が苦しい」は83%にのぼる。OECDによれば、日本の一人親世帯は親が働いていても貧困に陥る率が高く、多くの国でそうした世帯の貧困率が10~25%なのに比べ対照的だという。

     困窮を象徴する悲劇が3年前、千葉県内で起きた。40代の母が中学2年の娘を殺した事件である。

     給食センターのパート収入と児童扶養手当をあわせ手取りは月約12万円。だが、娘に不自由をさせたくない思いで制服や体操着を買うために借金をする一方、県営住宅の家賃1万2800円を滞納した。

     裁判では、勤め先に「掛け持ちのアルバイトは無理と言われていた」と話し、生活保護を相談した市役所では「仕事をしているなどの理由で断られ頼れなかった」と説明した。

     部屋を明け渡す強制執行の日、心中するつもりで犯行に及んだ。

     身勝手な動機や無知を責めることはたやすい。県や市の対応にも問題がある。しかし、なぜ、こうした悲劇が生まれたかを政策面や制度から考える必要はないだろうか。

    社会の分断、不安定招く

     10月の衆院選では、ほとんどの政党が公約に貧困問題への取り組みを盛り込んだ。

     「貧困の連鎖を断つため」

     「格差と貧困の是正」

     「子どもの貧困対策を強化」

     政治的な立場を超えて共通認識になったことが、問題の重さを裏付けている。かつてのように「自己責任」と突き放すのではなく、放置すれば社会保障制度自体が危ういという意識が広がりつつある。

     総務省の調査によると、昨年の時点で親と同居する35~44歳の未婚者は全国に288万人いる。うち52万人は経済的にも親に依存し、潜在的な貧困層と言える。

     「働けど貧しい」世帯も、親に生活を頼る層も、日々の暮らしを維持するのに手いっぱいだ。社会保険料を負担するなど、制度を支える側としての役割を期待するのは難しい。

     さらに貧困世帯の多くは、子どもの進学・教育の機会が閉ざされるという不安が強い。「働けど貧しい」が次世代に引き継がれる悪循環が広がれば、支える側はますますやせ細るだろう。

     欧米は1990年代から低所得の労働者「ワーキングプア」の問題について国際会議などで議論を重ねてきた。社会保障の持続性を損ない、社会の分断や国の不安定化を招くと考えたためだ。

     そして、税制や社会保障手当の仕組みなどを使って、問題解消を図ろうとした。だが、成果はおぼつかず、いまだ試行錯誤である。

     世界に先駆けて超高齢化を迎える日本にとって手本はない。長期的な視点に立った方策に、早急に取り組まなくてはならない。

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