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舞台をゆく

匂い立つ銀幕の名残 北九州市(映画「グッバイエレジー」)

大小の船が行き交う夕暮れの関門海峡=北九州市門司区で
映写機や映画ポスターが並ぶ松永文庫展示室=北九州市門司区で

 夢を追って一度は捨てた故郷へ、60歳を過ぎた映画監督の晄(あきら)が戻ってくる。きっかけは少年時代の親友、道臣(みちおみ)の死。彼の生きた証しをたどりながら、晄は友を主人公にした映画の脚本を書き始める--。映画への熱い思いを背景に、残された人生をどう生きるのかという万人に共通のテーマを描いた「グッバイエレジー」(2017年3月全国公開)。その舞台となり、「映画の街」としてさまざまな映画のロケが行われている北九州市を訪ねた。【倉田陶子】

    「映画の灯をともし続けたい」と話す映画監督の三村順一さん(左)と小倉昭和館館主の樋口智巳さん=北九州市小倉北区で

     11月半ば、JR小倉駅前には冷たい北風が吹いていた。1600年代に築かれた小倉城までは歩いて15分ほど。九州各地へ通じる街道の起点として、城下町は大いに栄えたという。七五三に合わせて隣接する神社を訪れた親子連れや外国人観光客らが、城を背景に記念撮影を楽しんでいる。

     城の脇を流れる紫川の対岸、旦過(たんが)市場を通り抜けて脇道へ。市場の裏に位置する映画館「小倉昭和館」は、中学生の晄と道臣が将来の夢を語り合い、憧れの銀幕スター・赤木圭一郎の主演作品に夢中になるシーンや、晄が昔なじみの女性館主を数十年ぶりに訪ねる場面など、劇中で重要な役割を果たしている。

     1939年創業で、スクリーンは二つ。2本立てで入れ替えなしという昔懐かしい映画館の3代目館主、樋口智巳さん(57)は「お客様も映画関係者も、昭和館のことを大事に思ってくれるのがありがたい」と話す。60年代、多くの客が詰めかけ、劇場が沸く瞬間を見て育った。家業を継ぐつもりはなかったが、2009年に来館した女優、有馬稲子さんに「あなたが頑張らなきゃ」と背中を押された。地元の美術館の展示に合わせた作品を上映したり、映画に登場する菓子を販売したり、「プラスアルファの楽しみ」を提供したいと、劇中の女性館主と同じように日々、奮闘している。

     晄役のモデルで、映画の監督・脚本を手掛けた三村順一さん(69)が近くの喫茶店で待っていてくれた。北九州で生まれ育ち、東京や米国で映画の仕事に携わってきたが、年を重ねるごとに「古里に帰って映画を作りたい」という思いが強くなった。故郷での映画撮影は今作が初めて。次回作は小倉が舞台で、来年5月にも撮影に入る。「昭和の薫り漂う北九州が登場する映画を撮りたい」と語る言葉の端々に、映画への愛と故郷を大切に思う気持ちがあふれていた。

     人を刺して道を踏み外した道臣は、罪を償った後、門司で漁師として働き始める。門司港レトロ地区には明治や大正、昭和初期の古い建物が数多く残る。その一つ、1929年完成の「旧大連航路上屋」の中にある映画・芸能資料館「松永文庫」は、「映画の街・北九州」にとってシンボルのような場所だ。この日は、北九州市に隣接する福岡県中間市出身で日本映画界のスター、高倉健さんの資料が展示されていた。

     外へ出ると、港の向こうに九州と本州を結ぶ関門橋が見えた。1日500隻もの船が行き交う海峡の街で、道臣は恋をして結婚。子どもにも恵まれ、幸せな日々を過ごすが、不幸な事件で突然、命を落とす。

     道臣の足跡をたどる旅の最後に、映画作りを決意した晄。人情にあふれた男たちの生き様を、橋が静かに見下ろしているようだった。


    撮影の名所から観光都市へ…映画・芸能資料館「松永文庫」室長 松永武さん(82)

     北九州へは、ハリウッドやアジアといった海外からも映画やテレビの撮影に来ていただいています。世界的な交流を図り、映画などを起爆剤として観光都市を目指す流れが軌道に乗り始めています。

     私が幼い頃、人々の社交場は銭湯でした。脱衣所に掲げられていた映画のポスターをもらったのが、映画資料を集め始めたきっかけです。「集めた」というより「集まった」という方が正しいかもしれません。ポスターやパンフレットなど多くは寄贈品。映画監督志望だったことで映画関係者と知り合いになり、用済みの物を送ってもらったこともあります。資料が資料を呼び、現在約5万点。映画史からこぼれ落ちた、大衆向けの資料がそろっていることにこそ価値があると自負しています。

     北九州で撮影が行われた映画やドラマは330以上。皆さんが見たことのある作品もあるはずです。一度、北九州へ足を運んでみてください。

     松永文庫は入場無料。電話093・331・8013。


    アクセス

     JR小倉駅へは、新大阪駅から山陽新幹線のぞみで約2時間10分。JR鹿児島線に乗り換え、門司港駅へ約15分。

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