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中国でも増えてきた“過労死”

 最近のニュースを見ていると“働き方改革”というキーワードがよく出てきます。働き方改革とは、働く人の立場に立って労働環境や、ライフスタイルを根本から変革しようとする取り組みで、去年の夏ごろから官民を挙げて本格的に始まりました。しかし、これまで社会に根付いてきた“企業風土”や“労働習慣”を、変えていくのはそれほど簡単ではありません。特に“過労死”をめぐっては、去年から今年にかけても相次いでニュースで報じられるなど、問題の根深さが際立っています。

     実は、いま中国でも“過労死”が問題になっています。5年ほど前から国内のさまざまなメディアで、この問題が報じられるようになりました。一説では、中国国内では年間60万人が過労死で亡くなっているともいわれています。原因の一つとされているのが“長時間労働”の増加です。こういったニュースを見るたびについつい日ごろ忙しいと言っている友人に連絡を取ってしまいます。先日も、テレビ番組のディレクターをしている友人と電話で話していた時、仕事のため1日2,3時間しか寝られなく、3日目に胸が苦しくなったとぼやいていました。これを聞いて私は、思わず強い口調で「これ以上働かないでください」と言ってしまいました。

    仕事との相性が合わないと… 私の失敗談

     “長時間労働”も怖いのですが、日々の小さなストレスだって、積み重なれば無視できない悩みに変化します。仕事との“相性”の良しあしも、体に影響があるのです。実は、私には仕事選びにまつわる失敗経験があります。私はどちらかと言えば好奇心が強い性格で、仕事でも変化や刺激を求めてしまいます。毎回違うやり方を試しながら、ハプニングが起きたりするほうが、仕事を終えた後のやりがいや達成感を得やすいと、経験上知っています。こういう性格の私が、ある時、事務関係の仕事に就くことになりました。

     具体的には、毎朝9時までに出勤し、パソコンの画面を開き、データを入力し、メールをやり取りし、資料作りなどをします。自分の席から見える窓の外の景色も、当たり前ですが毎日同じ。夕方5時になったら仕事が残っていても残業はせずに、帰路につきます。この仕事の話をいただいた時、私は、あまり変化がなくて自分に向いていないのではないかと思い友人に相談をしました。友人は、安定していて待遇もいいのだからぜいたくを言うべきではない、と私をたしなめました。私も、それはそうだと納得して仕事を始めました。すると、徐々に体調に変化が表れてきました。倦怠(けんたい)感と疲労感が抜けず、体重が増え、イライラするようになりました。こんなことでは情けないと思い、通い続けましたが、今度は毎朝気分が落ち込み、職場に向かうのがつらくてしかたがなくなりました。ここまで読んで多くの方は「定時で帰れるし、いい仕事じゃないか」「段さんはぜいたくだなあ」と思われたことでしょう。ですが、私にとってはこの仕事は体調を崩してしまうほど、向いていませんでした。結局、つらい気持ちで辞めざるを得ませんでした。

     私の例は少し個人的すぎるのかもしれませんが、日本でも中国でも、今自分が就いている仕事との“相性”が悪く、つらいと感じている人がいると思います。きっと私よりももっともっと過酷な状況で、悩んでいる人も多いに違いありません。

    日本と中国の働き方の違い

     ここまでお話しした“長時間労働”や仕事との“相性”以外にも、私たちがストレスを感じる原因はまだまだあります。異なる文化・習慣を持った相手と仕事をするときに生じる“誤解”もその一つです。例えば日本と中国では、働き方の文化や価値観が異なります。ですから、お互いによく知らないまま一緒に仕事をすると、トラブルになることがあります。

     これは実際私が体験したことですが、ある時私は日本のテレビのロケで中国へ行きました。現場で指示を出すのは日本人のディレクターで、撮影するのは中国人のカメラマンでした。撮影が始まると、想定外の事がいろいろと起き予定の昼を過ぎても撮影が終わりませんでした。正午を過ぎて13時、14時になってもまだ終わらず、15時に差し掛かったところでやっと終わって、お弁当が配られました。その時、中国人のカメラマンをはじめ現地の中国人スタッフたちが一斉に怒り始めました。

     日本人の若いディレクターには、なぜ彼らが急に怒り始めたのかがわかりませんでした。ですが、私にはすぐにピンときました。中国人のスタッフたちは、“冷たいお弁当”を出されたことに腹を立てたのです。日本の方にはわかりにくいと思いますが、中国では今も漢方の考え方が根付いていて、冷たい食べ物は体を害するという考え方が主流です。頑張って空腹に耐えて仕事をしたにもかかわらず、体に良い“温かい食事”でねぎらわれることなく、“冷たいお弁当”を出されたため、文字通り“冷遇”されたように彼らは感じたのです。その時、気を利かせた現場の中国人の通訳の方が、ディレクターには悪気はなく、お弁当が冷えているのも日本では当たり前のことで、まったく悪気はないということを、中国語で説明し始めました。最初は怒っていた中国人スタッフたちも、説明を聞いて、渋々ながら納得しました。ロケの最終日、ディレクターは改めて温かい鍋料理を中国人スタッフたちにごちそうし、お互いに気持ち良く撮影を終えることができたのです。

    働くことで知る 人は一人では生きていけないということ

     日本と中国では働き方に違いはありますが、いったん仕事を持てば、一生懸命取り組まなければならないことは同じです。では私たちは、そもそも何のために働くのでしょうか。私個人の考えでは、二つの理由があります。一つ目は、自分が生きるため。二つ目は、仕事をすることで誰かの役に立つため、です。

     人は生きている以上、ご飯を食べなくてはならないし、服を着なくてはならないし、どこかに住まなくてはなりません。そのためには最低限のお金が必要です。働くとは、そうした日々の糧を得、生きていくために必要に迫られてすること、という側面があります。一方で、見方を変えると、私たちが生きていくための日々の糧は、誰かが私たちに提供してくれているものだともいえます。食物を生産し、服をデザインして縫製し、家を設計して資材を組み立て建設する人たちがいてくれなくては、私たちはこれらのものを手に入れることはできません。人間は一人では決して生きていけず、誰かの支えが必要です。だから自分も働くことで責任を負い、誰かが求める何かを作り出したり、サービスや娯楽や情報を提供したりするなど、自分以外の誰かの役に立たなければならないのです。

    自分を守り 他人を気にかける“人情”を

     人は誰でも、働くことでたくさんの人とつながり、私たちが暮らす社会のさまざまな役割を担います。だからこそ、私たちみんなでお互いに、支え合っていく仕組みが必要なのです。冒頭にお話しした“過労死”の問題ですが、日本では官民を挙げて働き方改革の議論が始まり、一部の企業で勤務制度を見直す取り組みなども始まっています。一方中国では、具体的な取り組みには至らないながらも、ニュースなどで報じられない“過労死”の事例を、家族や友人が“ブログへの書き込み”や“SNSへの投稿”という形で共有しあう動きは始まっています。一人一人の声は小さくても、絶えず皆が関心を持ち、胸の内を伝え合い、健康状態を確かめ合うことで、誰かを救えるかもしれない。そんな思いを私は感じます。

     仕事でストレスをため込み、命まで脅かされる人を一人でも減らすために、私が大事だと思うのは、働くのはいつでも生身の人間なのだと、私たち一人一人が再確認することではないでしょうか。あなたの家族や友達、恋人も、それぞれに仕事を持ち、働く人でもあるでしょう。すぐに顔を思い浮かべることのできるその人たちの中にも、人知れず、仕事にまつわるさまざまなことに思い悩んでいる人がいるのかもしれません。仕事の悩みは一人で解決できることばかりではありません。自分を守ると同時に、他人を気にかける。多少おせっかいでも、電話をかけたり、会いに行ったりしてみる。そんな泥臭く、時代遅れかもしれない“人情”こそが、最後に私たちを守る命綱なのだと、私は思っています。

    私は仕事で疲れたとき、散歩したりしてリラックスします♪

    段文凝

    (だん・ぶんぎょう)中国・天津市出身。2009年5月来日。同年まで天津テレビ局に所属。2011年4月より、NHK教育テレビ『テレビで中国語』にレギュラー出演。(2017年3月卒業)2014年早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコース卒業。日中間を行き来し講演活動を行い、「かわいすぎる中国語講師」として幅広い層に人気を得ている。2015年、2016年に毎日新聞夕刊「ひ・と・も・よ・う」で取り上げられた。2017年現在、NHKWORLDのラジオにレギュラー出演。舞台や映画などを中心に女優としても活躍している。

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