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メディアの戦後史

記者生命絶った「不当逮捕」 繰り返す権力の介入

立松和博記者と社会部で同僚だった村尾清一さん=東京都杉並区で、川名壮志撮影
立松和博記者のインタビューを掲載した月刊誌「世界」1958年1月号=岩波書店提供

 「アイツは死んでもしゃべらないと思った。取材源の秘匿は記者のイロハのイだ」。95歳の元読売新聞記者、村尾清一さんは同僚が記者生命を絶たれることになった事件を忘れていなかった。

     1957年は31カ月続いた神武景気が終わり、岸信介内閣が発足した年だった。10月18日、読売新聞(東京本社版)朝刊社会面にスクープが出た。「売春汚職 両代議士 収賄の容疑濃くなる」。自民党衆院議員2人を名指しし、東京地検特捜部の捜査内容をつかんだとする記事だった。

     書いたのは社会部の立松和博記者。裁判官の父を持ち、検察幹部に深く食い込んで昭和電工疑獄(48年)、造船疑獄(54年)でスクープを連発した。事態は思わぬ方向に展開する。両議員が読売新聞幹部や記者らを名誉毀損(きそん)容疑で刑事告訴し、記事の6日後、東京高検が立松記者を逮捕したのだ。憲法によって報道の自由が保障される中、極めて異例のことだった。

     高検の岸本義広検事長は記者が「ニュース源を明らかにしなかった」ことを逮捕理由の一つに挙げ、検事3人が「検察内のネタ元を明かせ」と追及した。

     読売新聞は「不当逮捕だ」と抗議。日本新聞協会も抗議声明を出した。毎日新聞は社説で「報道の自由に対する不当な圧迫」と検察を批判した。逮捕の3日後、東京地裁が勾留延長請求を却下。釈放された立松記者はインタビューに「勾留は精神的な拷問だった。(情報源を)明かしたら私の記者生命は終わってしまう。(検事には)最後の誇りまで捨てさせないでくださいと訴えた」と話した(雑誌「世界」58年1月号)。

     立松記者は信頼を寄せる検察幹部に取材し、同僚の目の前で電話を入れ「逮捕間近の政治家」を確認していた。ところが捜査はその通りに進まなかった。

     2カ月後の12月18日。読売新聞東京本社版は「両代議士 事件には全く無関係」の記事を掲載する。前回と同じ社会面5段見出し。誤報を認めたのだ。両議員は告訴を取り下げ、立松記者は不起訴となったが、会社から懲戒休職の処分を受けた。記者として日の当たる場所に戻ることはなかった。

     「華やかな立松の記者歴に付き合っただれが、こういう彼の姿を予想したであろうか」。社会部の後輩だった作家の本田靖春はこの事件を描いたノンフィクション「不当逮捕」にそう記した。

     何があったのか。本田は法務・検察当局内の検事総長の座を巡る派閥抗争を挙げる。一方が相手側から捜査情報が漏れたことを示し、逮捕した記者に漏らした者を供述させる意図があったとの見立てを示し、捜査を批判した。

     真相は30年後、汚職事件捜査にかかわった後、検事総長を務めた伊藤栄樹が回想記「秋霜烈日」に明かした。「(以前に読売新聞に)抜けた情報全部にタッチした人は、赤煉瓦(れんが)(法務省を指す隠語)にも一人しかいない。そこで(捜査関係者の一人が)思い切ってガセネタを一件、赤煉瓦に渡してみた。たちまちそれが(立松記者に)抜けたのが例の記事だった」。伊藤は本田の指摘を「比較的正確だ」とも書いた。

     伊藤を知る滝鼻卓雄・元読売新聞東京本社社長(78)は「元検察トップが身内の恥をさらした。あの一件は喉に刺さった小骨のように、ずっと心に引っ掛かっていたのではないか」と推しはかる。

     事件が起きたのは政界の保守合同が実現し55年体制が確立した直後だった。社会部員だった村尾さんは「政権によって『知る権利』を主張する報道への締め付けが厳しくなっていた。政治家にとって厄介なマスコミを、圧力を使って抑えこもうとした象徴的な出来事だった」と振り返る。権力がメディアを封じ込めようとする歴史はその後も繰り返されている。

     立松記者は真相を知ることなく5年後に亡くなった。39歳だった。【川名壮志】=次回は来年2月1日掲載予定

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