メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

論点

日本の非核政策

各国の核弾頭保有数

 核兵器禁止条約の採択に貢献した国際非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)へのノーベル平和賞授賞式。「ヒバクシャ」が世界に平和の尊さを訴えた。米国の「核の傘」に頼る日本政府は「ゴールは共有している」としながらも条約に否定的だ。唯一の戦争被爆国・日本の非核政策はどうあるべきか。

    「戦争被爆国」外交の力に 川崎哲・ICAN国際運営委員

     ICANの一人として10日のノーベル平和賞授賞式に参加した。参列した日本原水爆被害者団体協議会の田中熙巳さん(代表委員)と藤森俊希さん(事務局次長)に加え、日本から高齢の被爆者ら約30人が自費で駆け付けてくれた。広島の原爆資料館から遺品を運び、翌11日には「被爆ピアノ」の演奏ができたのも印象的だった。この日を迎えることができたのは、多くの人たちの協力があってこそだ。

     今回の受賞は今年7月に国連で採択された「核兵器禁止条約」を作り出した地球市民に対して、ノーベル賞委員会が「しっかりと前に進むように」と応援してくれたものだと思っている。ICANはあくまでも運動体であって、特定の団体や個人ではない。これまで長い時間をかけて核兵器の廃絶運動に取り組んできた世界中の市民こそが本当の受賞者なのだ。

     とりわけ、日本で廃絶運動の中心になってきた広島と長崎の「ヒバクシャ」の存在は大きい。授賞式でフィンICAN事務局長と一緒に、広島で被爆したカナダ在住のサーロー節子さんがメダルを受け、演説したことがそれを象徴している。「核兵器は必要悪ではなく絶対悪。禁止条約を核兵器の終わりの始まりにしよう」というシンプルだが率直な彼女の演説は多くの人の心をとらえたことだろう。

     授賞式によって、反核運動の中で広島、長崎の占める位置がいかに重要かということを改めて世界が実感したと思う。とはいえ、ICANの活動は過去を振り返るだけでなく、基本的には未来に向けたものだ。今なお、世界では中東や朝鮮半島、インド・パキスタンなどで核の脅威が続いている。今回の受賞は「功労賞」ではなく、これから始まる新しい時代への「キックオフ」だととらえている。

     日本政府が禁止条約に否定的な態度を変えようとしない点は残念だ。国民の多くが核兵器に反対しているのに、外務省を中心とした政府だけが「核抑止」を理由に世界の大勢に背を向けている。政府は「核保有国と非保有国の橋渡しをする」と説明するが、これまでにどんな橋渡しをしたというのか。唯一の戦争被爆国としての責任をきちんと果たすべきだろう。

     北朝鮮情勢などもあって若い人の中には「米国の核の傘に入っているから仕方ない」と漠然と思っている人もいるかもしれないが、ぜひ広島、長崎を訪れ、被爆された方たちに会ってほしい。今なお16万人の被爆者が生存していて当時の話を聞くことができる。

     11月末、その広島で、核廃絶への方策を話し合う政府主催の「賢人会議」が開かれた。NGOとの対話の場で「どうか禁止条約の邪魔だけはしないでほしい」と政府に伝えた。広島出身の岸田文雄前外相の肝いりで開かれた会議だ。少なくとも核軍縮が進むような方向性だけは打ち出してほしい。「戦争被爆国」という日本外交の宝を持ち腐れにならないよう活用すべきだろう。希望は捨てていない。

     禁止条約とノーベル平和賞で、長い平和の中で眠りかけている日本人に世界が最大級の刺激を与えてくれた。今度は日本人が目を覚ます番ではないか。【聞き手・森忠彦】

    保有国巻き込む必要性 岸田文雄・自民党政調会長

     ICANがノーベル平和賞を受賞したことは歓迎すべき出来事だ。核廃絶に向けたNGOや被爆地、被爆者の取り組みは大変尊いものであり、これからも国際社会に向けて核兵器の非人道性をしっかり訴えてほしい。「核兵器のない世界」を目指すという大きな目標は日本政府も共有している。ただ、皆が同じことをするのではなく、それぞれの立場で果たすべき役割がある。

     核兵器国と非核兵器国、そして非核兵器国同士の対立が深まる中、日本政府の役割は国際社会の対立を解消し、核廃絶に向けて再び協力できる道筋を考えることだ。2015年の核拡散防止条約(NPT)の再検討会議は最終文書すら取りまとめることができなかった。ICANが主導した核兵器禁止条約を巡り、非核兵器国もNPT派と禁止条約派に分裂してしまった。禁止条約制定への努力は評価するが、日本政府は各国の分裂を食い止め、再び協力させる努力をしなければならない。

     核軍縮などを議論する20年のNPT再検討会議に向けて今年5月、第1回準備委員会がウィーンで開かれた。外相が出席したのは日本だけだった。私は「核兵器のない世界を実現するためには核兵器国と非核兵器国を巻き込む議論が必要だ」と訴えた。その上で、核兵器禁止条約交渉に参加しなかった日本が「核廃絶に向けた道筋をどう考えているか」を国際社会に明らかにした。

     日本は核兵器禁止条約をはじめとする法的拘束力のある条約を否定しているわけではない。しかし、核兵器を持っている国が行動を起こさないと、現実は変わらないのだ。日本は核実験全面禁止条約(CTBT)発効促進会議の共同議長を務めていたし、NPTにも参加している。核兵器国を巻き込んだ既存の枠組みを生かし、実際に核兵器の数を最小限まで減らした上で、法的拘束力のある核兵器禁止条約を使って、一気に核兵器のない世界までもっていく。「核兵器禁止条約を使うタイミングを間違えてはいけない」という私の説明は準備委員会の出席者から高い評価を得た。

     11月末、核兵器国と非核兵器国の有識者を広島県に集め、核軍縮について議論する「賢人会議」が開かれた。私が外相時代に設立を提唱した会議で、来春のNPT関連会合に提言を提出することを目指している。国際社会の英知を結集し、出てきたアイデアと日本の取り組みをすり合わせたい。一方で、核兵器を「持たず、作らず、持ち込ませず」という日本の非核三原則は米国の核抑止力を損なうものではなく、堅持すべきだ。

     私は安倍内閣で約4年7カ月にわたり外相を務めた。被爆地・広島の出身で、ライフワークとして核兵器・核軍縮・不拡散に力を入れて取り組んできた。確かに核兵器を巡る現実は前進していないが、単に「禁止」だけを叫んでも事態は動かない。全体のバランスの中で核廃絶に向けたシナリオを描き、より実践的に核廃絶を進めていく--。これこそ他の国には担えない、唯一の戦争被爆国である日本の役割だ。【聞き手・中村篤志】

    中・長期的視点で軍縮を 黒崎輝・福島大准教授

     核廃絶に向けた取り組みには、大別すると、核保有国が核兵器の削減を目指す「核軍縮」と、核兵器を持つ国を増やさないための「核不拡散」の二つがある。日本は非核保有国なので、核軍縮のためにできることは限られている。一方、核不拡散の面ではそれなりに努力してきた。

     核軍縮の進展には悲観的だ。米国、ロシア、中国など主要な核保有国が現在の政権の下で核軍縮に向けて協力するとは考え難い。国際協調に基づく核軍縮が進むためには、少なくとも「核軍縮の推進」で保有国の利害が一致し、保有国同士が関係の安定や改善を望んでいることが必要だ。残念ながら、その条件は整っていない。

     北朝鮮に核兵器を放棄させることも難しいだろう。北朝鮮は核兵器とミサイルの開発に多大な投資をしてきた。開発は進んでおり、よほどのことがなければ放棄するとは思えない。

     北朝鮮の核・ミサイル問題への対応では関係国が対話による緊張緩和と問題解決に向かうよう外交的努力を続けるしかないだろう。そのために、圧力は必要だが、それだけでは北朝鮮を対話のテーブルに着かせることは難しい。時機を見て、北朝鮮が話し合いに応じるなら、こちらも譲歩する余地があるという姿勢を示さねばならない。対話の前提として、核抑止力やミサイル防衛、敵基地攻撃能力といった軍事的手段の限界とリスクを認識する必要もある。

     日本政府は核兵器禁止条約に反対した。「唯一の被爆国」として核廃絶を目指すという立場よりも、米国の「核の傘」に守られている国としての立場を優先した結果であろう。しかし、それによって「唯一の被爆国」という軍縮交渉における日本の外交上の資産が損なわれたとするなら、「もう少ししたたかな外交を展開する余地がなかったのか」とも思う。

     4日の国連総会で日本が提出した核廃絶決議が採択されたが、賛成国は昨年に比べて11カ国減った。核廃絶に対する日本の立場に批判的な核廃絶推進国が増えたことの表れであろう。「唯一の被爆国」として核廃絶に取り組む姿勢をアピールする機会をどう生かすかが問われている。来年以後、政府は決議の内容を再検討してはどうか。核廃絶の進め方を巡って日米間に立場の違いが生じるかもしれないが、米国側の理解を得ることが不可能とは思えない。

     現時点では核軍縮の進展は期待できないが、その状況がずっと続くと考えるのも非現実的だ。オバマ前政権のように核軍縮に前向きな政権が米国で登場する可能性はないか。北朝鮮の体制は盤石か。核兵器禁止条約に否定的な立場を取り続けながら、核軍縮が進みそうになった途端に一転、「唯一の被爆国」として核廃絶をリードしようとしても、日本は信用されないだろう。

     核軍縮が可能な状況を作るために日本ができることは限られている。しかし、将来、可能な状況が生まれた場合に日本が積極的な役割を果たせるよう、目前の状況だけにとらわれず、中・長期的な視点から核軍縮への取り組みを考える必要がある。【聞き手・南恵太】


     ご意見、ご感想をお寄せください。 〒100-8051毎日新聞「オピニオン」係 opinion@mainichi.co.jp


     ■人物略歴

    かわさき・あきら

     1968年生まれ。東京大卒。市民運動や平和活動に従事。2003年にNGO「ピースボート」に入り現在、共同代表。08年から被爆者と世界を回る「ヒバクシャ地球一周 証言の航海」を実施している。


     ■人物略歴

    きしだ・ふみお

     1957年生まれ。早稲田大法学部卒。93年に衆院旧広島1区で初当選。当選9回。消費者行政推進担当相や外相などを歴任し2017年8月から現職。自民党岸田派の会長も務める。=川田雅浩撮影


     ■人物略歴

    くろさき・あきら

     1972年生まれ。法学博士。2009年10月から現職。17年9月から米ウィルソン・センター・フェロー。専門は国際政治学、国際関係史。著書に「核兵器と日米関係」など。

    毎日新聞のアカウント

    話題の記事

    アクセスランキング

    毎時01分更新

    1. 日産会長逮捕 ゴーン神話「数字の見栄え良くしただけ」
    2. ゴーン会長逮捕 日産社長「私的流用、断じて容認できない」 会見詳報(1)
    3. 高校野球 誤審で甲子園行き明暗…終了一転逆転 岡山大会
    4. 全国高校サッカー 県大会 西京、5年ぶり全国切符 高川学園の猛攻しのぐ /山口
    5. 日産 ゴーン会長を解任へ 「会社資金を私的に流用」

    編集部のオススメ記事

    のマークについて

    毎日新聞社は、東京2020大会のオフィシャルパートナーです