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毎日フォーラム・ファイル

不明文化財 国指定の全件追跡調査へ 文化庁

2010年3月に盗まれ今年8月に発見された「木造大日如来坐像」=大阪府警提供

教委、警察、専門家、古美術商と連携

 盗まれたり、戦後の混乱などで所在不明になった文化財について、文化庁は来年度、本格的な追跡調査を行う。国指定文化財の美術工芸品の全所有者に改めて確認してもらうほか、各教育委員会や古美術商、警察などと連携して効率的な発見・確認へのマニュアル化や、真贋(しんがん)鑑定の調査官の迅速な派遣などを検討する。“失われた文化財発見”をめぐっては米国でレオナルド・ダビンチの絵が史上最高値で落札された例もあり、話題性も十分。同庁は新たな観光対象にもなり得るとして所在確認に全力をあげる。

     文化庁によると、絵画や仏像・彫刻、刀剣、工芸品、書跡・典籍、古文書などの美術工芸品で国指定の国宝、重要文化財(重文)は今年9月末現在で1万686点ある。文化財保護法では売買や相続などで所有者が変わったり、保管場所が移ったりした場合には文化庁への届け出が義務付けられている。昨年度は売買で30件、相続で11件など計48件の所有者変更の手続きが行われ、ほとんどの文化財は所在場所などが把握されている。

     しかし、中には盗難や戦後の混乱、相続や売買などの際に新しい所有者が届け出をしなかったなどして行方が分からなくなったケースもある。

     所在不明の文化財はテレビなどで問題となり、文化庁は2013~14年に各教委の協力で当時の国指定文化財全1万524件を対象に所有者に往復はがきを出して所在確認の調査を行った。その結果、所在確認としたものが1万177件、不明が109件、所有者からの返事がなく接触ができないため追加で確認が必要なものが238件あった。文化庁はその後も毎年度、確認作業を進め、昨年度は不明だったもののうち7件が新たに確認され、3件は追加確認で正式に分かり、所在確認ができたものは全体で1万304件になった。

     所在不明は164件で、うち刀剣76件を含む工芸品が最も多く84件、書跡・典籍が37件、彫刻17件、絵画14件、古文書10件--など。理由別では所有者の転居が63件、死去によるものが36件、盗難が30件--などで、所在不明になった時期が古く経緯が分からないものも24件あった。

     文化庁はこれまでの調査後、相続などで新しく所有者になった人が同法の理解不足で届け出をしてなかったり、所在確認とされた中には所有者らの勘違いで実際は不明だったり、さらには新たに見つかっても届け出をしていなかったケースもあるとみている。このため、本格的な追跡調査をする必要があると判断した。

     調査では全文化財を対象に登録されている所有者に文書を出し、文化財を実際に保管されているかどうかを詳しく確認してもらう方針にしている。また、文化庁に寄せられた情報をもとに地元の教委、美術館の学芸員、専門研究者、古美術商、警察などとネットワークを組み、協力体制を確立して発見、確認に至る経緯などをマニュアル化することも検討している。文化庁は効率的に情報を集め、国だけでなく各自治体で不明になっている指定文化財の確認につながる、と期待している。さらに、発見情報が本物かどうかや、保管状態によっては美術的・歴史的・学術的な価値が失われてしまっていないかなどを調べるために、専門の調査官をすみやかに現地に派遣し、確認作業を進めていくことも考えているという。

     刀剣類では、第二次世界大戦直後の1945年9月、連合国軍総司令部(GHQ)が日本の武装解除の一環として集め、東京都北区赤羽の米軍の兵器補給廠に一時保管した「赤羽刀」と呼ばれるものがある。大部分は海洋投棄処分されたとされるが、一部は美術的価値が高いために残され日本に返還されたものもある。所在不明になっている赤羽刀の中には、鎌倉時代の名工・来国俊の作品「蛍丸」として名高い「刀〈銘来国俊/永仁五年三月一日〉」や、「本庄正宗」と言われる鎌倉時代の刀〈無銘(伝正宗)〉」など重文が10件含まれているという。

     また、絵画「紙本著色三十六歌仙切〈(朝忠)/佐竹家伝来〉」と「紙本著色三十六歌仙切〈(素性)/佐竹家伝来〉」は、それぞれ35、36年に重文に指定された。もともと2巻に鎌倉時代の藤原信実が描いたとされる三十六歌仙の絵と後京極(藤原)良経の書とされる短歌が書かれ、佐竹家に伝わっていたが、大正時代に所有者の死去に伴い売却されることになった。しかし、一括では高額過ぎるため遺族が一人一人36枚に分割して売られたもので、それぞれ石川県と京都府の個人が所有していたが、その後所在不明になった。

     「香薬師」とも呼ばれ飛鳥時代の作とされる重文「銅造薬師如来立像」(旧国宝)は、戦時中の43年に所有していた奈良市の新薬師寺から3度目の盗難にあったまま行方は分からなくなった。ところが、右手だけは本体とは別に保管され、15年5月に神奈川県鎌倉市の寺にあることが奇跡的に確認され10月、新薬師寺に返還された。このほか藤原定家の日記、明月記のうち重文の古文書「明月記〈自筆本/寛喜二年秋〉」は85年に盗難に遭い、同「明月記〈自筆本/寛喜二年正月〉」は所有していた美術館が04年に閉鎖、法人解散の際に行方不明になっている。

     一方、10年に大阪府能勢町の寺の収蔵庫の鍵が破られて盗まれた重文の仏像「木造大日如来坐像」を売却しようとした韓国籍の男2人が今年8月、大阪府警に逮捕された事件があった(後に容疑不十分で不起訴)。仏像は平安時代後期の作と見られ、八尾市内のアパートから見つかり府警が回収した。

     12年に長崎県対馬市の神社から盗まれ韓国に持ち込まれた朝鮮・新羅時代の作とされ重文の「銅造如来立像」は、犯人が捕まり、韓国側の裁判の結果、15年に一部が欠損していたが返還された例もある。ただ、同時に盗まれた長崎県指定有形文化財「観世音菩薩坐像」は返還の見通しが立っていないという。

     このほか、重文などには指定されてはいないが、室町時代の画僧、雪舟が描いた水墨画「倣夏珪(ほうかけい)山水図」は84年間所在不明だったが、今年2月に個人が所蔵していることが分かり、話題になった。シリーズ12件のうちの1件で、所在が確認されている他の6件は重文に指定されており、関係者は「いずれ指定される」と話している。現在は雪舟ゆかりの山口市の県立美術館に寄託され10月末から12月10日まで同美術館で展示され、来場者の注目を集めた。

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