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段ちゃんの「知っておきたい!中国のコト」

第9回 元祖・過保護は一人っ子政策で生まれた!?=段文凝

“毒親”“ヘリコプターペアレント”…“過保護”関連ワードの数々

 最近ニュースを見ていてふと気になったものの、すぐに意味が分からなかった単語が二つありました。“毒親”と“ヘリコプターペアレント”です。しばらくして日本人の友人に聞いてみる機会があり、ようやく意味が分かりました。私の理解ではこうです。

     毒親とは子供を自分の所有物のように扱い、子供を守っているつもりで人格否定をしたり自由を奪ったりして、結果的に子供の心理に悪影響を及ぼしてしまう親のこと。ヘリコプターペアレントとは、まるでヘリコプターのように子供の頭上を飛び回って監視し、さまざまなことに口出しをしたり干渉したりして、子供がトラブルに巻き込まれそうになると“急降下”して対処し、過度に世話を焼いてしまう親のこと。どちらも、子供への愛情が少し間違った方向に行き過ぎてしまった親を指す単語でした。

     意味が分かって改めて、どちらの単語にも共通するキーワードがあると気づきました。それは“過保護”です。過保護、というこの単語。中国語にはない言葉ですが、中国でも似たような問題が注目されていた時期が、かつてありました。いわゆる“一人っ子政策”が行われていたころのことです。

    一人っ子政策で注目された元祖・過保護世代“小皇帝”“小皇后”

     “一人っ子政策”とは、1979年から2015年まで中国で行われていた政策の一つです。1組の夫婦に1人の子供だけを認め、2人目からは罰金を科すことで、人口の急激な増加を抑え込むのが狙いでした。高齢化や労働人口の減少が進んできたため、現在は撤廃されています。一人っ子政策が始まった時期は、中国で中産階級や富裕層と呼ばれる人々が増え始めた時期でもあります。鄧小平が打ち出した改革開放路線の波に乗り、豊かな富を得た人たちが、たった一人の自分の子供に過保護に接し、服や食べ物をたっぷりと与えて、学費の高い学校に通わせました。その結果、たくさんの子供たちがわがままに育ってしまったというのです。

     もう一つ懐かしい単語を思い出しました。“小皇帝”です。一人っ子政策で育った子供たちは、男の子の場合“小皇帝”、女の子の場合は“小皇后”と呼ばれることがありました。小皇帝とは文字通り小さな皇帝。小皇后とは、小さな皇后ということです。かつての封建制の時代の皇帝や皇后のように、周りの人々から甘やかされ、自分の思うままにふるまい、わがままを言う子供、というニュアンスが込められています。

    私も一人っ子だったので、両親に可愛がられました。

    私の過保護体験 突然の転校

     “小皇后”世代に当てはまる私自身が、甘えん坊でわがままな子供だったか…・・・は、ちょっとずるいですが別の機会に話すとしまして、過保護に育ったかと言われれば、・・・…そうなのかもしれません。私の学生時代のエピソードを、一つご紹介します。

     私がまだ天津にいたころ、A高校という地元の高校に通っていました。その高校は自宅から自転車で10分の場所にあり、通うのにとても便利でした。高校2年生の頃、両親の仕事の都合で家を引っ越すことになり、通学時間が20分増えて30分になりました。私自身は特に問題なかったのですが、両親はとても心配しました。「体力的にきついのではないか」「交通事故が心配だ」「悪い男性に付きまとわれでもしたら…・・・」。我慢できなくなった両親は、ある時私に「転校してもいいよ?」と切り出してきました。私は当然「仲の良い友達もいるし、通学もさほど苦ではないので今まで通り通わせてほしい」と言いました。しかし、それで納得する両親ではありませんでした。高校2年生になって半年を過ぎ、ようやく学校に慣れてきた春ごろ(※中国は秋学期なので、新学期は9月です)のことでした。急に担任の先生に「後で話があるので、放課後に職員室に来るように」と言われました。私は頭の中で「大変だ…・・何か失敗をしてしまって怒られるのかな」と思っていたのですが、全く予想外の展開が待っていました。

     担任の先生が開口一番私に告げたのはこんな一言でした。「明日から、B高校に転校するんですってね。新しい学校でも元気に勉強してください」。私はその時のショックを今でも忘れることができません。なんと私の両親は、私の通学時間が長くなったことを心配するあまり、自宅から自転車に乗って10分で通えるB高校への転校の手続きを、勝手に済ませていたのです。担任の先生はびっくりしている私の顔を見て「ご両親から何も聞いていないの?」と困惑気味に聞いてきました。私は「はい」と答えるのがやっとでした。

     私も大人になり、今では笑って話せるようになりましたが、当時は仲の良い友達にお別れを言うこともできず、とても悲しくて、父や母をとても嫌いになってしまいました。両親としては私を可愛く思って心配するあまり、ついやってしまったことだと思うのですが、これは立派な過保護の実例ではないかと思っています。

     中国では私の親に限らず一人っ子のわが子に過保護に接してしまう親が多かったかもしれません。また、ほとんどが共働き世帯なので、祖父母が子育てに積極的に参加するケースも少なくありません。中国の場合、定年退職した祖父母は仕事を持たずに家にいることが多く、孫とかかわる時間が長くなるにつれ、過剰にものを買い与え、度を超えて面倒を見るなど、過保護になってしまうこともよくあります。

    日本の過保護の実態は? 家族背景から見える日中の違い

     一方、日本ではどのような過保護の実態があるのでしょうか。日本では核家族化が進み、基本的に両親が自分たちの子供を育てます。専業主婦の割合も高く、多くの場合、母親が中心となって子育てをしているようです。過保護が生まれるとすれば、母親が息子、娘と長く過ごすうちに過干渉になってしまうことはあり得ると思います。

     私は、専業主婦の母親を持つある日本人の男性の友人から、最近こんな話を聞きました。彼は生まれてから中学校までずっと実家暮らしで、高校時代に初めて親元を離れ寮に入りました。最初の2年間を寮で過ごしていましたが、最後の1年間は母親の強い勧めで、大学進学のための勉強に集中できるようにと、再び両親の住む実家に戻されたそうです。それまでは寮から自転車で30分かけて学校に通っていましたが、実家に戻ってからは電車で片道2時間半、駅から自転車で30分と片道3時間の通学時間になってしまい、かえって落ち着いて勉強する時間が減ってしまったと苦笑していました。こうしてみると彼の母親の目的は、彼を勉強に集中させることではなく、自分のそばに置いて管理することだったのではないかと、少し疑問が残ります。これも、一種の過保護ではないかと思います。

    完璧な親も完璧な子供もいない

     過保護の問題は、一言で解決策が見つかるような簡単な問題ではありません。なぜならそれは、親の子供に対する愛情が発端となっている場合がほとんどだからです。親は、初めは純粋な愛情から、子供のためにさまざまなことをやってあげますが、しばしば自分は親なのだから子供の事を一番理解している、間違えるはずがない、という思い込みに陥ってしまいます。親からの愛情を受け取る子供たちの側は、多くの場合、何とか親の期待に応えようとします。子供にとって親は大切で、一番に喜ばせたい相手です。それでも親とは違う人格を持つ子供の心の中には、さまざまな個性や願望があります。親の期待が大きければ大きいほど、子供たちはそういう個性や願望を心の奥に閉じ込めて期待通りにふるまうことも、しばしばあるのです。

     世の中に完璧な親がいないように、完璧な子供もいません。そんな不完全な私たちでも、お互いに正しい認識を持つことで、相手を認め合うことはできるのではないでしょうか。親も子も、独立した個々の人格であり、それぞれ異なった個性と願望を持っていることを、心の中で思い合うだけでなく、言葉に出しても確認し合う。時には議論になったり、けんかになったりしてしまっても、相手の本当の気持ちや自分に対する期待や、それぞれの個性については目をそらさずに、ありのままを受け入れる。そんな作業をサボらず、地道に繰り返していくことで、“過保護”や“甘え”といったいびつな依存状態ではなく、深い信頼関係で結ばれた親子関係が、築けるのではないかと、私は考えています。

    両親も今では私のやりたいことを応援してくれます!大好きな両親です。

    段文凝

    (だん・ぶんぎょう)中国・天津市出身。2009年5月来日。同年まで天津テレビ局に所属。2011年4月より、NHK教育テレビ『テレビで中国語』にレギュラー出演。(2017年3月卒業)2014年早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコース卒業。日中間を行き来し講演活動を行い、「かわいすぎる中国語講師」として幅広い層に人気を得ている。2015年、2016年に毎日新聞夕刊「ひ・と・も・よ・う」で取り上げられた。2017年現在、NHKWORLDのラジオにレギュラー出演。舞台や映画などを中心に女優としても活躍している。

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