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いただきます

がんもどき×未来食堂 善意つなぐ「まかない」

イラスト=佐々木悟郎
未来食堂店主の小林せかいさん(左)とまかないとして修業する積田寛美さん

 カウンター12席の店の入り口には色とりどりの券が貼られていた。「おなかいっぱい食べてくださいね」。そんな伝言が書かれている。

     東京都千代田区の未来食堂には、50分働くと賃金の代わりに日替わり定食900円のただめし券がもらえる「まかない」システムがある。貼られた券は働いた人が自分で使わず、誰かのために残したものだ。どんな店だろう。記者の私も10月から働いてみた。

     店はITエンジニアから転身した小林せかいさん(33)が2年前に開いた。目指すのは「誰もが受け入れられ、誰もがふさわしい場所」だ。

     「せかい」という名前や偏食、服装が「変わっている」と言われてきた。18歳で家出した時、アルバイト仲間と弁当を囲み「いただきます」と手を合わせると、なぜか涙がこぼれた。人が集まる食堂を開くのが夢になった。

     まかない制度を始めたのは「お金が払えなくなった人とも縁を切りたくない」からだ。失敗をいとわず、誰にでも積極的に一品を任せる。作りたい料理があれば「やりましょう」と背中を押し、うまくいけば新メニューに加える。

     私が厨房(ちゅうぼう)で出会ったのは学生や主婦、元バスガイドなどさまざま。年に延べ500人が働く。3月まで特別支援学校の教諭だった積田(つみた)寛美さん(56)もその一人だ。

     料理を通して障害のある子の生きる力を伸ばす授業に傾注してきた。だが理想と現実のはざまで悩み、早期退職を選んだ。「親子がのびのびと過ごせる料理教室のようなものができないか」と思うが、なかなか自信が持てない。

     積田さんが貼ったただめし券は就職活動していた神戸の女子大生が利用した。「ご恩はまかないで返したい」。券の裏に伝言を残し、1カ月後に厨房に入ると、偶然、積田さんと一緒になった。積田さんは「見えない糸でつながっているみたい」と言った。

     11月のある日、積田さんの提案がメニューになった。がんもどきだ。子どもたちの力を育てようと走り回った新人教諭の頃「忙しくて、ろくなものを食べてないでしょ」と生徒の母親が食べさせてくれた。手作りの素朴な味にほっとしたことを覚えている。

     前回はきれいな形に仕上げられず、この日こそはと慎重に揚げていく。できたてにかぶりついた女性客の顔がほころんだ。

     私のまかない10回目の12月7日、初めて来た男性が「自分もやりたい」と店の手拭いを頭に巻いた。気付けば私たちは厨房で、昔からの仲間のように肩を並べてお客さんを迎えていた。【奥山はるな】<イラスト 佐々木悟郎>

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