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社説

危機の社会保障 増える生活困窮者 安全網をどう維持するか

 「とてもみんなの顔は覚えられない。分かるのは4割ぐらいです」

     大阪市内の区役所で生活保護世帯の支援を受け持つケースワーカーの男性(44)は済まなそうに語る。

     担当する高齢者は約280世帯で、法律が定める標準数の「1人につき80世帯」を大きく上回る。連日、電話相談や家庭訪問する嘱託職員からの報告に忙殺される。

     標準数に満たぬワーカー数について市は「嘱託職員などを活用している」と説明する。だが、受給者の女性(73)にとっては「忙しいって分かっているから、相談しにくい」のが実態だ。

     日本の社会保障制度は、医療保険や雇用保険、年金などの社会保険が土台となっている。

     生活保護は、社会保険の網から漏れ、親族による援助、働く能力などあらゆる可能性を考えても最低限の生活ができない人に適用される「最後の砦(とりで)」の制度だ。

    20年以内に崩壊の懸念

     最近は無年金・低年金の高齢者が「最後の砦」になだれ込み、生活保護の受給世帯数は毎年、過去最多を更新している。昨年度は月平均で約163万7000世帯、受給者数は約214万人に上った。65歳以上の高齢者世帯は初めて半数を超え、うち9割は独り暮らしが占めている。

     しかも、今後20年を経ずして「団塊ジュニア」世代が高齢者の仲間入りをする。就職氷河期(1993年~2005年)に大学を卒業した世代は非正規雇用が多く、平均賃金がほかの世代より低い。預貯金もない困窮高齢者が近い将来に爆発的に増えるとみられている。このままでは日本の社会保障の形が崩れていく。

     大阪市はその縮図である。人口に占める受給率は5・3%。全国平均1・7%を大きく上回る。市民19人に1人が受給している計算だ。

     高度成長期に大阪には労働者が大量に流入した。だが、高齢にさしかかる頃にバブル経済が崩壊し、仕事を失う人が続出した。身寄りのない老人やシングルマザーに加え、格差拡大に伴うワーキングプアの増加が受給者数を押し上げた。

     大阪市は橋下徹市長時代から不正受給対策に本腰を入れるようになった。その結果、受給世帯は12年をピークに減少に転じた。

     一部の区では受給者の顔写真付きカードを「本人確認のため」交付している。顔写真カードを求めるような対応に「受給者への偏見を強めかねない」との批判も根強い。

     神奈川県小田原市では生活保護を担当する職員が「保護なめんな」とプリントしたジャンパーを着用していたことが分かり、受給者の人権を傷つけたとして問題化した。

     ネットやSNSでは「ナマポ」などの表現で受給者を攻撃するような書き込みが絶えない。正当な受給であるにもかかわらず、「在日特権」をあおるヘイトスピーチに通じる不寛容な空気の反映だ。

    急場しのぎには限界

     国の支出はすでに年間4兆円の大台に近づいている。政府は歳出抑制を図り、安倍晋三政権は13年度以降、3段階で保護基準を引き下げた。

     政府は来年度に向けて、5年に1度の支給基準見直しを進めている。大都市を中心に生活扶助が引き下げられる見通しだ。

     問題は給付の引き下げだけではない。安倍政権になってから福祉事務所による親族などへの調査の強化、申請書類の厳格なチェックなどが徹底され、受給者数の抑制が図られている。いわゆる「水際作戦」だ。受給基準にあてはまる可能性がある低所得世帯のうち、実際に受給しているのは約2割との説もある。

     生活保護が認められれば、病気のとき無料で医療機関にかかることができる。しかし、認められない人は国民健康保険に加入せざるを得ない。ここで保険料を払えないと「無保険」となる。今、約21万世帯が医療費の全額負担を求められている。

     健康保険証を持っていない人の受診を拒むことができなかった医療現場でやむを得ず広がっているのが「無料低額診療」だ。患者の自己負担分を医療機関の持ち出しなどで補う制度で、15年度にはのべ約780万人が利用した。

     国民皆保険といいながら、この国ではすでに「皆」が破れつつある。

     急場しのぎの給付抑制策を続けていても、このままでは20年後に「安全網」が崩壊することは避けられない。持続させるための方策を真正面から議論する段階にある。

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