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社説

回顧・トランプ政治元年 国際政治の地軸が動いた

 千葉県で見つかった地層が地球の磁場逆転の時代(チバニアン)を物語るように、後世の歴史書は2017年を起点とする国際政治の特異さを記すだろう。トランプ政治。今年はその元年だった。

     環太平洋パートナーシップ協定(TPP)や地球温暖化対策のパリ協定からの離脱宣言。そして今月は世界の反対と懸念をよそにエルサレムをイスラエルの首都と認定した。

     1月に就任したトランプ米大統領の矢継ぎ早の変革。その根底には既成の権威への嫌悪感がある。とにかく破壊する。あとは閣僚や官僚たちが考えればいいと言わんばかりの政治姿勢はいかにも乱暴だった。

    「こわもて」には限界も

     前政権との違いは明らかである。

     理知的なイメージのオバマ前大統領は「核なき世界」の理想をうたい、イランとの核合意をまとめた。

     半面、争いごとに弱い体質に乗じるように、ロシアはクリミア半島を奪い、過激派組織「イスラム国」(IS)は国家樹立を宣言。中国は南シナ海の軍事拠点化を進め、北朝鮮は核実験を続けた。

     その意味では学級崩壊の趣もあった。騒ぐ生徒をよそに格調高い話を続けた「オバマ先生」は去り、こわもての新たな担任、「トランプ先生」が登場。「問題児」たちもしばし緊張して見守っている--。

     そんなふうに例えても、あながち的外れではあるまい。

     「こわもて」にはそれなりの長所がある。トランプ氏の11月のアジア歴訪で日本や中国、韓国は皇帝を迎えるような厚遇ぶりだった。米国が北朝鮮問題と貿易不均衡問題で強気の姿勢を見せ、特に軍事力を前面に押し出したからだ。

     「米国は必要なら本当に軍事力を使う。そう人々に知らしめれば、米国の待遇は変わる。尊敬をもって処遇されるようになる」

     トランプ氏は著書(「グレート・アゲイン」)にそう書いた。

     単純なまでの軍事力信仰。史上最強の軍事力を現実的な利得に変えようという姿勢は一貫している。

     だが、軍事圧力を強めても北朝鮮問題はほぼ進展がなかった。中国の対米協調が進んだのは「力の外交」の成果とはいえ、仮に米国が妥協して北朝鮮の核廃棄を実現できなければ、「こわもて」は限界を露呈し米国への不信が広がるだろう。

     また、ロシアとの癒着疑惑「ロシアゲート」の捜査が、仮に娘婿のクシュナー氏ら身内に及べばトランプ氏は窮地に立たされる。1970年代に当時のニクソン大統領が辞任に追い込まれたウォーターゲート事件のような展開も想定外ではない。

     だが、現時点で重要なのは「議会の共和党議員がトランプ氏に逆らえなくなっている。共和党はトランプ党になりつつある」(渡辺靖・慶応大教授)という現実だ。税制改革法の成立は与党の協力を物語る。

     その一因は、反トランプ派の議員に対してトランプ氏の盟友・バノン前大統領首席戦略官らが対立候補を立てて落選させようとするからだという。米国版「刺客」である。

     エルサレムの首都宣言も再選への布石だろう。イスラエルと強い絆を持つキリスト教右派を取り込めば共和党内での発言力が強まり大統領再選への環境も整備されるからだ。

    「リベラル疲れ」日本にも

     だが、失われたものも大きい。

     理想を追い求め、よりよい社会をめざすのは米国政治の伝統でありリベラリズムの特長でもある。

     トランプ氏はそんな伝統に背を向け、社会に不満を持つ白人労働者層の支持を集めた。逆に言えば、きれいごとはたくさんだと「本音」を声高に語る人々が台頭したのだ。

     そんな「リベラル疲れ」は日本を含む先進国でも見られるのではないかと渡辺教授は指摘する。

     国会議員の相次ぐ問題発言、インターネット上の外国非難も「リベラル疲れ」の一種だろうか。そうした現象の背後にある感情は、トランプ氏を擁護する感情と親和性を持っているのではないかというのだ。

     だが、国際的枠組みからの離脱やイスラム教徒の入国規制などは「自由の国・米国」のソフトパワーを損ない、その分野での米国の利益も失わせる。結局はトランプ氏の支持層にもツケが回る可能性がある。

     トランプ政治を米国民と世界がどう評価するか。その答えが出るのは来年以降だが、破壊に終始すれば豊かな社会も本当に安全な世界も築けない。それだけは確かである。

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