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社説

論始め2018 新技術と人間社会 使いこなすのは私たちだ

 人工知能(AI)ソフト「アルファ碁」が世界のトップ棋士を次々破った衝撃が遠い昔のように思える。AIは機能も応用範囲も予想を超えて進化を続け、昨年1年、AIという言葉を見かけない日はなかった。

     囲碁の世界ひとつとっても、先代の「アルファ碁」に完勝する「アルファ碁ゼロ」が登場した。AIを使った自動運転も公道での実証実験が全国で始まった。家電量販店に行けば、さまざまなスマートスピーカーが並び、呼びかけに応じて照明をつけたり天気予報を教えてくれたりする。農業や漁業、教育や投資、AI活用の試みは枚挙にいとまがない。

     今年、こうした流れはいっそう加速するだろう。私たちの生活の隅々までAIが入り込み、暮らしや仕事を便利にしてくれる。そんな未来図が見え始めている。

     一方で、人間社会との摩擦は避けて通れないだろう。奪われる雇用、プライバシーの侵害、ブラックボックス化したAIの暴走。そんなキーワードも現実味を帯びてきた。

    便利さの裏に摩擦も

     昨秋、日本の3メガバンクが大幅な業務削減を打ち出した。AIを活用した情報技術で数万人分の業務を肩代わりする計画だ。業務の効率化、低コスト化は歓迎したいが、こうした流れがさまざまな分野で大量リストラを招く恐れは否定できない。

     医学の世界では、乳がんの転移を病理組織で見分ける競争でAIが人間の病理医11人を負かしたという海外の論文が公表された。日本でも胃がんの前段階の画像診断でAIが熟練した専門家並みの成績を示した。しかもAIの方が診断が圧倒的に速い。正確で速い診断は患者にとってメリットが大きい。ただ、その時に医師の役割も変わらざるをえない。

     メディアとて人ごとではない。天気予報や企業の決算を書く「AI記者」はすでに登場している。「AI政治家」の開発をめざす海外の研究まで出てきている。

     AIをこの分野に導入したらどうだろう。そんな人々の想像力が、さらに活用業種を広げていく。AIがけん引する第4次産業革命は3次までの産業革命を質量ともにしのぐ影響をもたらすかもしれない。

     便利さの裏側にはプライバシー問題も潜む。多くの場合AIの命綱はビッグデータだからだ。

     たとえば防犯カメラに映った人の歩き方から容疑者を割り出す「AI捜査」の試みがある。その精度を上げるには大量の人の動画が必要となる。スマートスピーカーや家庭用ロボットとのコミュニケーションを向上させるには、利用者の情報や会話を蓄積する必要があるだろう。

     当然、情報の使い方には透明性やルール作りが欠かせない。

    存在自体が利用を促す

     人間の理解を超え、制御不能なAIが登場する可能性も否定できない。それを改めて想起させたのが前述した「アルファ碁ゼロ」だ。

     先代は人間同士の膨大な棋譜を読み込む「深層学習」と、AI同士で対戦する「強化学習」で腕を上げた。ところが「ゼロ」はルールを基に自分自身と対戦するだけで強くなった。人の経験や思考を必要とせず、「独学」。その延長線上にどんな自律的で汎用(はんよう)性のあるAIが出てくるのか。AI同士が「独自の言語」で会話を始めた「事件」も話題になった。期待と同時に恐れを感じる。

     ただ、懸念はあってもAIの利用にブレーキがかかることはないだろう。歴史を振り返れば、技術の存在それ自体が利用を促すからだ。しかも、いったん社会がその技術に依存してしまえば、ブレーキをかけることはいっそう困難になる。身近な例をあげるなら原子力発電だ。

     52年前に日本初の商用原発が稼働して以来、地震・火山列島に原発は増え続け、2011年の事故直前には54基で電力の3割をまかなうまでになった。まさに「原発依存」だ。

     いったん原発の存在が社会の構造を変えてしまえば、リスクに目をつぶろうとする力が働く。その結果、これほどの事故を経てもなお、依存から抜け出せない。電力を作るという単純な機能しか持たない原発でさえそうだ。社会に複雑に入り込むAIに気づかぬうちに支配されないよう、注意深さも必要だ。

     私たちの想像を超えて進む技術はAIだけではない。ロボット工学や遺伝子技術もまた、社会を大きく変えていくだろう。それぞれの利益とリスクを見据えた上で、技術を使いこなす人間の知恵を磨きたい。

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