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余録

「常々良しの晴れ着なし」ということわざが昔あった…

 「常々(じょうじょう)良しの晴れ着なし」ということわざが昔あった。日ごろ美しく着飾っている人にはこれといった晴れ着がないという意味で、そういう人をうらやんでの言葉ではない。逆に見下したことわざらしい▲「褻(け)無いよしの晴れ無し」も同じ意味で、褻は日常のこと、この場合は普段着を指す。一方、晴れ=ハレは祭りや祝いの特別の日を示し、民俗学者の柳田国男(やなぎた・くにお)はこの「ハレ」と「ケ」との対照から昔の日本の生活文化をとらえ直した▲その柳田が近代化によってハレとケとの区別が薄れ、混乱していることを指摘したのはもう90年近くも前だった。なるほど昔の人から見れば毎日がお祭りのようで、「常々良し」の今日である。しかし「晴れ着」はなくならなかった▲業者の名称が「はれのひ」と聞けば、何かの悪ふざけかと耳を疑おう。成人式当日、晴れ着のレンタル・着付け業者が行方をくらましたという前代未聞(ぜんだいみもん)の騒動である。契約していた新成人の多くには気のめいる「ハレの日」となった▲経営状態が悪ければ店をたたむのは当然だが、よりによって「ハレ」の当日とは「夜逃げ」にも仁義はないのか。「だまされた」と感じた新成人や親たちが警察に駆け込んだのも分かる。“被害総額”は数千万円にも上りそうだという▲お宮参りに七五三、入学式や卒業式……こと子の成長にまつわる晴れ着文化の盛り上がりは昔以上の現代である。そこにつけこんだ経営者は、人のハレをだいなしにした責任の大きさを今から思い知るだろう。

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