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科学の森

ワンダフル「がん探知犬」 人を助ける嗅覚、コミュニケーション能力

 盲導犬や介助犬、警察犬、災害救助犬など、いろいろな場面で私たちを助けてくれる犬たち。その優れた嗅覚を使って、人間のがんなどを調べる研究も進んでいる。今年は戌(いぬ)年。医療での活躍が期待される犬の最前線と、人との関わりを探った。【伊藤奈々恵】

     ●的中率99・7%

     「探せ!」。トレーナーのかけ声で、黒いラブラドルレトリバーが木箱に鼻を近づけてにおいを嗅ぎ始めた。がん探知犬のエスパー号(メス・9歳)だ。木箱には人の尿が入った小瓶が入っており、「がんのにおい」を感じたら木箱の横に座って知らせ、感じなければ通り過ぎるという。探知犬を育成する民間企業「セントシュガージャパン」(千葉県館山市)はエスパーらメスの5匹が、においによるがんの有無の判定に取り組む。

     においを嗅ぐ単純作業に見えるが、トレーナーの佐藤悠二さん(70)によると、正確な判定には集中力が必要なため、判定前にはボール遊びで気持ちを高める。

     がん探知犬はどの程度、がんを嗅ぎ分けられるのか。同社と探知犬の共同研究をしている、日本医科大千葉北総病院の宮下正夫教授によると、5人の尿から1人のがん患者を見つける実験を334回したところ、探知犬が患者の尿を選んだのは333回(99・7%)に達した。宮下教授は「がんには共通の『におい』があるためか、人間のどの部位のがんでも当てられる。早期がんも発見できる可能性がある」と期待する。

     こうした「犬診」を健康診断に取り入れた自治体もある。山形県金山町は今年度から、がん探知犬による検査を試験的に実施。同意が得られた927人(40歳以上)の尿の鑑定を同社に依頼したところ、11人で「陽性反応」が出た(昨年12月時点)。町立金山診療所の柴田昭英・地域医療推進員は「本当にがんかどうかを判断するには、さらに調べる必要がある」として現在、CT(コンピューター断層撮影)検査などによる最終的な分析を進めている。

     動物ならではの課題もある。犬がどの物質を「がんのにおい」と感じているかは分かっておらず、「判定」の根拠は解明されていない。探知犬のやる気をどう維持するかも課題だ。判定で「がんのにおい」を感じないケースが連続すると、犬がやる気を失うこともある。このためがん患者の尿が入った容器を交ぜて正解させ、やる気と集中力を保つ工夫も必要になる。

     ●アラート犬も

     米国などでは、幼少期に発症することが多い1型糖尿病患者に、低血糖になっていることを知らせる「アラート犬」も活躍する。1型糖尿病は血糖値を下げるインスリンが出なくなる病気で、注射などで毎日数回補充しなければならない。ただ調節が難しく、血糖値が下がりすぎると死に至ることもある。アラート犬は重度の低血糖になる前に、ほえるなどして知らせる。低血糖時特有のにおいを感じているようだ。

     1型糖尿病患者・家族を支援するNPO(非営利組織)「日本IDDMネットワーク」(佐賀市)は昨秋、アラート犬育成のための寄付を募り、300万円以上を集めた。アラート犬の国内育成を目指す。専務理事の大村詠一さん(31)は「まずは国内1例目を誕生させたい。盲導犬のように、患者さんの支えになる存在になれば」と話す。

     ●人の心を読む

     たくさん動物がいる中で、人間と犬は切っても切れない関係にある。犬のにおいの情報を受ける嗅細胞は2億2000万個あり、人の44倍にも及ぶ。犬はこの優れた嗅覚を生かし、古くは狩猟のパートナーとして活躍してきた。しかし嗅覚以上に重要な特徴がある。麻布大獣医学部の菊水健史(きくすいたけふみ)教授は「犬は人に共感したり、協力したりできる。人とのコミュニケーション能力が非常に高い」と指摘する。

     例えば、チンパンジーは手先が器用だが、人と暮らすのは難しく、介助犬のように人のサポートをするのは苦手だ。一方、犬は人の視線がどこにあるのかを理解できるうえ、人の仕草を読むこともできる。口調による感情の違いも分かるという。

     1万2000年前のイスラエルの遺跡から、人と一緒に埋葬された犬の骨が見つかり、犬は「最古の家畜」とされる。長い歴史の中で培われた能力を使って、さらにいろいろな分野で私たちを助けてくれる可能性がある。

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