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ドイツの政治教育

/下 ナチスの戦争犯罪、入国した難民との対話 校外で学ぶ

首都中心部にある「虐殺されたヨーロッパのユダヤ人のための記念碑」。地上部分は四角いコンクリート製の石碑群で、観光客らが訪れる=ドイツ・ベルリン市で2017年11月17日、中村美奈子撮影
「虐殺されたヨーロッパのユダヤ人のための記念碑」は、地面に少しずつ勾配をつけて波打たせている。入場者は背の高さをはるかに超える石碑(画面両端)に囲まれ、ユダヤ人の置かれた状況を追体験する=ドイツ・ベルリン市で2017年11月17日、中村美奈子撮影

「虐殺はドイツ史の中心に」 国会議事堂近くにユダヤ人犠牲者記念碑建設

 ドイツの首都ベルリンの中心部。国会議事堂近くに、ナチスによって欧州で殺害されたユダヤ人約600万人を追悼する施設「虐殺されたヨーロッパのユダヤ人のための記念碑」がある。

     広大な敷地に四角いコンクリート製の石碑2711基が整然と並ぶ。高さはひざ丈ほどのものから、背の高さを超える壁のようなものまであり、最高4.7メートル。石碑の底面積は、幅約1メートル×長さ約2.4メートルに統一され、それぞれ1メートルほど間隔をあけて約1万9000平方メートルの敷地に並ぶ。訪問者はこの広場を自由に歩く。門や柵はなく、24時間誰でも入ることができ、観光客も訪れる。

     広場の中心に向かって歩を進めるにつれて石碑の高さが徐々に高くなる。左右の石碑はやがて目の高さを超え、視界がさえぎられるようになる。夜は照明がなく真っ暗で、足の裏の感覚が頼り。石碑が建つ地面は緩やかな起伏が付けられており、歩くと波打っているのが分かる。石碑に囲まれて自分がどこにいるのか、いつこの迷路から出られるのか分からず、広場の端に出るまで不安になった。

    「虐殺されたヨーロッパのユダヤ人のための記念碑」の地下にある博物館。当時の状況を青少年が理解しやすいように、ユダヤ人の家族写真を多数展示する=ドイツ・ベルリン市で2017年11月17日、中村美奈子撮影

     地下には犠牲者の写真や手紙、日記、迫害の年表や地図などを展示した博物館があり、年間約50万人が訪れる。地上も地下も入場は無料だ。

    歩いて何を感じたか 体験を言語化

     「記念碑を歩いて何を見、何を感じ、何を考えたか言葉にしてもらいたい。迷宮のようだととらえる人が多い。迫害されたユダヤ人は、逃げ場のない所に追い込まれていた。ユダヤ教の宗派もさまざまで、老若男女がいた。石碑の高さが少しずつ違うのは、犠牲者の多様さを表しています」

     記念碑財団のバーバラ・ケスター博物館教育部長は語る。

     ケスターさんによると、建設は市民主導で進んだ。1980年代の終わりに女性ジャーナリストらが「過去と向き合い、記憶すべきだ」と市民運動を始めて訴え、99年に連邦議会が国の事業として建設計画案を可決した。ちょうど首都中心部に広大な空き地があり、「虐殺はドイツ史の端ではなく、中心に位置づけるべきだ」と建設用地に決まった。総事業費2760万ユーロ(約37億円)を投じて2005年にオープンした。運営する財団の年間予算330万ユーロ(約4.4億円)は全額国から出ている。

     オープン後、ナチスの迫害を受けたユダヤ人以外の犠牲者の遺族や生存者から、我々のことも思い出してほしいと声が上がった。迫害された同性愛者の記念碑が08年、虐殺された少数民族のシンティ・ロマの記念碑が12年、安楽死させられた障害者のための記念碑が14年、ユダヤ人記念碑から歩いて行ける距離に完成した。

    残虐な展示控え入館は14歳以上

     ドイツの公教育では、14歳の9年生(中学3年)以降でナチズムの歴史を学ぶ。ナチスの戦争犯罪は政治教育の基本中の基本に据えられている。14~19歳の青少年は入館者の13%を占め、歴史や倫理、政治の授業でこの施設を訪れる。生徒には記念碑を歩いてどう感じたか言葉にさせ、記念碑でのふるまい方を議論する。花を手向ける人がいる一方、石碑に寝そべる人もいる。自分はどう考えるか、追悼の場にいることを踏まえての話し合いを大事にしているという。

     博物館では努めて残虐な写真は展示しない。入館者にトラウマを与えず、写った犠牲者が再び辱められないようにとの配慮からだ。入館対象者は14歳以上。青少年の発達段階に照らして財団の学術諮問委員会が出した結論だった。「ここまで来るのにドイツも何十年もかかりました」とケスターさんは話す。

    設置時から反対の声 新興右派は今も

     戦争犯罪を繰り返さないとの決意を示す施設だが、設置時から反対の声があり、今も続いているという。ケスターさんによると、新興右派「ドイツのための選択肢」(AfD)は反対の姿勢を取っていて、幹部の一人が「ドイツにこのような場所があるのは恥辱だ。ナチズムの過去と結びつける自虐史観はやめるべきだ」と主張した。ケスターさんは「我々は記念碑にハーケンクロイツが描かれたり、破壊行為を受けたりするだろうと危ぶんでいたが、今のところ目立った動きはない」という。

     新たな取り組みとして、約1年前から難民の青少年を対象にしたプログラムを実施している。ドイツ語を学ぶ特別クラスの難民が対象で、アラブ語、ペルシャ語、トルコ語で案内する。武力紛争から逃れてきた子どもたちが多く、虐殺の話は自らの体験と重なる。今後、ドイツにはルーツが違う人たちが増えていく。ドイツの歴史を知ってもらい、歴史を担う人になってほしいという狙いだ。 

    難民青年が体験語るツアー 運営団体に国が助成

    シリア難民のマフムード・カドゥーラさん(左から2人目)によるベルリン市内のガイドツアー。難民が開いたシリア料理店の前で、内戦で破壊された城の写真を示し、母国の実情を参加者に語った=ドイツ・ベルリン市のノイケルン地区で2017年11月16日、中村美奈子撮影

     トルコ系を中心に移民出身者が集住するベルリン市南部のノイケルン地区。内戦が続くシリアから逃れてきた難民の青年、マフムード・カドゥーラさん(27)に、英語で街を案内してもらった。

     ベルリンに拠点を置く非営利団体が16年4月に始めた難民による市内のガイドツアーだ。難民が欧州に大量流入した15年以降、ドイツでは受け入れをめぐる議論が常に政治問題になり、難民と対話して視点を共有するのは政治教育の一つの形になっているという。非営利団体はホームレスによる街のガイドツアーを運営していたが、同じ手法で新たに難民によるガイドツアーを始め、連邦政治教育センターの助成を受けている。料金は2時間で約1760円だ。

     「ベルリンは多文化都市。世界各国から人が集まっている。ここは通称トルコ通り。行き交う人の顔を見ていると、半分はドイツ人じゃないですね」。早口で流ちょうな英語でカドゥーラさんが話す。ベルリン・ブランデンブルク州統計局によると、17年6月現在、移民出身者の人口の割合はこのノイケルン地区で44・3%。トルコ系住民は地区人口の1割を超える。

     「こちらは難民出身者が欧州で初めてシリア式ケバブを出したレストランです。約1年前に開店しました」。店の看板は「シャーム」と読み、アラビア語でシリアの首都ダマスカスを指す。ダマスカスから逃れてきたシリア難民が開いた店という。

    シリアから妻と脱出 ドイツ語習得し就職目指す

     シリア内戦が始まったのは2011年。カドゥーラさんは15年10月、妻と2人でドイツに脱出した。10月1日にシリアを出て、トルコ、ギリシャ、マケドニア、セルビア、ハンガリー、オーストリアを経由、13日にドイツにたどり着いた。脱出するボートは50人乗りだったが150人以上乗った。何千人もが乗船を待つ中、夫婦はそれぞれ余分に料金を支払い、優先順位を上げてもらったという。

     シリアではアレッポ大学人文学部で言語学専攻の修士課程に在籍し、大学など3校で英語の教師をしていたというカドゥーラさん。「言葉を覚えるため、ドイツ語学校に通っている。今仕事はこのガイドだけ。月6回、全力でやっています」と話す。ベルリン市内は家賃が高く、何百件も物件を回り、ようやく2部屋で月700ユーロ(約9万5000円)の物件が見つかった。ベルリンで生まれた長男の写真をスマートフォンで見せてくれた。「ベルリンはとても住みやすくてアットホーム。家賃と学費はドイツ政府が出してくれている。ドイツ語は難しいが、ちゃんと学んでから就職したい」と意気込む。父、弟、祖父、おじ、おばはまだシリアにいて気がかりだ。

    通称アラブ通りの前で、カードをツアー参加者に配るシリア難民のマフムード・カドゥーラさん。カードにはアラビア語が書いてあり、通りのどの店にそのアラビア語が書いてあるのか探す=ドイツ・ベルリン市で2017年11月16日、中村美奈子撮影

     ツアーの最後に、アラブの暮らしに必要な物が何でもそろうという通称アラブ通りでゲームをした。カドゥーラさんがアラビア語を書いた小さなカードを参加者に渡す。そのアラビア語が、アラブ通りに面したどの店の看板に書かれていて、何を売っているのか探し当てるゲームだ。看板や張り紙にアラビア語が躍るが、なかなか見分けがつかない。他の参加者は鳥の丸焼きのレストラン名、美容室の店名、アラブ商品のスーパーマーケットの店名を次々に見つけていく。カドゥーラさんがスーパーの店名「BARAKA」はイスラム教で「God bless you」(神のお恵みを)の意味です、と言葉の背景を教えてくれた。私のカードは向かい側の歩道に面したカフェの店名だった。

    若い世代は難民に理解

     カドゥーラさんは反移民を掲げるAfDの台頭をどう思っているのか。「昔から移民をよく思わない人はいる。それを表立って態度に表していいと思っているのは危険なことだ」と言う。ツアーではドイツとポーランドを中心に、米、イタリア、スペインなどから来た高校生や大学生を案内することが多い。「若者は難民に興味があって話しかけてくる。難民の存在を理解しようとしていると思います。連邦議会選でAfDを選んだ若い世代も、次は違う政党を選んでくれるのでは」。自分と同じ若い世代に期待を寄せる。【中村美奈子/統合デジタル取材センター】(おわり)

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