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長寿リスク社会

介護報酬改定の課題/上 認知症独居者 削減の標的

 <くらしナビ ライフスタイル>

 介護保険制度で事業者に支払う「介護報酬」のあり方を審議する厚生労働省の社会保障審議会介護給付費分科会が先月、骨格となる審議報告をまとめた。厚労省は近く点数や具体策を出す。財源難を背景に、調理や掃除など「生活援助サービス」を「多数」利用するケースを精査し、是正する。だが、生活援助を多く使うのは主に独居の認知症の人で「減らされれば生活できない」と不安の声が出ている。デイサービスでも認知症を考慮しない評価・加算が設けられ、認知症は不利との懸念もある。介護報酬の課題を探る。

 ●必要最低限の援助

重度の認知症の男性(左)の夕食を配膳し、男性と会話を交わすヘルパーステーション「わをん」のヘルパー、桜庭葉子さん=京都市で2017年12月

 「ほんまにようやってくれる。(施設など)よそには行きたくない」。京都市の男性(85)は感謝する。男性は少し前のこともすぐに忘れる重度の認知症で要介護4。1日2回(月約60回)の生活援助が独居生活を支える。ヘルパーの桜庭葉子さんは部屋に入ると男性と軽口を交わし顔色や体調を確認。部屋のにおいや温度をチェックし、何を食べ、残したのかごみ箱の中まで見て生活状況を探る。大動脈解離があり、観察が欠かせない。急いで夕食を作り、服薬を確認した。男性は当初、ヘルパーを拒否していたが、ヘルパーは徐々に人間関係を作り家に入った。短時間の訪問では対処は無理だ。食事したことも忘れるため弁当の配食利用も難しい。桜庭さんは「生活援助の回数は、最低限の暮らしを成り立たせるため必要だ」と話す。

 ●月30回超は「是正」

 ところが厚労省は生活援助が月30回程度を超える場合、市町村が「必要に応じて是正を促す」制度を導入する。この男性の長女(57)は「生活援助でギリギリ生活できているのに減らされたら暮らせない」と不安げだ。

 精査・是正の導入は、財務省が昨年、「必要以上のサービス提供」として生活援助が月100回以上使われる例があると指摘したことがきっかけだ。厚労省は「標準偏差」=ことば=を持ち出し、その2倍を超える回数の生活援助を抽出させる方針だ。データが正規分布なら標準偏差の2倍には全体の約95%が含まれ、残り約5%は通常、例外とされる。標準偏差を生活援助に当てはめると月32回以上、全体の4・8%が統計的にかけ離れて多い例になる。そのケアプラン(介護サービスの計画)をケアマネジャーが市町村に届け出。市町村が確認し、専門家も入る「地域ケア会議」で検証し、市町村は必要に応じ是正を促す。

 厚労省が、生活援助が90回を超える例を調査したところ、約8割が認知症、独居で、全48例のうち市町村が不適切としたのは2例だけだった。「近隣に親族がいない」「施設やデイサービスの利用拒否」などが多い理由だ。

 愛知県豊田市に住む独居の男性(86)も生活援助を日曜を除く1日2回、月50回程度利用するが施設もデイサービスも拒む。風呂も4年入っていない。部屋には段ボール箱が敷き詰められ、物が所狭しと置かれ、「ごみ屋敷」寸前だ。男性は部屋で調理中のヘルパー、水野里美さんに「味が薄い」などと怒鳴る。ヘルパーは男性のほぼ唯一の話し相手で、男性の過大な要求をいなしつつ相手する。「けんかしながら支えている」と笑う。上司のヘルパー、神谷洋美さんは「どんな困難な事例でも安心感を与え、生きる意欲を引き出すのが生活援助の専門性」と話す。

 ●判断の尺度なく

 分科会では田部井康夫・認知症の人と家族の会副代表理事が「(認知症同士の)認認介護、(高齢者同士の)老老介護、1人暮らしなど非常に生活状況が厳しい人たちが、生活援助を使って何とか自宅で暮らしている。数字が独り歩きし、必要で使っていた人が使えなくなる」と反対したが聞き入れられなかった。高齢者福祉に詳しい新井康友・佛教大准教授は「国が進める(個々人が住み慣れた地域で暮らす)地域包括ケアの成功例なのに否定するのは矛盾」と指摘する。

 厚労省は「回数を制約したり、一律にカットしたりするのではなく、気になるケアプランを専門家の目で見てより良くする。財務省と我々は違う」と話す。しかし精査・是正には奇妙な点が多い。元々、ケアプランの良しあしを判断する明確な尺度はない。分科会の報告も今後の課題としてケアマネジメントの「適正化や質の向上」を「判断するための指標が必要」と記す。精査・是正にあるのは“平均とかけ離れた少数者は悪い”との論理だけで、市町村は何の尺度もなく是正を判断する羽目になる。

 また厚労省の資料によるとケアプランを諮る「地域ケア会議」の本来の設置目的は、個別例や地域が抱える課題を発見し、ネットワークや地域資源を開発するためで、個別例が適正か審査することではない。地区代表やボランティア団体員なども参加する。ある自治体の担当者は「介護の素人には個別事例が適正かはわからない」と話す。生活援助が多い例は、関係者が既に対応を協議しており「二度手間」と行政コストの増加を指摘する。さらに、例外を是正すれば平均値からのばらつきが小さくなり、標準偏差も小さくなって平均値へと誘導され、ケアプランの多様性が失われかねない。

 財政削減に必ず結びつくなら理屈は通るが、財務省は財政削減効果は「やってみなければわからない」と話す。

 財務省がこだわるのは、介護を医療と類似したものに根本から変える長期展望を持っているからだ。医療では「この病気にはこの治療」と対処法が「標準化」されている。財務省は介護の議論で「一番ネックなのは標準化されていない点。同じデイサービスでも内容が全然違う」と指摘。「こういう状態の人へのサービスはこれが標準的と示すことが必要」と述べ、生活援助の精査・是正も「市町村で対応を分析すれば標準化につながる」ことが狙いだ。今後、厚労省に標準化の研究をさせるという。介護サービスを均一化すれば財政コントロールが容易になるとの狙いが読み取れる。しかし介護保険に詳しい伊藤周平・鹿児島大教授は「介護を医療と同じようにできるというのは幻想。福祉は個別性が高く、その人らしい人間的な暮らしをしてもらうのが目的。福祉の否定になる」と話す。【斎藤義彦】


標準偏差

 平均値からのばらつき度合いを示す数値。データが正規分布しているなら標準偏差には全体の約68%、2倍には全体の約95%、3倍には約99%が含まれる。平均値が50、標準偏差が10として調整したものが偏差値。

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