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余録

安永2(1773)年暮れの江戸は物不足で諸物価が高騰し…

 安永2(1773)年暮れの江戸は物不足で諸物価が高騰し、正月の松飾りもなかった。厳寒のため水路が厚い氷で閉ざされ、物流が止まったからだ。驚くのは両国川、つまり隅田川も結氷したというのだ▲江戸の歴史を伝える武江年表(ぶこうねんぴょう)は翌年も隅田川が結氷したと記す。杉田玄白(すぎたげんぱく)の後見草(のちみぐさ)の引用で、話は確かだろう。このころ米ニューヨーク湾も結氷している。地球規模で小氷期と呼ばれる寒冷期だった▲こんな歴史を振り返ったのも、今季最強の寒波により東京で観測した氷点下4度が48年ぶりの低温と聞いたからだ。その48年前の寒波の新聞記事を見ると、「“北極”ニッポン」の見出しで山陰の大雪や高速道路の閉鎖を伝えていた▲ただし東京の氷点下4度は3年ぶりとあるから、当時はそう珍しい寒さでもなかったようだ。江戸時代までは知らないが、若い人に「昔の寒さはこんなもんじゃなかった」と説教したくなるのも根拠のない昔自慢でもなさそうである▲北海道の喜茂別町(きもべつちょう)では氷点下31・3度を記録した今回の寒波、北米各地や欧州で記録的寒さや大雪をもたらした寒波と無縁ではない。北半球上空の偏西風の蛇行で北極の寒気が米欧と共に東アジアにも南下する形になっているという▲先日はロシア・東シベリアでの氷点下65度の記録が伝えられた。この強烈な寒気がまだまだ日本列島をうかがう。「雪 イトド深シ/花 イヨヨ近シ」。深くなる雪、厳しくなる寒さに近づいてくる花の季節を見たのは思想家の柳宗悦(やなぎ・むねよし)だった。

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