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余録

江戸時代の百科事典といわれる書物「守貞謾稿」に…

 江戸時代の百科事典といわれる書物「守貞謾稿(もりさだまんこう)」に「焼家(やきいえ)」という言葉がある。説明を見ると何のことはない、土蔵造りなどでない普通の木造の家のことである。理由は「火災には必ず焼失す」とみもふたもない▲つまり火災が頻発した江戸では家は火事で焼けて当たり前、そうまで言わずとも焼けるのは仕方ないのが常識だった。庶民の暮らす棟割り長屋が「焼家造り」と呼ばれたのは、はなから焼けても惜しくないよう粗末に造られたからだ▲焼けるのを覚悟から防火で人命を守る都市文明への組み替えを行った日本のその後だった。その防火の文明も成熟したはずの近年、多くの犠牲者を出す火災が高齢者や生活困窮者が暮らす建物で繰り返されるのはどうしたことだろう▲生活に困窮した人たちが民間の支援を受けながら暮らしていた札幌市の住宅が焼け、11人が亡くなった。建物は築40年以上たった木造モルタルの元旅館で、入居者は70代後半以上の後期高齢者が多かった。足の不自由な人たちもいた▲夜はスタッフがおらず、入居者だけだった出火当時だ。設置されていた火災報知機が作動したかは分かっていない。スプリンクラーはなく、過去のテレビ取材に支援団体の当時の代表は「公的援助なしに設置は不可能」と訴えていた▲高齢者や生活困窮者が暮らす場所の確保という社会的課題の周辺では、もしや防火の文明が先祖返りしてはいないか。憲法のいう「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を脅かす今日の焼家である。

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