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トークイベント「挑む 東京2020へ」:瀬古利彦さん×増田明美さん マラソン復活を

真剣な表情で観衆に語りかける瀬古利彦さん(右テーブル右)と増田明美さん(同左)

トークイベント「挑む 東京2020へ」

瀬古利彦さん×増田明美さん マラソン復活を

 トークイベント「挑む 東京2020へ」(毎日新聞社主催、日本オリンピック委員会=JOC=共催)がパレスサイドビル(東京都千代田区)で開かれた。第2部では「2020年東京五輪の日本マラソン復活」をテーマに日本陸上競技連盟マラソン強化戦略プロジェクトリーダーの瀬古利彦さん(61)とスポーツジャーナリストの増田明美さん(54)が、フリーアナウンサーの深山計さんの司会で語り合った。(1月18日に開催)【構成・小林悠太、写真・根岸基弘】

    日本中を明るくしたい

     ――瀬古さんは、自国開催で重圧がある中、マラソン強化のリーダーという大役を引き受けてくれました。

     瀬古 2016年秋に日本陸連から頼まれた時は、断ろうと思いました。当時、(有望な若手)選手は少なかった。周囲に「男子マラソンで知っている人はいますか?」と聞くと、「(カンボジアに国籍変更してリオデジャネイロ五輪に出場したタレントの)猫ひろし」と言われ、トップ選手の名前は知られていない状態でした。それでも、1964年東京五輪の(男子マラソン銅メダルの)円谷幸吉さん(故人)がいて、今のマラソンと駅伝のブームがある。恩返しをしないといけないと思って、受けました。

     増田 火中のクリを拾ってくれました。それから、瀬古さんは良い顔つきになってきましたね。

     瀬古 受けた以上、覚悟を持ってやります。

     ――選手も覚悟を持って走らないといけない。

     瀬古 そうです。走るのは選手です。

     増田 瀬古さんは、責任は課せられるが、(日本陸連から収入が入るわけではない)ボランティアで大変です。

     瀬古 でも、心の報酬をもらっている。これはお金の問題ではないです。日本中をマラソンで明るくしたい。

     増田 瀬古さんの人柄で、みんなが一枚岩で協力する体制になってきています。

     瀬古 みんなが応援して協力してくれないと無理です。

    東京五輪へ向けた日本のマラソン復活策について語り合う瀬古利彦さん(右端)と増田明美さん(中央)

     ――東京五輪のマラソン代表選考方法は今までと変わりました。どういった思いがありますか。

     瀬古 以前は五輪前年度のレースで代表選考を行っていました。それでは初マラソンでまぐれで走れた選手が選ばれる可能性もある。しかし、五輪など大きな大会では、安定した成績を残してきた選手が結果を出す。ポッと出てきただけの選手は選びたくない。だから、17年度と18年度で成績を出した選手だけが、19年9月以降に行う代表選考会「マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)」に出場できる方式にした。この方式ならば、最低2回はしっかりと結果を残さないといけない。

     増田 瀬古さんがトップになり、すぐに選考方法を変えた。「やるな」と思いました。MGCに向けた予選会が2シーズン続く。そこでは何度でもチャレンジできる。若くて、スピードのある選手がマラソンの練習を始めています。

    関係者が一枚岩で臨むことの重要性を語る増田明美さん

    足りないハングリー精神

     ――今の選手は、昔に比べて練習量が減っていると言われています。なぜでしょうか。

     増田 ハングリー精神が足りないように感じます。マラソンで日本記録を出せば、(報奨で)1億円がもらえます。しかし、今の選手はあまりピンときていないようです。

     瀬古 選手の多くは大企業の所属で、頑張らなくても給料は上がる。その中でも、勤めていた企業を退社して、米国で練習する大迫傑(ナイキ・オレゴンプロジェクト)は偉い。覚悟を決めて、走らないといけない状況に自分を追い込んだ。

     増田 大迫さんは、昨年12月の福岡国際マラソンで日本歴代5位の2時間7分19秒。スター性があります。(スピードの要因は)着地をつま先からつくフォームです。

     瀬古 (自身の現役時代のライバルだった)中山(竹通)も同じような走り方だった。ケニア選手のような走りです。

     ――以前は、宗茂、猛兄弟、瀬古、中山と同世代のライバルが競り合っていた時代があった。

     瀬古 宗兄弟がいたから、自分がある。宗兄弟の練習は世界一だった。だから、「練習でも、生活でも宗兄弟に負けないぞ」とやってきました。一人だけでは頑張れない。最近の男子短距離は桐生(祥秀)が出てきたことで、刺激を受けた他の選手も伸びてきた。マラソンも、大迫が結果を出したことで、風穴が開いた。これから選手がいっぱい出てくる予感がします。

     ――代表チームで合同合宿をしていきますか。

     瀬古 僕は宗兄弟と合宿をやったことはない。代表で集まるのは年に2週間程度でいいです。基本的に、個々のチームで監督と練習する。

     増田 東京五輪へ向けて、強い者同士が一緒に合宿しなくていいのですか。

     瀬古 自分が監督ではない。各チームに監督がいるのに、自分が指示をしてもおかしいと思う。

     ――04年アテネ五輪女子マラソンで野口みずきさんが金メダルを獲得して以降、五輪では3大会連続でメダルを取れていません。どうすれば、東京五輪でメダルを取れますか。

     瀬古 選手が覚悟を決めてくれないと無理。絶対に世界一になる気持ちを持って、世界一の練習と生活をすることです。

     ――世界一の練習とは。

     瀬古 選手本人が決めることです。ケニアなどの強豪と35キロ地点で競り合ったとき、「絶対に負けない」と思えるだけのことをやらないといけない。

     増田 それが現役時代の瀬古さんでした。20キロのタイムトライアルを全力でやった後、もう一本、20キロを走っていた。

     瀬古 現役時代、エスカレーターは絶対に乗らず、階段を使った。学校にも(重い)安全靴で行った。東京五輪を狙う選手には「すごい。そういうことをやれば世界一になれるな」と僕らが驚くようなことをやってほしい。

     増田 有森裕子さんも高橋尚子さんも野口みずきさんも、酸素の薄い高地で1日70キロを走っていました。

     瀬古 ケニアの選手は、子どものころから高地で暮らし、乗用車に乗らず、長い距離を歩いてきた。日本人が「練習を増やすと故障する」と言っていたら、勝てるわけがない。

    日本マラソン復活へ向け、選手に覚悟を求める瀬古利彦さん

    「超アナログ」だからこそ

     ――東京五輪は猛暑の中のレースが予想されます。

     増田 暑さと湿度の中だから、スピードに優れるアフリカが勝つとは限らないです。スポーツ医科学も充実しています。関係者が一枚岩になれば、期待ができます。

     瀬古 既に暑さ対策は始めています。昨年8月には、選手を集めて、30~40キロを走ってもらった。汗の成分や血液の状況を調べて、どんな飲料を取るべきか、どういうウエアを着用すべきか検討しています。日本人に日本の暑さは有利。間違いなく、ケニア人はこの蒸し暑さを知らないからビックリすると思います。

     ――自国開催で選手には重圧がかかります。

     瀬古 選手が過度なプレッシャーを受けないように配慮することが我々の仕事です。僕も現役時代、「頑張れ、頑張れ」と言われることが一番つらかった。頑張っている選手には言わないでほしい。「困ったことありますか」や「私にできることがありますか」と声を掛けてもらえると、選手は気が楽になります。

     増田 自国開催はとても大きなプレッシャーがかかる。繊細な選手も少なくないので、あまりあおりすぎないでください。

     ――一番大事なことは、覚悟を決めてやることですね。

     瀬古 それに尽きます。マラソンは自分の足だけで走らないといけない「超」の付くアナログスポーツ。最高の覚悟をした人が、一番になる。「瀬古さんの考え方は古い」と言われ続けても、選手たちに言い続けていかないといけない。

     増田 マラソンで最後、勝てるかどうかは生活の中でどれだけ我慢の日々を送ってきたかどうかなど、人間力が出ると思います。

     瀬古 どうか、みなさん、応援してください。


     せこ・としひこ 三重県出身。1970年代後半から80年代にマラソン通算15戦10勝で、「世界最強」と言われた。84年ロサンゼルス五輪14位、ソウル五輪9位。2016年11月、日本陸連マラソン強化戦略プロジェクトリーダーに就任した。

     ますだ・あけみ 千葉県出身。千葉・成田高3年時に長距離各種目の日本記録を次々に塗り替えて注目を集める。1984年ロサンゼルス五輪女子マラソン代表。92年に引退後は日本陸連理事やマラソン解説者などを務めてきた。


     2020年東京五輪マラソン代表の選考方法 17、18年度の2シーズンの指定大会で一定の成績を残した選手らが19年9月以降に開催予定のマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)の出場権を得る。まず、MGCで上位に入った男女各2人が代表に決定。残り1人はMGCの後に行われる男女各3レースで設定記録を上回った選手が選ばれる。記録を突破する選手が出ない場合、MGCの1~3位がそのまま代表になる。


    五輪の価値について語り合う(左から)小口貴久さん、荻原次晴さん、小塚崇彦さん

    平昌五輪のポイントも紹介

     第1部には、冬季五輪に出場した3人が参加し、JOCが元五輪選手らを講師に2011年から全国の中学2年生向けに開いているオリンピック教室や、9日に開幕する平昌五輪について紹介した。

     参加したのはノルディックスキー複合の荻原次晴さん、フィギュアスケートの小塚崇彦さん、リュージュの小口貴久さん。オリンピック教室では、長縄跳びなどの実技を通して五輪の意義を説明している。小塚さんは「五輪は跳ぶ人だけでなく、回す人もいて成り立つ。ボランティアという参加もあります」と中学生に伝えていることを明らかにした。

     平昌五輪の注目ポイントとして、小塚さんは「選手がいい目をしているかどうかを見てほしい」と解説。1月に本番のコースでリュージュを滑ったという小口さんは「ハードで壁にぶつかりやすいコースだった。スピード感が競技の魅力です」と紹介した。荻原さんは「日本選手団全体では10個以上のメダルを取ります」と予想していた。