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社説

トランプ政権の「核態勢見直し」 新たな軍拡競争を恐れる

 米科学誌が1月下旬に発表した「終末時計」は、地球最後の日までの概念的な残り時間が「2分」となり、この1年で30秒進んだ。

     米ソの核実験競争が過熱していた冷戦中の1953年と並ぶ、最悪の状況だという。その背景に北朝鮮と米トランプ政権の核戦争含みの対決機運があるのは言うまでもない。

     だが、米政府が2日に公表した「核態勢見直し(NPR)」によって「時計」の針はさらに進み、2018年は人類史上、最も危険な年になるかもしれない。

     NPRは言う。米国が核軍縮に努力する間にロシアや中国は核兵器の増強・近代化を図り、北朝鮮は国際社会の懸念をよそに核開発を続け、世界は極めて危険な状況にある。

     だから米国の抑止力を高めるために、核兵器の破壊力を調整して小型化するなど、状況に合わせて柔軟に対応できるようにするのだと。

    露との対立より軍縮を

     前回のNPRをオバマ前政権が10年に発表してから8年。世界の安全保障環境は大きく変わった。トランプ政権が新たな核戦略を策定するのは理由のないことではない。

     問題は、政権の世界観と核に対する考え方だ。核兵器は「米国と同盟国の死活的な極限状況でのみ使用を検討する」という方針はオバマ政権時のNPRと変わらない。

     だが、今回のNPRはロシアや中国、北朝鮮、イランなどの動向を分析しながら、さまざまな状況下で米軍が核を使う事態を想定しているようだ。核によらない攻撃にも核で反撃する可能性も打ち出した。

     これでは核を使う際の心理的ハードルが下がり、核攻撃の現実味が増すのは当然だ。「米国は核を使いたいわけではない」と国防総省高官は釈明するが、少なくとも米国と対立する国はそうは考えまい。

     小型核は偶発的な核戦争の危険を高めやすい。オバマ政権が艦船配備の核巡航ミサイル(SLCM)を退役させたのは、通常の巡航ミサイル攻撃を相手国が核攻撃と誤認、または意図的に曲解して核で反撃することを避けるためでもあった。

     SLCMの復活を打ち出したトランプ政権は、オバマ政権の「核兵器なき世界」を名実ともに過去のものとしたといえよう。

     極めて危険な選択である。トランプ大統領は先月末の一般教書演説でも、圧倒的な力を示すことが最良の防衛だという考えを示し、核軍拡に突き進む姿勢を見せていた。

     だが、既に世界最強の米軍の軍備拡張は、中露のみならず北朝鮮やイランの反発と軍拡を招かずにはいまい。そんな危険を冒すより中露を含めた国際的な軍縮を推進する方が安全で理にかなっている。

     核拡散防止条約(NPT)の観点からも疑問だ。NPTは米英仏露中に核兵器保有を認める代わりに、5カ国の責務として誠実な核軍縮交渉を求めている。トランプ政権の核政策はこの精神と相いれずNPTの空洞化に拍車をかける恐れがある。

    北朝鮮問題の障害にも

     NPRの策定はクリントン政権以来4回目。トランプ政権と同じ共和党のブッシュ(子)政権も「使える核」に傾斜したが、02年に公表したNPRでは前年の米同時多発テロを踏まえてテロ対応に重点を置き、旧ソ連やロシア敵視の戦略と完全に決別する方針を表明している。

     トランプ政権の激しい「ロシア敵視」は新たな冷戦を招きかねない。

     日本の立場も微妙になろう。昨年、核兵器を持たない国々は核保有国が核軍縮に消極的なことに怒り、核兵器禁止条約を採択した。「唯一の被爆国」の日本は米国の強い要請もあり、この論議に参加しなかった。

     だが、米国が核軍拡に傾けばNPTによる核軍縮・核全廃はますます見通しが立たなくなる。米国の「核の傘」に依存する国々は、日本も含めて禁止条約に反対の立場だが、かといって大国の核軍拡競争が始まることは歓迎できまい。

     河野太郎外相は今回のNPRについて、日本など同盟国に対する拡大抑止(核の傘)への関与を明確にしたと評価した。北朝鮮の核武装を許さないとする強い態度表明も日本政府にとって好ましいものだろう。

     とはいえ、核を除けば軍事弱小国に過ぎない北朝鮮に対し、米国は核戦略を転換せずとも対応できよう。むしろNPRによって中露との対立が強まれば、北朝鮮問題をめぐる国際連携にとって重大な障害となりかねないことを自覚すべきである。

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