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SUNDAY LIBRARY

岡崎 武志・評『意識のリボン』『東京わが残像 田沼武能写真集』ほか

今週の新刊

◆『意識のリボン』綿矢りさ・著(集英社/税別1300円)

 『蹴りたい背中』で芥川賞を受賞したのがもう14年前。そんな綿矢りさも30代半ばに。最新短編集『意識のリボン』は、さまざまな女性を多面体で描く意欲作だ。

 表題作は不動産会社に勤める20代女性の話。中1まで母親が成長の記録を録画し、「私」はそれを動画サイトで繰り返し見る。その母が若くして死に、いま自分もバイク事故で生死を彷徨(さまよ)っている。彼岸の記憶を抱きながら生還した「私」が「意識にリボンを結んだら」どんな世界が見える?

 「こたつのUFO」は、30歳になる独居女性小説家が、「こたつ」で過ごす一日を叙述する。彼女はUFOの迎えを受け船内に……。饒舌(じょうぜつ)的独白体は太宰治を思わせ、ユーモアに溢(あふ)れている。少女や人妻、母親も角度を変えて描ける、そんな作家に著者は成長していた。

 「可能性はいつだって、外ではなく自分の内側に埋まっている」と「こたつのUFO」に書くが、その「可能性」を感じさせる。短編の巧(うま)い作家はいい作家だ。

◆『東京わが残像 田沼武能写真集』田沼武能・著(クレヴィス/税別2315円)

 いまなお現役の写真家の仕事を一望する写真集『東京わが残像 田沼武能写真集』が出た。浅草生まれで東京育ちの写真家は、若くして雑誌などで仕事を始めた。おかげで、戦後のどん底から東京オリンピック開催まで通覧できる。

 東京下町育ちというのは重要で、地べたに近い目線で、庶民たちの暮らしが、レンズを通して生き生きと捉えられている。特に子どもたちの写真がいい。紐(ひも)で電柱に繋(つな)がれた靴磨きの子ども、ベーゴマ、縄跳び、紙芝居、地面の落書きと、路上が子どもたちの楽園だったことがわかる。

 東京駅前で待機する人力車、歓楽街の花売り、水上生活者、銀座のたき火、新橋駅前の街頭テレビの雑踏と、失われた風俗と時間が、モノクロームで甦(よみがえ)る。半世紀前の東京は、いやに人懐っこく、人肌の温(ぬく)もりが感じられるのだ。

 年が明けたばかりでもう来年の話をすれば、2019年2月9日から東京・世田谷美術館で、大規模な展覧会が予定されている。

◆『小沢健二の帰還』宇野維正・著(岩波書店/税別1700円)

 小沢健二は1993年にソロデビューし、「シブヤ系」と呼ばれるポップスターとなった。しかし、5年後ニューヨークへ移住。長い空白期を経て、昨年シングル盤を発売したのが19年ぶりのことだった。宇野維正(これまさ)『小沢健二の帰還』は、姿を消した空白期に着目し、激しい時間の変化の中で、忘れられることなく、支持され愛された小沢の音楽について考察する。沈黙の時も、常に「投光器のオペレーターのような存在」であろうと心がけた音楽家の実像が、初めてここで語られる。

◆『偉人たちのあんまりな死に方』ジョージア・ブラッグ/著(河出文庫/税別680円)

 ジョージア・ブラッグ『偉人たちのあんまりな死に方』(梶山あゆみ訳)は、ちょっと人に教えたくなる本。輝かしい功績は知っていても、意外に知らない偉人たちの死に方。それはあまりにもひどい。少年王のツタンカーメンは、ミイラになって、なお輪切りにされた。英国王ヘンリー8世は、並外れた大食いの果て、太って腐って破裂した。アラン・ポーは酒浸りの果てに錯乱し、アインシュタインは死後、脳を盗まれ、薄く240切れに刻まれた。いくらなんでも、こんな死に方はイヤだ。

◆『日本の中小企業』関満博・著(中公新書/税別800円)

 少子高齢化時代が招く危機は多種あれど、日本経済の土台を揺るがすのが中小企業の存続である。関満博『日本の中小企業』は、日本各地の現場に足を運び、危機の実態を報告する。1986年に約87万あった「中小」が、その後、半減。歴史上屈指の高度経済成長を高い技術力で支えた製造業が、少子高齢化の波に押され、後継者不足、安価な労働力のアジアとの競争の激化で、苦境に。そんな状況を見据えつつ、さまざまな新たな可能性を具体的に紹介し、未来へ生き延びる道を示す

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岡崎武志(おかざき・たけし)

 1957年、大阪府生まれ。高校教師、雑誌編集者を経てライターに。書評を中心に執筆。主な著書に『上京する文學』『読書の腕前』『気がついたらいつも本ばかり読んでいた』など

<サンデー毎日 2018年2月18日号より>

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