田中洋之 毎日新聞編集委員
3年前に「ジョージア」という名前の国がお目見えしました。新たに独立したわけではありません。それまで「グルジア」と呼ばれていた旧ソ連の国の表記が日本で変更されたのです。
1月の大相撲初場所で見事に初優勝を飾った栃ノ心関(30)=本名レバニ・ゴルガゼ=は、このジョージアの出身です。
なぜ国の表記が変わったのでしょうか。グルジアはソ連の盟主だったロシアの呼び方で、日本でも定着していました。グルジア料理や、特産のグルジアワインなどが知られています。
しかし、2008年に当時のグルジアがロシアと軍事衝突したことをきっかけに、「敵対関係にある国の言葉で呼ばれたくない」として、各国に英語読みのジョージアにするよう求めました。アメリカやヨーロッパなど世界の9割がジョージアと表記しており、グルジアと呼ぶのは旧ソ連の国や日本、中国など少数派でした。
これに対し、日本ではグルジアの呼び方になじみがあることや、ジョージアといえばアメリカ南東部のジョージア州が知られているので紛らわしい、として、政府内で変更に慎重な意見もありました。それでも、世界の大勢はジョージアであり、当事国が「ジョージアと呼んでほしい」と望んでいるのを拒む理由はなく、15年に大使館など在外公館の名称を定める法律を改正してジョージアにしました。
とはいえ、ジョージアはまだまだ浸透していません。缶コーヒーの銘柄をイメージする人も多いようです。ちなみにジョージアはコーヒー豆の産地ではありません。
そんななか、栃ノ心関の大活躍でジョージアの名称が一躍有名になりました。不祥事が続く大相撲界に明るいニュースをもたらしただけでなく、母国ジョージアの認知度を高めることにも貢献したようです。
通算8年半にわたりモスクワ特派員をつとめ、ユーラシア大陸の各地を取材した。ロシアが生んだキャラクター「チェブラーシカ」をこよなく愛する。