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余録

列島各地から菜の花の開花の知らせが届くころだ…

 列島各地から菜の花の開花の知らせが届くころだ。兵庫県・淡路島ではすでに咲き誇り、花の黄色が海の青に映える。江戸後期、この地の貧しい農家に生まれ、回船業で成功した末、ロシアに捕らわれた豪商、高田屋嘉兵衛(たかだやかへえ)。司馬遼太郎が「菜の花の沖」で波乱の人生を描いた▲嘉兵衛はロシアと渡り合い、友情を育んで日露の和解へ導く。記録に残る嘉兵衛の言葉は小説でこう表現されている。「愛国心を売りものにしたり、宣伝や扇動材料につかったりする国はろくな国ではない」▲それを思い出すのは内向きな「日本ファースト」の声をよく聞くからだ。今年は明治改元から150年。記念事業が進む。それに絡めて憲法改正や戦前回帰のムードを盛り上げようとする動きが目立つ。きのうの建国記念の日にあった行事からもうかがえる▲司馬はエッセーの中で、中国のある寓話(ぐうわ)を引いている。男が「壺(つぼ)の中」を理想郷と思い込み、そこへ入った。ごちそうにありついたが、やがて現実世界に引き戻される。外の世界が見えなくなる危うさ。司馬は戦争へ突き進んだ昭和を「壺の中」にあった時代と書いた。「日本ファースト」に通じる▲「菜の花の沖」にこうある。菜の花は実を結べば人の手を経て油になり、諸国へと船で運ばれる。遠い北方の島の番屋で、夜なべ仕事の網繕いの手元を照らすこともある。世界はそんなふうにつながっている▲世界の中の日本を考えた嘉兵衛。かの人から学ぶことは多い。きょうは司馬の命日、菜の花忌。

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