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SUNDAY LIBRARY

岡崎 武志・評『明智小五郎回顧談』『オンナの奥義』ほか

今週の新刊

◆『明智小五郎回顧談』平山雄一・著(集英社/税別2200円)

 明智小五郎といえば、金田一耕助と並び、日本で最も有名な名探偵だ。江戸川乱歩が創出した架空の人物で、生没年及び出生などは不詳。そのあたりを、生い立ちから明らかにした長編小説が、平山雄一『明智小五郎回顧談』だ。

 療養所で余生を過ごす明智は60歳を過ぎ、元警部補相手に生涯を語るという設定。背が高く、バタ臭い顔立ちからいじめられ囃(はや)し立てられた少年が、一高から東京帝大へ入学。特異な事件と遭遇し、解決談を小説『D坂の殺人事件』にしたのが、あの江戸川乱歩だ。

 著者は虚実織り交ぜながら、資料を駆使し、明智に生命を吹き込む。『ぺてん師と空気男』『パノラマ島綺譚(きだん)』『人間豹』など明智が活躍する事件の舞台背景も、きわめてリアルに再現される。これ以上知的で楽しい遊びがあろうか。そして真打ち・怪人二十面相の登場だ。

 あの小林少年は、いまどうしているかも、本作ならわかる。こうなったらぜひとも、金田一耕助版も書いていただきたい。

◆『オンナの奥義 無敵のオバサンになるための33の扉』阿川佐和子/大石静・著(文藝春秋/税別1300円)

 生涯独身、かと思いきや、還暦過ぎて電撃結婚をし、世間をアッと言わせた阿川佐和子。「ふたりっ子」「セカンドバージン」ほか、人気ドラマのヒットメーカーの大石静。この恐れ知らずの2人が『オンナの奥義(おうぎ)』で、ガチンコ対談を繰り広げる。

 中身は「結婚、仕事から下着選び、更年期との付き合い方」と幅広いが、本音が炸裂(さくれつ)して、男性は少し腰が引けるほどだ。阿川の下着はベージュと白と黒なのに対し、大石はド派手好み。阿川は結婚相手を「オジサン」と呼ぶなど、少し惚気(のろけ)も聞けます。

 若き日、婚外恋愛をしていた大石は、その相手を夫に会わせ、以後、後ろめたさがゼロになったという。このあたり、語らせ上手の阿川の引き出しの巧(うま)さを感じる。シクラメンの花に死生観を見いだす阿川もかなり変わっているが……。

 明るく元気なオバサンによる本音トークは、男性が威張っていた時代を、力強く生きぬいた2人ならではのパワーに満ちている。

◆『八甲田山 消された真実』伊藤薫・著(山と溪谷社/税別1700円)

 映画の「天は我々を見放した」のセリフで、世に広く知られるようになった八甲田山雪中行軍の悲劇。しかし、新田次郎の原作を含め、あそこでは多くのことが隠されていたという。伊藤薫『八甲田山 消された真実』は、生き証人の声や、関連資料などから、100年以上前に起こった事故の全貌を報告する。著者は元自衛官で、その後の八甲田山演習の経験者であることから、数々の新事実が暴き出された。大本営発表がいかに隠蔽(いんぺい)と捏造(ねつぞう)に塗り固められたものかが、本書でよくわかる。

◆『何が私をこうさせたか』金子文子・著(岩波文庫/税別1200円)

 『何が私をこうさせたか』は、大逆罪で死刑判決を受けた金子文子の獄中手記。劣悪な家庭環境で無籍者として育ち、虐待を受け、自殺も試みた文子は、早くに自立、関東大震災前夜の東京でたくましく生きぬく。朝鮮人の無政府主義者と知り合い結婚、どん底から「私は私自身を見出した」手記だけに、きわめて力強い。死刑判決の恩赦を受けず、自ら死を選び取る20年余りの短い人生に、大正という時代と、社会の矛盾が如実に描き出されている。『君たちはどう生きるか』より凄(すご)い!

◆『笑劇の人生』芦屋小雁・著(新潮新書/税別720円)

 芦屋小雁(こがん)は、戦後上方芸能界の最前線で出ずっぱりの名喜劇人で、兄は芦屋雁之助。『笑劇の人生』で、兄とともに歩んだ自らの芸能史と、多くの盟友たちの横顔を伝える。15歳で兄と旅回りの漫才から芸歴がスタート。テレビ普及以後は、「番頭はんと丁稚どん」「てなもんや三度笠」など、関西人ならその活躍を誰もが知る。清純派女優・斉藤とも子との「年の差婚」と破局ほか、女性との話も興味深い。1日5食、睡眠は3時間、スポーツなしで健康体という怪物ぶりに学びたい。

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岡崎武志(おかざき・たけし)

 1957年、大阪府生まれ。高校教師、雑誌編集者を経てライターに。書評を中心に執筆。主な著書に『上京する文學』『読書の腕前』『気がついたらいつも本ばかり読んでいた』など

<サンデー毎日 2018年2月25日号より>

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