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SUNDAY LIBRARY

岡崎 武志・評『卑劣犯』『世界の終わりの天文台』ほか

今週の新刊

◆『卑劣犯』笹本稜平・著(光文社/税別1700円)

 興奮しつつ読了。これは面白い小説だぞ。笹本稜平『卑劣犯』のことだ。児童ポルノの運営サイトを調査中の少年育成課刑事・国枝が、車で轢(ひ)き殺された。車の持ち主は上司・鹿野だが、盗難車と主張。アリバイもあった……。

 ところが、鹿野には児童性愛の趣味があり、限りなくクロに近かった。警視正・入江は部下の北本と、元探偵・本郷を配下にチームを組み、事件の真相と鹿野のアリバイ崩しに乗り出す。そこに加えて、国枝の部下が、弔い合戦として別の動きをしていた。

 被疑者が警視庁内部にいる、というのは困難がつきまとう。複雑な組織の上下関係が、障害となり大きな壁として立ちはだかるからだ。著者は、重い闇を切り裂いて、光明を探す刑事たちの地道な努力を、丹念に描き出す。

 しかも、事件の背後には、より大きな意外な人物がいた。「警視庁という巨大な組織と刺し違える覚悟」で、職務を超えて正義を貫く男たちの姿に心が躍る。

◆『世界の終わりの天文台』リリー・ブルックス=ダルトン/著、佐田千織/訳(東京創元社/税別2200円)

 地球の終末、というのはよほど魅力的なテーマらしく、J・G・バラードの諸作や、映画化もされた『渚にて』、我が国でも小松左京『復活の日』と名作が揃(そろ)う。人間は最後、ひとりぼっち。

 そこへ新たに加わったのが、リリー・ブルックス=ダルトン『世界の終わりの天文台』(佐田千織訳)。世界の終末に、人類はみな宇宙へ逃げ出した。北極圏の天文台に一人居残ったオーガスティンは老いた学者。大移動の混乱で取り残された少女を引き取り、世界の終わりを待つ。

 一方、木星探査から帰還中の宇宙船で目覚めたサリーは、あと10カ月で着く予定の地球からの通信が途絶えたことを知る。地球には娘がいた。核で人類は滅亡? 仲間たちと募る不安に耐えながら、広い宇宙を漂い続ける。

 この世界が終わるとしたら……絶望的なテーマながら、二つの世界で生き続ける人間たちが愛おしい。地球は沈黙しても、人は語らい、それでも明日を信じるのだ。

◆『大林宣彦の映画は歴史、映画はジャーナリズム。』大林宣彦・著(七つ森書館/税別1800円)

 大林宣彦監督は、一昨年、肺がんで余命宣告を受けながら新作「花筐/HANAGATAMI」を執念で完成させ話題となった。『大林宣彦の映画は歴史、映画はジャーナリズム。』は、熱い映画愛を語る対談&トーク集。川本三郎、犬童一心、手塚眞ほか、原田知世の回には高柳良一が登壇するサプライズあり。川本とは少年期に始まる映画体験を。「シェーン」は「あれは東部西部劇」で、あそこで西部劇が終わった。あるいは、記憶だけの映画には美しい誤解があるなど楽しい発言ばかり。

◆『パノララ』柴崎友香・著(講談社文庫/税別980円)

 柴崎友香の『パノララ』は野心的長編。「わたし」田中真紀子はシングル28歳。友人イチローの勧めで、彼の実家・木村邸に部屋を借りる。これが不思議な造りの家で、バラバラの3棟が増築で結合し、その上に赤い小屋があり、そこが「わたし」の部屋だ。趣味のパノラマ写真を、口の回らぬ子どもが「パノララ」と言ったことがタイトルの由来。個性的な木村家との生活の中で、微妙に日常がずれ、ゆがみ始める。前衛的手法が、緩やかな筆でつづられ、まさしく柴崎ワールドが堪能できる。

◆『ご先祖様、ただいま捜索中!』丸山学・著(中公新書ラクレ/税別820円)

 誰でも、自分のルーツを知りたいと思う。しかし、せいぜい曾祖父母止まり。『ご先祖様、ただいま捜索中!』の著者・丸山学は、本職は行政書士ながら、いつのまにか先祖探しが本業に。戸籍から同姓宅、菩提(ぼだい)寺(墓石)、古文書などを手がかりに、200年、400年と先祖を調査していく。本書では、3人の実例を紹介しながら、図書館の利用法など自分でもできる調査のノウハウを開陳する。先祖が戦国時代の武将だとしたら……なんだか、考えるだけでワクワクしてきます。

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岡崎武志(おかざき・たけし)

 1957年、大阪府生まれ。高校教師、雑誌編集者を経てライターに。書評を中心に執筆。主な著書に『上京する文學』『読書の腕前』『気がついたらいつも本ばかり読んでいた』など

<サンデー毎日 2018年3月4日増大号より>

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