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余録

俳人の金子兜太さんは…

 俳人の金子兜太(かねこ・とうた)さんは80歳を過ぎてから「立禅(りつぜん)」を日課にするようになった。何かというと、亡くなった友人知己、恩師や先輩、肉親の名を次々に心の中で唱えるのだ。思い出も頭の中を断片的によぎっていく▲その数、120~130人、自分の中ではみんな生きているように思える。この立禅を30分近く行うと、その日の暮らしがすっきりと豊かな気分になったという。「死んでも命は別のところで生きている」。そう実感する毎日だった▲代表句の一つ「おおかみに蛍(ほたる)が一つ付いていた」は、ちょうどこんな死者たちへの呼びかけを始めたころの作になる。昔はオオカミがすんでいた郷里・秩父の山々に「いのち」を幻視した句には、「人間に狐(きつね)ぶつかる春の谷」もある▲かつて自分の3要素は「戦争・戦場体験」「(勤務した)日銀での冷や飯」「俳壇の保守返り(への反発)」と語っていた金子さんだ。その反骨の上にも歳月は降り積もったが、戦争の記憶に根ざす反戦の闘志は終生変わらなかった▲「死にし骨は海に捨つべし沢庵(たくあん)噛(か)む」。餓死していく戦友から散骨を頼まれたことが何度もあった。当時はごちそうだったたくあんを今かみしめ、その無念に報いるべく自らを励ます。この戦後の初心を抱えたままでの旅立ちだった▲「老いてますます野性化」したとは作家の嵐山光三郎(あらしやま・こうざぶろう)さんの金子さん評という。この世の目に見えぬ死者や生きものと自在に語り合った俳人が赴いたあの世では、今ごろ百数十人の宴がたけなわに違いない。

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