メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

余録

放射能に汚染されている海が月明かりに照らされる…

 放射能に汚染されている海が月明かりに照らされる。津波にさらわれた街が海底に残っている。立ち入り禁止の海域にひそかに潜る一人の男。秘密のグループに依頼され、大切な人との思い出の品を捜している▲作家の天童荒太(てんどう・あらた)さんが2年前に出版した小説「ムーンナイト・ダイバー」である。地名は出てこないが、舞台は3・11後の福島だ。天童さんは鎮魂と生きることの意味を問うこの作品を書く時、福島第1原発に近い浜辺を訪れた。波に触れて「書かせていただきます」と海に伝えたという▲東日本大震災から間もなく7年になる。天童さんがたどった海岸線を歩くと、津波に壊された漁港の復旧工事が進んでいた。だが人の姿はめったに目にしない▲陸側に目をやれば、雑草に覆われた平地が広がる。港の工事に使うコンクリートのブロックが墓石のように延々と並ぶ。その向こうに汚染土を詰めた黒いフレコンバッグの山が見え、取り壊されていない廃屋が点在する。7年たっても時間が止まっているようだ▲ムーンナイト・ダイバーには生き残った人の苦悩が描かれている。夫のしていた指輪を捜さないでと言う女性がいる。見つかれば、夫の死を認めることになるからだ。記憶を失い、どこかで生きているかもしれない。そう祈る人が現実の世界にもいる▲原発事故は地上から何を奪ったのか。思い知らされたはずなのに、いつしか薄れている。大切なものは今も海の底に沈んでいる。もう一度思い出すために月夜の海へ潜らねば。

    毎日新聞のアカウント

    話題の記事

    アクセスランキング

    毎時01分更新

    1. 仙台 交番で警官刺され死亡 襲撃の男、別の警官が射殺
    2. 絢子さま婚約内定 プロポーズ「あまりに突然でしたが…」
    3. 皇室 小室家側に「国民が納得できる説明を」秋篠宮ご夫妻
    4. プレイステーション 復刻版「プレイステーション クラシック」発売 12月3日に9980円で
    5. 仙台・警官刺殺 容疑の男、刃物と機関銃様のもの所持

    編集部のオススメ記事

    のマークについて

    毎日新聞社は、東京2020大会のオフィシャルパートナーです