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SUNDAY LIBRARY

著者インタビュー 星野智幸 『焔』

飛び交う言葉の速度を遅らせ立ち止まってもらうのが小説の役割

◆『焔』星野智幸・著(新潮社/税別1600円))

 モノクロページなのがもどかしい。書店で実物を手にとってほしい本だ。文字なのか絵なのか、人なのか舞いなのか、躍動する線がカバーにあふれている。しかも箔(はく)押し。かざしてみる角度や天候によってその色は変化する。読み終えてみれば、この装丁が小説の世界観を見事に体現したものだということが理解できるはずだ。

「装画と題字を描いてくださった方、デザイナー、編集者といろいろ話し合いました。サッカーでよく“今回はチーム全体で良いイメージが共有できました”なんてコメントがありますけど、まさにそんな感じです」

 星野智幸さんは、会心の笑みとともにそう話してくれた。

 野原のような場所に組み上げた薪(まき)があり、火が灯(とも)される。火を中心として人々が車座になり、順番に自分の物語を語って、語り終えるとその人の存在は消えてしまう。そんなSFめいた作品が9編。2011年のあの震災直前に書かれたものから17年のものまであり、それぞれ別の媒体に発表されたものがベースになっている。この本が特異なのは、一つひとつの作品のあいだをつなぐごく短いインターバルが挿入されており(そこは紙の色も書体も違うのだ! やはり実物を見てほしい)、そこだけが書き下ろしになっている点だ。

「バラバラに書いたものですが、再読してみると、ある流れがあるように感じたんです。そこで、作品のあいだにテキストを入れる試みをして流れを明確にしてみたら、一つの世界像が立ち上がっていきました。この経験を通じて、この数年、自分で意識していた以上に、ある共通した何かを追いかけていたんだな、ということもわかりました」

 結果、連作短編集でもない、長編小説でもない不思議な書物ができあがった。9編の中でわれわれの社会は、いや地球は、のっぴきならない絶望の淵(ふち)に追いやられる。異常気象に苦しめられ、死者と生者の境界がわからなくなり、雨が横に降り、貨幣の単位が「人」となる。世紀末などという言葉では追いつかない、突き抜けた世界。

「これまでも、何らかの形で自分が生きている社会の現実を反映した小説を書いてきました。今、言葉のスピードがどんどん速くなっていますよね。多くの人が自分の中を経由していない他人の言葉を声高に叫び、おまえはどっち派だ?と迫ってくる。そんな時こそ、言葉の速度を遅らせ、“ここに書かれていることはいったい何だろう?”と立ち止まってもらうことが小説の役割だと思います」

 ラストにして最新作の「世界大角力共和国杯」には希望の光が見える。現実の「相撲」に対してオルタナティブに「角力(すもう)」と表記し、やれ力士が外国人だ、日本人だ、と騒ぐ貧しい現実に「共和国」を対置してみせる。

「試行錯誤したんですが、角力を持ってきたらうまくいきました。子供の頃から大好きで実況中継もずっと聞いていますから、角力の言語が身体化されているのかもしれません(笑)」

 自分とは何か。自分でない者とは何なのか。根源的な問いとともに、読む歓(よろこ)びに身を委ねることのできる本である。(構成・北條一浩)

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星野智幸(ほしの・ともゆき)

 1965年、アメリカ・ロサンゼルス市生まれ。97年、「最後の吐息」でデビュー。著書に『目覚めよと人魚は歌う』(三島由紀夫賞)、『俺俺』(大江健三郎賞)、『夜は終わらない』(読売文学賞)などがある

<サンデー毎日 2018年3月25日増大号より>

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