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SUNDAY LIBRARY

岡崎 武志・評『光点』『からだの声をきく』ほか

今週の新刊

◆『光点』山岡ミヤ・著(集英社/税別1300円)

 第41回すばる文学賞受賞作。山岡ミヤ『光点』は悲しい小説だ。大した事件も起こらないのに、主人公・実以子(みいこ)が押し隠した気持ちに加担して、何だか、ドキドキしながら読んだ。

 映画館がある隣町へはバスで1時間の土地で、母と父と3人暮らしの「わたし」。弁当工場と家を往復するだけの日々。友人もいない。よく食べる母は、徹底して実以子を言葉で抑圧し続け、父は外に女を作っている。

 工場の冷凍庫へ閉じ込められる恐怖もあり、出口のない「わたし」は、行き場を失う現代の若者たちの代表選手である。著者は、繊細かつ大胆な表現で、20代女性の不穏と孤独を描く。いつも通う山の上の神社で、ある日、カムトという青年と出会う。2人はおずおずと心を寄せ合うが……。

 土に穴を掘るカムトは、汚れた手で実以子に触れるが、これは恋ではない。切ない2人の求める「光点」が、最後に息を呑(の)む美しいシーンで用意されている。

◆『多田富雄 からだの声をきく』多田富雄・著(平凡社/税別1400円)

 ハンディーな造本で、科学者の随筆をアンソロジーにしたシリーズ「科学のこころ」が2期完結。多田富雄『多田富雄 からだの声をきく』が出た。

 多田(2010年死去)は、免疫学者だが、幅広い執筆活動で広範な読者を得る。能に造詣が深く、新作能の作者でもある。脳梗塞(こうそく)で半身不随となりながら、不屈の闘病と「知」の活動を続け、大いに話題になったのである。

 本書に収録された随筆は、達意の文章で、読者に感じ、考えることを自然に促す。「あの美しい星空。そこには人間が抵抗することができない永遠の何ものかがある。それに対して、人間は有限で必ず死ぬ。この自分だって--」は「理科が嫌いな中学生の君へ」と副題がついた一文から。

 夜ごと星空を眺めた少年が、やがて宇宙の原理について考え、人間や自然のことを思うようになる。そこに美もある。多田富雄の誕生だ。この春、中学、高校へ行く若者に贈りたい。

◆『母の家がごみ屋敷』工藤哲・著(毎日新聞出版/税別1400円)

 工藤哲(あきら)『母の家がごみ屋敷』は高齢者を近親に持つ者にとって、とても他人事(ひとごと)ではない。町なかで目にするようになった「ごみ屋敷」。毎日新聞記者の著者は、「ものがうまく捨てられない人」を取材する中で、高齢者らが体力低下や認知症などから「セルフネグレクト(自己放任)」の状態に陥ることを知る。県営団地で起きた一人暮らし女性の異変、片付けを拒み「もの屋敷」に住む男性、母の死で直面した部屋の大量のごみ……。さまざまな事例から、対処法や解決法を探る。

◆『オンブレ』エルモア・レナード/著(新潮文庫/税別550円)

 村上春樹が手がけた新翻訳は、意外やエルモア・レナードの初期作品。『オンブレ』は、ノワール小説で日本でも人気のある作家による西部劇2編で、ともに映画化されている。表題作は、語り手のアレンが、1884年夏の長い駅馬車旅を回想するところから始まる。「オンブレ(男)」の異名を持つラッセルは、アパッチに育てられた伝説の男。クールな射撃の名手だ。ひと癖ある連中との旅の行く手に、荒野での危険な死闘が待っていた。村上の訳は、よくこなれて非常に読みやすい。

◆『生きものは円柱形』本川達雄・著(NHK出版新書/税別900円)

 私たちの指や血管、ゾウの鼻、ナマコやミミズは、みんな円柱の形をしている。本川達雄『生きものは円柱形』は、ベストセラー『ゾウの時間 ネズミの時間』の著者による、アッと驚く生物学。人工物に四角が多く、生物に円柱形が多い。それにはみんなわけがある。元は球から進化した円柱は強く、生き残るためのデザイン。そこから、生きものと水の関係、なぜ生きものはやわらかくしなやかなのかと、独自の生物学が発展していく。読者に語りかける文体で、生物の神秘に迫る好著。

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岡崎武志(おかざき・たけし)

 1957年、大阪府生まれ。高校教師、雑誌編集者を経てライターに。書評を中心に執筆。主な著書に『上京する文學』『読書の腕前』『気がついたらいつも本ばかり読んでいた』など

<サンデー毎日 2018年3月25日増大号より>

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