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紙面審ダイジェスト

過去の差別的表現 現在の報道に工夫の余地は

 紙面審査委員会は、編集編成局から独立した組織で、ベテラン記者5人で構成しています。読者の視点に立ち、ニュースの価値判断の妥当性や記事の正確性、分かりやすさ、見出し、レイアウト、写真の適否、文章表現や用字用語の正確性などを審査します。審査対象は、基本的に東京で発行された最終版を基にしています。指摘する内容は毎週「紙面審査週報」にまとめて社員に公開し、毎週金曜日午後、紙面製作に関わる編集編成局の全部長が集まり約1時間、指摘の内容について議論します。ご紹介するのは、その議論の一部です。

     以下に出てくる「幹事」は、部長会でその週の指摘を担当する紙面審査委員会のメンバーです。「司会」は編集編成局次長です。

    <3月2日>

    ■過去の差別的表現 現在の報道に工夫の余地は

     幹事 旧優生保護法の下で障害者らに行われた強制不妊手術の問題を報じる記事で、現在は差別的な表現だとして新聞紙上で使われない用語がしばしば出てくる。「精神分裂病」「精神薄弱」「精神病」「色盲」などだ(「毎日新聞用語集」によれば、それぞれ「統合失調症」「知的障害」「精神障害」「色覚障害」に言い換えるとなっている)。記事はいずれも過去に資料などで使用された用語を歴史的事実として書いており、それ自体は当然だと思う。カギカッコでくくって書いたり、当事者の心情を記事に盛り込んだりするなど、差別・偏見を広げないように努めていることも理解できる。ただ、こうした用語が頻出すると、もう一歩工夫する余地はないだろうかという気もしてくる。

     例えば、20日朝刊社会面の<北海道/不妊手術 記録を公表/旧優生保護法下 審査の93%「適切」>には以下のくだりがある。「手術を認めた主な理由については、当時の分類で『精神病』532人▽『精神薄弱』558人▽『精神病質』17人だったとし、『身体疾患』(15人)や『奇形』(7人)もあった。道は該当する具体的な疾患名について明らかにしていないが、旧優生保護法ではそううつ病や顕著な性欲異常、犯罪傾向、全色盲などを幅広く対象にしていたという」。「当時の分類で」とことわっているが、「精神病」「精神薄弱」「奇形」「性欲異常」「色盲」と続くと、少し抵抗感があった(せめて「性欲異常」「犯罪傾向」「全色盲」はカギカッコでくくった方がよかった)。

     強制不妊手術の問題では、今後もこうした用語を使わざるを得ないだろう。早めに対応を議論しておいた方がよいのではないか。紙面審では、以下のような案が出た(結論というわけではない)。

    (1)差別的な用語は必ずカギカッコでくくる。

    (2)一つの記事の中で、差別的な用語の使用数は最小限にとどめる。

    (3)差別的な用語の後に丸カッコで現在の表現を付記する。例えば「精神分裂病」については「(現在の『統合失調症』)」と補う。ただ、「遺伝性精神薄弱」の場合に「(現在の『遺伝性知的障害』)」としていいのかどうか、分からない。

    (4)[おことわり]などの形で、現在は使わない用語であることを明示する。

     司会 いろいろな部で連携して取り組んでいる問題だ。各部に聞いてみたい。まず地方部。

     地方部長 旧優生保護法の問題は、今の価値観からすると違和感がある。人権意識が高まり、法律自体が受け入れられないという感覚になっている。それと表裏一体で、当時の病名にも差別的なものがあるが、これはむしろ時代を映し出す証拠なので、そのまま載せるべきだと思う。紙面審に案を示してもらったが、なかには気分を悪くする人もいるだろうから、多く出てくる特集面では[おことわり]を入れてみることも考えたい。日々の紙面では、カギカッコでくくるのも一案だが、この日の紙面で言えば、カギカッコが非常に多くなって煩雑になるなという気持ちが現場にはあったようだ。「当時の病名では」などの注釈を入れるなど、注意をはらいたい。傾聴すべき指摘をいただいた。

     司会 生活報道部。

     生活報道部長 地方部長の話とほぼ一緒だが、カギカッコでくくらなくてもいいのかなと思う。よく新聞社ではカギカッコでくくるが、そのニュアンスが読者に伝わっているのかと思っている。カギカッコでくくると、行数が増えてしまう。あくまで当時の病名であることを冒頭できちんと書いておくことが必要なのかなと思う。今使わない言葉ばかりで、最小限にとどめたい、あまり読みたくない、という思いもあるが、こうした言葉自体がくくり方やレッテルの貼り方が、いかにすごいかが如実にわかる気がするので、あえて数は抑えなくてもいいのかなという気持ちはある。

     司会 医療福祉部。

     医療福祉部長 4案で言えば、(2)だ。カギカッコは先ほども出たように読者に意味が伝わるのかという疑問があるので付ける必要はない。地方部長も言っていたが、当時の表現は載せるべきだ。新聞を作るわれわれも反省という意味でもきちんと載せるべきだと思っている。ただ、たくさん載せると、今まさに裁判を起こそうとする人たちを「こういう人なのか」と邪推させるリスクもある。最小限にしていくのがいいのではと思う。当時の病名だという[おことわり]を載せるのが落としどころではと思う。

     司会 校閲。

     情報編成総センター編集部長(校閲) カギカッコでくくれば逆に目だってしまうリスクはある。当時の病名だという意思が書き手にあっても、読み手に伝わらない。当時の該当する条文そのものをカギカッコでくくる、というのもあるかもしれない。(3)は薦められない。逆に遺伝で、恋愛もできないのかと思わせてしまう可能性もある。知的障害に仮に遺伝的なファクターがあるにしても、それだけではなく、環境的な要因とかもある程度あると思うので。[おことわり]の文言にしても注意を払って書かねばならない。

     司会 今後特集面を組むときには、[おことわり]を入れた方がよいかもしれない。

     社会部長 毎回[おことわり]を入れるのは難しいから、病名がずらずら並ぶときに、最後に「当時の疾患名」と入れるとか。

     司会 特集面では、条文なども入れるようにしているが、それもこうした点に注意しないといけない。

    ■「追い抜き」に戸惑った

     幹事 22日朝刊1面2番手の平昌五輪記事の見出しは<女子 スピード 追い抜き 金>。一瞬、女子はスピードスケートで何を追い抜いて金メダルを取ったのか? オランダチームを追い抜いたってこと?と頭が混乱した。

     「追い抜き」とは「パシュート」のことだった。新聞は全紙「追い抜き」だったが、テレビは「パシュート」と連呼していたので、試合の翌日朝刊の「追い抜き」と結びつかなかった。朝刊のテレビ欄も「パシュート」だ。本紙は「追い抜き」を使うと決めているのだろうが、記事の初出は「スピードスケート女子団体追い抜き(パシュート)」などと表記したほうが、読者に親切ではないか。

     社内の記事データベースで見ると、10年のバンクーバー五輪では「団体追い抜き(チームパシュート)」と表記している。産経の23日朝刊2面社説の見出しはなぜか<パシュートの金/「団結と個の力」学びたい>で、記事は「スピードスケート女子団体追い抜き(チームパシュート)」となっていた。ところで、「パシュート」は「追い抜き」より「追跡」という意味ではなかろうか。

     司会 運動部。

     運動部長 指摘の趣旨はよくわかる。開催期間中も複数の読者から「なぜパシュートと書かないのか」と問い合わせが来ていた。共同通信もそう表記している。種目自体は新しくて、五輪に入ってきたのは06年のトリノからだ。スケートで始めたのも1990年代後半からだ。パシュートに日本語をあてるときに、同じ形の競技が自転車であって、それが「団体追い抜き」という名前で、そこから持ってきた。自転車の場合は走っているうちに抜くこともあり、追い抜いたら勝ちとなる。翻訳としては「追跡」「追いかけ」が正しいのだろうが、ルール上、追い抜けば勝ちになるので追い抜きとしている。現地のデスクは、前回五輪でも使っているし、パシュートと書いても意味が分からないから「追い抜き」でいいと思ったらしい。バンクーバーのときは、ちゃんと()でパシュートと入れていた。入れた方が分かりやすい。

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