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キーパーソンインタビュー

ブロックチェーンで難民IDを 通貨以外の利用知って イーサリアム財団の宮口礼子さん

宮口礼子さん=東京都千代田区で2017年12月、岡礼子撮影

 仮想通貨「ビットコイン」を生んだ技術の「ブロックチェーン」。事実上、改ざんが不可能とされ、金融分野の利用に注目が集まり、農産物のトレーサビリティー(流通経路の追跡)や再生エネルギーの売買記録など幅広い活用法が模索されている。その一つが身分証明(ID)だ。ストリートチルドレンや難民にIDを発行し、国のIDがなくても医療や教育を受けられるようにするプロジェクトが始まっている。今年2月、仮想通貨「イーサリアム」の開発に携わるスイスのイーサリアム財団のエグゼクティブディレクターに就任し、個人的な活動としてIDプロジェクトを支援する宮口礼子さんに、ブロックチェーンの可能性を聞いた。【岡礼子】

 --なぜ、ブロックチェーンでIDを。

 宮口さん 世界には、戸籍の登録制度が成り立っていない国や、難民で国が発行した身分証明を利用できないなど、IDを持てない人たちが大勢います。IDがないと、医療や教育を受けられなかったり、銀行口座を持てなかったりする。人身売買が横行する地域もまだあり、売られた子供を助けだそうにも、身元を証明する手段もありません。国によらないIDがあれば、そんな子供たちの暮らしを少しは改善できるのではないかと思いました。

 IDは本来個人のものです。どこに行っても自分自身で身元を証明する手段は必要ですし、戦争が起きても難民になっても機能する必要がある。ブロックチェーンの技術が適しています。

 --ブロックチェーンを使う利点があるのですか?

 宮口さん ブロックチェーンは、事実上改ざんできません。大きなシステムは必要なく、低コストで大量のデータに対応できます。これからは、あるデータを正しいと実証する方法としてブロックチェーンを使うことが主流になっていくと思います。

 すでに著作権を保証する取り組みなどもありますし、IDとして使う場合も、スマートフォンがあれば、どこでも身分を証明できます。たとえスマホを持っていなくても、登録しておけば、インターネットにアクセスできる場所に行った時に身分証明として使えます。

国に頼らない信頼できるIDを

 --銀行に口座を作ったり、教育を受けたりする際に、使えるようになるでしょうか。

 宮口さん 難民問題を抱える国の中には、すでに行政府がID問題の解決策を模索しているところもあります。導入は、技術的には簡単です。ただ、普及させるには、地域の実情に沿った仕組みを作り、簡単に使えるようにしなければなりません。大事なのは、実際に使う人たちの受け止め方で、そこは教育が必要です。

 これまで、少額のお金を貸したり、送金の仲介をしたりする役割を担ってきた「町のたばこやさん」のような人たちを、うまく巻き込んで広げるために、どのような方法を取れば良いか、検討しています。

 実は、IDカードや証書など、従来の身分証明の仕組みが成り立っていない国や地域の方が、デジタル技術が早く使われ始めることがあります。先進国では、既存のインフラが機能しているので、導入障壁になるのです。

 インドでは、目の虹彩情報を登録する個人IDの仕組みがありますし、インドネシアでも、住民登録はデジタル化されています。ただ、インドの制度は、政府がデータを管理しているために国内でしか使えず、難民のID問題の解決にはなりません。インドネシアでは、親が子供を登録しないケースが多く、運用がうまくいっていないと聞いています。

 登録法が複雑だったり、申請費用がかかったりすると、あきらめてしまうみたいですね。子供に教育の機会を提供して、将来の国の発展につなげるためにも、まずは登録してもらわなければ始まりません。

 --本人であることを、どのように証明するのでしょうか。

 宮口さん 今進めている「Ever(エバー)ID」では、瞳の虹彩や顔認識、指紋などの生体情報をハッシュ化(あるデータを固有の数値に変換する方法)してブロックチェーンにする計画です。

宮口礼子さん=東京都千代田区で2017年12月、岡礼子撮影

 それをベースに、出生地や母語といった情報を付加したり、パスポート番号をひもづけたりすることができます。SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)のように、互いに知り合いだという情報を組み合わせることも可能です。自分自身でコントロールできて、国に頼らなくても、信用できるIDになると期待しています。

普及のハードル高いのは先進国

 EverIDは米国の技術者チームのアイデアで、私は技術者チームの依頼でアドバイザーを引き受けました。アジア、アフリカの政府やNGOとパートナーシップ契約を進めているところです。2018年度中にはインドネシア、カンボジア、コロンビアなどで約300万人にIDを付与する予定です。利用法は、地域によって違いますが、土地の所有証明や、送金サービスの利用ができるようになります。

 例えばインドネシアにも難民がいて、仕事を提供しようとする会社もあるのですが、仕事を受けるのに身元の証明が必要ですし、賃金を得るのに銀行口座もあった方がいい。EverIDは、トークン(株式のように価値が変動する暗号通貨)を発行して、難民の人たちにも、きちんと労働の対価が支払われるようにもしたい。現金の代わりなので、(一般的なトークンと違い)1円=1コインにする予定です。

 --これまで現金を使っていた人にとって、仮想通貨はハードルが高いのでは。

 宮口さん 仮想通貨に対してハードルが高いのはむしろ日本などの先進国なのです。アフリカでも東南アジアでも、スマートでない携帯電話(日本でいうガラケー)を使ったモバイル送金はすでに一般的です。(代理店の役割を果たす)「町のたばこやさん」に携帯電話の画面を見せて現金を受けとる仕組みは受け入れられています。

 それ以前は、例えばアフリカで、20キロ離れた親戚にお金を届けなければならなくても、地域によっては、タクシーの運転手に謝礼を払って頼むくらいしか方法がなかったんです。「運がよかったら届く」くらいの確実性でしょう。でもほかに方法がないから仕方がない。それに比べたら、携帯電話のショートメッセージで認証して送金し、「たばこやさん」で受け取る方がどれほど便利か分かりません。すぐに使いますよ。それほど困っている度合いが高い。

 また、政情不安定な国では、現金を持つリスクは大きいです。翌日には紙くずになるかもしれません。日本ではビットコインはなかなか信用されませんが、現金の価値が一定でない国の人にとってはビットコインの方がいいのです。100万円が翌日0円になるような状況を味わったことがあると、ビットコインは少なくとも自分でコントロールできる「お金」だと思えるでしょう。そういう社会でこそ、仮想通貨やブロックチェーンが解決できることが山積されていて、もっと投資もされるべきです。

 --登録者が長期間アクセスできなくても、ID情報は不変のものとして、ブロックチェーンに保持されますか。

 宮口さん 設計の問題になると思いますが、少なくとも現状は、登録者がアクセスしない状態が続いたとしても、データが消えてなくなることはありませんし、IDとして機能します。

 ブロックチェーンは、つながることでデータの不変を証明する仕組みなので、データ量が増えれば処理時間はかかります。(ブロックチェーン技術を使った仮想通貨の)ビットコインもイーサリアムも、永久に膨大なデータ量を維持しながら、処理時間に影響を与えずにシステムの処理能力を拡大しようと、がんばっているところです。

 いくつものサービスが同時に存在して、目的に応じて使い分けることになると思います。送金するなら、スピードを求めるか、費用を抑えるかで選べばいい。IDは早さはそれほど重要にはならないのではないでしょうか。私たちとしては、特定の仕組みやサービスでしか使えないものをどんどん増やしても仕方がないので、各種の取り組みと連携していきたいと考えています。

 --EverIDに関わるきっかけは。

 宮口さん 私は幸運にも、ブロックチェーン技術を使ったさまざまなサービスの黎明(れいめい)期にアメリカにいて、大手仮想通貨取引所の米クラケンに加わりました。イーサリアムの誕生など新しいことが起きるのを間近で見ることもできた。この経験と人的ネットワークを生かして、ブロックチェーンの技術でいかに世の中を変えられるかを考えていきたいのです。特に日本では金融系の話しか聞きませんが、金融より社会にインパクトを与えるサービスが可能です。

 ブロックチェーンは、参加している人たちの意見が自然に反映されるようになっている点が革命的です。だからこそ、最初はアナーキー(無政府主義的)な人が参入しがちでした。でも、国家が機能しにくいボーダーレスの部分で、難民や体制の犠牲になった人たちをサポートするにはいい仕組みだと思っています。

 これまでは、国の関与なく、個人で身元を証明する手段はありませんでした。国家という枠組みが不要だと考えているのではありませんが、一国が国内の事情で動いても、国を超えた問題の解決にはなかなかなりません。


みやぐち・あやこ 愛知県出身。南山大学卒、米サンフランシスコ州立大でMBA取得。2018年2月、イーサリアム財団(本部・スイス)のエグゼクティブディレクターに就任。大手仮想通貨取引所「クラケン」を運営する米ペイワードの日本法人でマネージングディレクターを務め、巨額のビットコインを消失させたマウント・ゴックスの破産手続き支援を手がけたほか、日本ブロックチェーン協会創設者の一人でもある。

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