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SUNDAY LIBRARY

岡崎 武志・評『スタア誕生』『許されざる者』ほか

今週の新刊

◆『スタア誕生』金井美恵子(文藝春秋/税別1850円)

 「スターになる俳優は、昔も今も何か特別な何かがあるんだと思う、銀幕の輝く星といった何かが画面から放射されるのだ」と、これは銀幕やスターという言葉が、生活に生きていた時代の話。

 金井美恵子『スタア誕生』は、美容室に預けられ、女性の中で育つ姉弟を描いた『噂の娘』の続編。1950年代の地方都市、ジュディ・ガーランド主演「スタア誕生」の公開に合わせ、「私」の町でも、映画館でニューフェースの公開審査が行われた。

 モナミ美容室で働く「金魚の娘」が、映画界入りし女優に。しかし本作の主眼は、おそろしく息の長い文章で語られる映画の話、服装の描写、他人の噂話、町の変化などである。知的好奇心の強い、おしゃべりな女の子が行きつ戻りつ、記憶の世界で遊泳する。

 大量に流れ込む洋風と、少し江戸の時代を残す和風が入り交じり、町の活気が人々の活気ともなる。パンケーキのような、甘い香りのする長編小説である。

◆『許されざる者』レイフ・GW・ペーション/著、久山葉子/訳(創元推理文庫/税別1300円)

 レイフ・GW・ペーション(久山葉子訳)『許されざる者』は、CWA賞ほか、各賞を獲得した北欧ミステリー。3年前に引退した名捜査官ラーシュは、脳梗塞(こうそく)で倒れ、病床で介護を受ける身ながら、事件の調査に乗り出す。

 2010年ストックホルム。主治医の女医が語り出した長い物語は、25年前の少女強姦殺人という未解決事件。牧師の父が、犯人の懺悔(ざんげ)を聞いていた。少女の両親の行方は知れず、事件そのものが時効に……。八方ふさがりの厄介な謎に、麻痺(まひ)の残る体で、ラーシュはいかに対するか。

 調査を手伝う元捜査官、20歳下のラーシュの妻など、脇役の描き込みが細かく深い。特に介護のために派遣されたパンク少女がいい。最初ラーシュは嫌いつつ、やがて温かい気持ちを抱くようになる。

 日付による章分けで刻一刻と解決に近づいていく。「角の向こう側が見通せる」と称された老捜査官。少し、若き日のクリント・イーストウッドの姿が重なる。

◆『新宿ナイチンゲール』小原周子・著(講談社/税別1450円)

 小原周子『新宿ナイチンゲール』は、28歳の派遣看護師「ひまり」が主人公。彼女はもう5年もネットカフェで寝泊まりを続けている。ネットで依頼を受け、患者の元を訪問する。たいていは、1日8万円の介護費を自腹で払える裕福な家である。1泊2日20万円を払う末期のがん患者と、1日980円のネットカフェでシャワーを浴びる看護師。その理不尽と落差、介護の過酷な現場、家族の裏事情などが、小説という形でリアルに描き出され、息をのむ。小説現代長編新人賞奨励賞受賞作。

◆『遥かなる山旅』』串田孫一・著(中公文庫/税別920円)

 雑誌『kotoba』や『Coyote』などで、串田孫一(くしだまごいち)の特集が相次ぐ。2005年没の哲学者で名エッセイストが残した、膨大な山の文章が、高丘卓編『遥かなる山旅』でセレクションされている。「もう暮れかかるやっとの明るさに、雪がただほの青く見える明神や奥穂高の岩壁、それが今、長い別れのあとにやって来た私一人の目の前にある」(「孤独な洗礼」)。豊かな詩情と思索、よく見える目が一体となった名文に、陶然となる。山と対話した者だけに与えられるごほうび。

◆『こころの病に挑んだ知の巨人』山竹伸二・著(ちくま新書/税別900円)

 森田正馬、土居健郎、河合隼雄、木村敏、中井久夫は、いずれも日本人の「心」の問題を研究し、臨床に携わった人たち。山竹伸二『こころの病に挑んだ知の巨人』は、日本における近代的な心理的治療の黎明(れいめい)期から、その本質と治療法に向き合った人々の功績を解説する。心の病はなぜ起きるか? 生まれつきの気質に注目した森田は、やがて「森田療法」を確立、実践する。「甘え」と現代社会の関係に分け入って独自の理論を構築した土居。統合失調症についても詳しく取り上げる。

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岡崎武志(おかざき・たけし)

 1957年、大阪府生まれ。高校教師、雑誌編集者を経てライターに。書評を中心に執筆。主な著書に『上京する文學』『読書の腕前』『気がついたらいつも本ばかり読んでいた』など

<サンデー毎日 2018年4月1日増大号より>

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