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武田砂鉄の気になるこの人

個人の尊重と自由 ゲスト 映画監督 ヤン・ヨンヒさん(その2止)

差別にはびこる「どっちもどっち論」

 ヤン 濃く塩気の多い食べ物は体に悪いし癖になる。毒抜きが必要ですね。少なくともあれはバラエティー番組でお気楽に扱う話ではない。「かぞくのくに」でも、主人公が工作員になるよう勧誘されます。だからといって、「ヤンヨンヒもスリーパーセルの存在を肯定している」で終わらないよう腐心したつもりです。私は既に北朝鮮に入国できなくなって久しく、兄たちが平壌を追放されたり収容所に送られたりするリスクもある。自分の育ったコミュニティー、両親が人生をささげた組織、祖国と教えられたあの国と本気で向き合った表現と、笑いながらの無責任な発言の違いは伝わると信じています。

     武田 今後のご予定は?

     ヤン 母を撮ったドキュメンタリー映画「スープとイデオロギー」(仮)を来年完成させます。製作費が持ち出しで大変。インターネットで資金を募っています(http://bit.ly/2G4hNDp)。思想が違っても、殺したり排除したりせず、ご飯を一緒に食べようよ、という映画にしたい。私は家族とそうできるのに数十年かかりましたが。母の思想、兄たちを北朝鮮に送った後悔を感じさせないかたくなさに、ずっと腹を立ててきました。でも親子の縁を切るわけにもいかない。あるときから「宗教が違う」くらいに思ったら、一緒に食事ができるようになりました。母は18歳のとき、韓国・済州島の4・3事件=注<4>=で婚約者を殺されて日本に逃げた。だから、すがるように「北」を信じた。人をジャッジするのは簡単だけど、その人がそうなった理由を考えるのが大事だと気づきました。

     武田 次作も楽しみです。=今回で終わります


    注<1>=1959~84年に在日朝鮮人約9万3000人が北朝鮮に渡った。日本政府やメディアも後押し。

    注<2>=朝鮮総連系の最高学府。

    注<3>=国際政治学者の三浦瑠麗さんがテレビで北朝鮮のテロリストが国内にいて、「大阪がやばい」などと発言。

    注<4>=48年から数年間、軍などが一説には3万人(島民10人に1人)を殺害。


     ■対談を聞いて

     マイホームパパがユダヤ人虐殺の責任者だった例のように、個人が「善良」でも組織で実行した「罪」は許されない。ただ、「罪を憎んで人を憎まず」ともいう。組織や国家と属する個人を区別して考える方が、人間についての理解は深まる。あるいは、「人のふり見て我がふり直せ」。他者を憎悪するより鏡として自らをただす方が、問題解決に近道な場合もある。ヤンさんの発言や作品は、そんなことを考える最良の「教材」かもしれない。【鈴木英生】


     ■人物略歴

    たけだ・さてつ

     1982年東京都生まれ。大卒後、出版社でノンフィクションの編集に携わり、2014年秋よりフリー。著書に『紋切型社会』『コンプレックス文化論』。『cakes』『文学界』『VERY』『暮しの手帖』『小説新潮』などで連載。

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