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座談会で話す(右から)水野和夫さん、遠藤乾さん、森健さん=東京都千代田区で

 今年度最後の「時論フォーラム」は、座談会でこの1年間を振り返る。海外は急転直下、米朝が首脳会談へと動きだし、国内では財務省の公文書改ざんなど、年度末まで激動した。水野和夫・法政大教授(現代日本経済論)、遠藤乾・北海道大教授(国際政治学)、ジャーナリストの森健さんが論じ合った。【構成・鈴木英生、写真・小川昌宏】

    米国自体が変な国に 水野さん/「新縁故主義」が横行 遠藤さん/うかつすぎた前原氏 森さん

     遠藤さん 今年度の国際情勢で一番深刻だったのは、北朝鮮の核でしょう。元々、北朝鮮の体制保証願望がいびつに膨らんだものですが、昨秋まで核実験に加えてミサイルを延々と撃ち続け、安倍晋三政権の強硬姿勢にある種の正当性を与えてきた。今度は急転直下、米朝首脳会談が開かれることになりましたが、不安定なトランプ政権が頭越しで交渉し、日本の安全が保障されるのか、心配は尽きません。中長期的には軍拡には軍拡という構図で問題は解決しないのが明らかで、他国が話し合いを始めるなか、望まない形の対話や妥協を迫られる可能性が高い。

     森さん 昨年末ごろの日本メディアには、「何月に開戦!」と、まるで戦争を待望するような予測もありました。

     遠藤さん 一種のあおりですね。韓国には20万人ものアメリカ人がいる。簡単に軍事行動はできません。

     森さん 日本は米国の顔色ばかり見て、主体性がない外交をしているように見えますが、北朝鮮問題では、はしごを外されたようなものですね。

     遠藤さん 地域から世界に目を転じると、近年見られるのは「先進国リスク」の高まりです。グローバル化や技術革新による格差拡大で穏健な中間層がやせ細り、左右両極端の政治勢力が伸びてきた。このリスクについて今年度問われたのが、西欧各国の国政選挙でした。フランスでマクロン大統領が選ばれ、結局ドイツも2大政党の連立政権を維持した。先進国の民主主義にチャンスが残っていると示したけれど、先行きは不透明です。

     森さん 踊り場というか。

     遠藤さん 両国以外はぼろぼろです。ポーランドとハンガリーが権威主義化していたところ、ユーロ圏内のオーストリアに極右・右派連立政権ができ、イタリアでも右派とポピュリストが伸びました。世界中でリベラルな体制が徐々に広まるという想定は壊れ、民主的な勢力が権威主義的な勢力に押されている。昨年7月の本欄で、思い切って中国を「切り下げの帝国」と呼んで批判しました。その影響力増大で、人権や安全・環境分野のグローバルスタンダードが世界中で切り下げられています。

     水野さん リベラルな国際秩序を作ってきた側も、自らその秩序を壊しつつある。アメリカは、パリ協定に続いて国連教育科学文化機関(ユネスコ)離脱も表明しました。トランプ大統領就任より前の2014年のアンケートでも、地球温暖化に危機感を示した共和党下院議員は、278人中8人だけだったらしい。トランプ大統領が変人というより米国自体が変な国になってきた。米国は「企業活動が第一」の国ですが、安倍首相も「世界で一番企業が活躍できる国にしたい」などと言う。日本も同じく変な国です。日本も国際秩序からの離脱を追随するのでは。

     森さん 内政では、この1年、権力の暴走にメディアが無力でした。首相と親しい元TBS記者によるレイプ疑惑で逮捕が止められ、森友学園の籠池夫妻は拘束され続け、その問題を扱った理財局長だった佐川宣寿(のぶひさ)氏は国税庁長官に就任(今月9日に辞任)。また、もう一つは加計(かけ)学園の獣医学部設置認可問題。獣医師養成については特区活用での新設は認めていなかったのに、国家戦略特区諮問会議が認可。のちに「総理のご意向」と記された文書が発覚した。

     遠藤さん 長期政権で緊張感が抜けて、「お友達」優先のネオ・ネポティズム(新縁故主義)がはびこった。政治の根本に必要な信頼をむしばむ事態です。

     森さん さらに今月、財務省で森友学園への国有地の貸し付けと売却の決裁文書で改ざんが発覚した。公文書を改ざんするとは民主主義、法治国家を揺るがす重大な事件です。財務省では「書き換えをさせられた」とする担当者が自殺。現場に責任を押し付け、生命まで絶たせるとはひどい。内閣人事局が官僚の人事を握っているのに、政治家は責任をとらない。極道の世界よりひどいのでは。

     遠藤さん 文書の改ざんでも、その謝罪会見でも、現在の政権を見ていると、なにか軽視されている気がする国民が増えているのではないでしょうか。

     森さん 昨秋の解散・総選挙も意義が不明でした。政権からすれば改憲の踏み絵を有権者に踏ませたわけでしょうが、「9条」「緊急事態」「合区解消」「教育充実」など自民党の改憲4項目も、一般にほとんど知られていない。

     遠藤さん このところの総選挙は、首相によって私物化されている。しかし、それを許した野党の問題もある。前回から3年近くたってもまったく準備ができていなかったのはひどすぎます。改憲は、改ざんの問題などで足踏みする可能性もあるが、全体としては静かに前へ進んできた。首相は「(9条に自衛隊を書き込む)改憲をしても何も変わらない」と言いますが、そんな改憲に850億円をかけるべきなのか。ともあれ、何が変わるかあいまいにしたまま、「(自衛隊の存在に)賛成しないのは非国民だ」くらいのムードを作るつもりなのでしょう。今の憲法下でも多くの人が認めているのですが。

     森さん 衆院選に伴う野党再編は、民進党代表だった前原誠司氏がうかつすぎたに尽きます。あれでは、消極的にでも安倍首相へ支持が集まっても仕方がない。

     水野さん 口約束だけで希望の党に合流しようとした。会社の合併ではあり得ない話です。

     森さん 前原氏は、小池百合子・東京都知事との会合で、合流についてわざとメモを取らなかったとか。しかも、枝野幸男氏が党を割って出たら「すべて想定内」と発言……。

     水野さん 政治家として以前に、社会人の基本ができていない。

     遠藤さん 民進党は、反共産党イデオロギーと保守2大政党の幻影で分裂したようなもの。小熊英二・慶応大教授が、保守2大政党は日本で不可能だと論じていました。大づかみですが、有権者は保守が3割、リベラル2割、5割が風次第の無党派だから、保守2大政党の安定する前提がない。前原氏の稚拙さだけでなく構造的な問題がある。非自民のリーダーは容共の人もきちんと「だまして」引っ張らなければいけないのに、間違った純化路線に走った。結果として、立憲民主党という旗が立ったが、枝野代表の個人商店のようで、はたして展望はどこまであるか。

     森さん 福島瑞穂氏が党首だった社民党の縮小と同じ道をたどる懸念があります。枝野氏は改憲派なのに、リベラル、左派を取り込むために今の姿勢を見せている。希望の党に入るよりは良かったかもしれませんが、古い時代の観念的「護憲」というあい路に突き進んだように感じます。 

     遠藤さん 結局、今後は連合が各党を結んでいくしかないのでは。連合が反共イデオロギーをうまく収めつつ、共産党ももっと変わらないといけません。

     モラルなき収奪、海賊以下 水野さん/#MeToo、性暴力を可視化 遠藤さん/「2%」実現後むしろ大変だ 森さん

     森さん 経済では、安倍政権は、政治主導で株価を上げたり、官製賃上げをしたりしています。そのためか国民の生活満足度は高い。

     水野さん 他方で、世界的に、資本主義を延命させるため、ある種のショック療法が繰り返されています。たとえば、ビットコインの問題。今までは、アジア通貨危機やギリシャ通貨危機など、国家が標的になってきた。今回のビットコイン騒動では、二十数万人の個人に直接ショックが押し寄せました。大航海時代の海賊資本主義以下の事態です。英国の海賊は、国内で英雄とされていました。スペインなどの商船を襲って金品を強奪するが、海賊船内は船長もこぎ手も戦利品を平等に分けた。今は、国という共同体内で収奪をしている。海賊船は、船長が沈むまで船に踏みとどまって船員を助けた。今は若い人から犠牲になる。ビットコインの被害者もそうですし、リーマン・ショックのときは派遣社員が真っ先に切られて、彼らを使って大もうけした会社は生き延びた。

     森さん 具体的な話だと、トヨタは30年までに電気自動車の販売台数を5割に高めるとか。今後10年、日本経済は構造的変換を迫られるのでは。

     水野さん 世界的なエネルギー環境の変化もあります。今、化石燃料の採掘量は、エネルギー投入量1単位に対して10を切っているはずです。かなり質の悪い原油をコストを掛けて採掘しないといけなくなっている。原油の輸送や精製の過程でさらにエネルギーを消費するので、既に、家庭や企業は採掘量の2、3割のエネルギーしか使えていない。30年ごろには、消費者にはまったく届かなくなるはず。埋蔵量はあっても、掘るだけエネルギーを余計に使うだけ。産油地から先進国に運んで精製して、発電所で電気に変えて都市で消費するスタイルは、もはやもたない。太陽光や再生エネルギーの活用、都市文明の見直しが必要になる。そこで不良債権化するものの筆頭が、たとえばタワーマンションでしょう。高層階に水道水を上げるだけでも相当に無駄なエネルギーを消費しますからね。リニア新幹線も無駄になる。

     森さん 日本銀行は、量的緩和の出口戦略もないまま、黒田東彦総裁の任期がさらに5年延びました。

     水野さん 2年で実現するはずだった2%の物価上昇は過去5年かけてもかなわなかった。なのに、また5年、同じことを続ける。もはや中途半端にやるよりも、全力で量的緩和をやってもらい、それでも駄目だったと証明してほしいですね。

     森さん じつは2%の物価上昇が実現してしまったら、国債の金利が上がり、返済などでむしろ大変なことになると聞きます。

     水野さん 株価も下がるから、政権支持率も下がる。

     森さん 最後に、1点だけ前向きな話題を。「#MeToo(私も被害者)」など性暴力やセクシュアルハラスメントへの抗議が、ハリウッドから日本国内のスクールセクハラまで、世界中に広まった。女性の労働環境といった政策面だけでなく、社会的な動きが出てきたのはうれしいですね。

     遠藤さん 私も、#MeTooは今年度の一番大きな社会的動きだったと思います。性暴力を問題として可視化するきっかけができた。他方、内外政にわたり課題は山積したままで、今後一層悪化するかもしれない。

            ◇

     4月からは、石原俊・明治学院大教授、井手英策・慶応大教授、吉田徹・北海道大教授が担当します。


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     ■人物略歴

    水野和夫(みずの・かずお)さん

     法政大教授(現代日本経済論)1953年生まれ。三菱UFJモルガン・スタンレー証券チーフエコノミストを経て現職。著書「閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済」。


     ■人物略歴

    遠藤乾(えんどう・けん)さん

     北海道大教授(国際政治学)1966年生まれ。「シリーズ日本の安全保障」(全8巻)編集代表。著書「欧州複合危機-苦悶するEU、揺れる世界」など。


     ■人物略歴

    森健(もり・けん)さん

     ジャーナリスト 1968年生まれ。早稲田大卒。「小倉昌男 祈りと経営」で大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞。

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