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科学の森

壁画描く芸術性あった? ネアンデルタール人像に新説、「野蛮」見直しも

洞窟壁画と人類の変遷

 旧人のネアンデルタール人が6万年以上前に洞窟壁画を描いていた--。洞窟壁画は現生人類のホモ・サピエンスが描いたとする定説に、一石を投じる研究が発表された。4万年前に滅んだネアンデルタール人とは何者だったのか。最新研究を取材した。【鈴木理之】

     ●4万年前に絶滅

     角を持つ牛のような動物や、はしごのようなマーク--。ネアンデルタール人が描いたとの新説が浮上しているのは、100年以上前に発見された世界遺産・ラパシエガ洞窟(スペイン)の壁画だ。赤い顔料が使われ、点描のような絵も見える。ドイツの研究チームが、壁画に付着した天然の放射性物質の年代を測定したところ、一部は6万4000年以上前に描かれたと推定した。これまでは約4万年前とされていたが、2万年以上さかのぼったことになる。

     ネアンデルタール人は、ヒトと共通の祖先から50万年前以降に分かれたとみられ、私たちの「遠い親戚」に当たる。1856年にドイツのネアンデル谷の洞窟で初めて骨格の化石が発見された。これまでの遺跡調査から埋葬文化があったとされる。

     なぜ彼らがこの洞窟壁画を描いたと考えられるのか。私たちの祖先で、ホモ・サピエンスの仲間のクロマニョン人(新人)がアフリカから欧州に来たのは推定4万~4万5000年前。6万4000年以上前に欧州に定住していたのは、ネアンデルタール人だけと考えられるためだ。

     4万年前以前に描かれた壁画などは見つかっておらず、今回の研究は「すでに定住していたネアンデルタール人が描いたもので、芸術的な能力があった」(研究チーム)としている。

     ●境界あいまい

     「野蛮」などといったイメージがあったネアンデルタール人に対し、「芸術的な能力があった」とされるクロマニョン人。ショーベ洞窟(3万6000年前)やラスコー洞窟(2万年前)、アルタミラ洞窟(1万8000年前)など、クロマニョン人が描いたとされる壁画は牛やバイソンなどの動物が生き生きと描かれており、高い芸術性と知性がうかがえる。しかし最近の研究では両者の境界はあいまいになっていると言えそうだ。

     約4万年前には共存していたと考えられており、ゲノム(全遺伝情報)研究では、現代人にもネアンデルタール人に由来する遺伝子が残っている可能性が指摘されるなど、生物学的に近い種であることが明らかになっている。

     ネアンデルタール人は氷河期に適応するため身長は低く、手足の短いがっちりした体形。一方、クロマニョン人は身長が高く現代人に近い容姿だ。東京大学の近藤修准教授(古人類学)は骨格を比較したうえで「ネアンデルタール人には氷河期を生き抜くだけの知恵があった。知能の優劣を認めるほど生物学的な差はない」と指摘する。

     ネアンデルタール人の遺跡からは火を使った痕跡や、壁画の絵の具として使われた可能性のある赤い顔料も多く出土している。東京芸術大学の五十嵐ジャンヌ講師(旧石器時代美術研究)は「両者は共存していた時代も長い。文化的な接点があったなら、ネアンデルタール人の芸術性を示す証拠が今後見つかる可能性もある」と指摘する。「原始人」などといったネアンデルタール人のイメージを見直す必要がありそうだ。

     ●「研究の蓄積必要」

     一方、ラパシエガ洞窟の壁画が描かれた6万4000年前以前に、新人の一部がすでに欧州に進出していた--との説もあり、ネアンデルタール人を壁画の「作者」とする今回の研究には異論もある。

     国立科学博物館の海部陽介・人類史研究グループ長(人類進化学)は「ラパシエガ洞窟を含め、これまでの壁画は洞窟の奥で見つかっているが、ランプの痕跡はクロマニョン人の遺跡でしか見つかっていない」と指摘。年代測定方法についても「現時点では必ずしも精度が高いとは言えない。さまざまな角度からの検証が必要だ」と指摘する。

     近藤准教授は「生きた時代が重なる両者は何かと比較される。一般的に各研究は、現代人の優位性を主張するキリスト教などの宗教的な立場が強く影響することもある」と言う。両者の比較を巡っては1980年代以降、学問的な論争が繰り返されてきた経緯があり、「確かな証拠を積み重ね、少しずつ正解に近づいていくしかない」と話している。

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