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そこが聞きたい

地域活性化のカギは? 英市民団体「ローカル・フューチャーズ」代表 ヘレナ・ノーバーグ・ホッジさん

ヘレナ・ノーバーグ・ホッジさん

互いの顔見える経済に

 経済のグローバル化(地球規模化)の「しわ寄せ」に対する不満が各国で強まるなか、「グローバルからローカル(地域)へ」を合言葉に社会のあり方を見直す「ローカリゼーション運動」が注目されている。「格差や貧困、環境危機を解決に導く道はローカル経済を育てること」。そう語る英市民団体「ローカル・フューチャーズ」代表のヘレナ・ノーバーグ・ホッジさん(72)に背景を聞いた。【聞き手・明珍美紀】

    --東京で昨秋、開かれたローカリゼーション推進集会「『しあわせの経済』世界フォーラム」=1=にはブータンやインド、タイ、韓国、中国などで地域の活性化に取り組む人々が集まりました。ローカリゼーションとはどんな活動でしょうか。

     ローカリゼーションとは、地域、地方、国の各レベルで経済を自立したものに変えていくことです。地域経済の活性化は社会に持続可能性をもたらします。ビジネスや生産、マーケティング(市場調査・販売戦略)の規模を小さくし、人々の営みに見合った「人間サイズ」の経済にすれば、お互いの顔が見える取引ができます。やりがいのある仕事に就くことで人は暮らしや心の安定を得られます。

     消費者と生産者の距離を縮めていけば、農産物や商品の輸送距離が短くなり、輸送に伴う二酸化炭素(CO2)の排出を抑えることができます。私たちは自分が口にする食べ物はどこから来るのかを知り、動植物の特性を学び、人間と自然との密接な関係に気づいていきます。

    --経済のグローバル化が進むとどんな弊害がありますか。

     欧州や北米のリンゴの産地に、ニュージーランド産のリンゴが輸出され、かんきつ類の一大産地であるスペインの地中海沿岸地域ではスーパーの棚にアルゼンチンのレモンが並んでいます。同じような産品を輸出し、輸入するという「重複貿易」の実態があり、こうした過剰貿易で得するのは大企業です。グローバル化の本質は「貿易と投資の規制緩和」という経済のプロセスにあります。

    --ローカリゼーションの活動を始める端緒は何だったのですか。

     インド北部にあるヒマラヤの辺境地ラダック=2=での体験がきっかけです。言語学者としてラダック語の分析や民話を収集するため1975年に初めて訪れました。村人たちは標高約3600メートルの高地で大麦を栽培していました。どの家も土地を持っていましたが「自分たちが耕せる範囲の土地を所有する」という考え方でした。さらに標高の高いところではヤクなどの家畜の飼育技術を発達させ、家畜のふん尿を燃料として活用していました。

     私が川で服を洗濯しようとしていたら、小さな女の子が恥ずかしそうに言うのです。「汚れ物を川に入れちゃだめ。下流の人たちがその水を飲まないといけないから」と。村の人は手織りの服をつぎあてしながら大事に着て、もうこれ以上着られないとなると、泥と一緒に練り固めてかんがい用水路の漏水止めに使っていました。

     限られた資源しかない村では伝統的にリサイクルをしていました。日々の暮らしにくつろぎがあり、澄んだ空気を吸い、体を動かす毎日。家族や隣人、村にやって来た見知らぬ人まで「他人を助けるのは自分たちのため」という相互扶助の精神がありました。私はこれまでの西洋式の生活スタイルを見直し、ラダックの伝統文化や環境を守る事業に力を注ごうと決めました。

    --ラダックにも開発の波がやってきたのですね。

     国の政策で道路建設など社会基盤の整備や観光地化が進み、西洋の文化が押し寄せてきました。人々が便利さを求めるのは否定しません。けれども開発が進む様子を見ていると、お金とテクノロジー(技術)が結びついて、社会構造の変化の基盤をなしているのが分かりました。

     かつては共同体の中で助け合っていた農作業は、収穫期に賃金を払って人を雇う形態になりました。高い労賃を払えない農家は離農し、都市に移って働く。貧富の差は拡大しました。変わりゆくラダックから得た教訓がローカリゼーション運動につながりました。

    --自ら監督した映画「幸せの経済学」(2010年)は日本でも公開されました。どのような思いを込めたのですか。

     社会を変えることを目指して各地でどんな運動が起きているのかを伝えることが必要だ--との思いから5年がかりで製作しました。持続可能な社会の実現を目指す活動家ら約10人の行動を追いかけたドキュメンタリー映画です。登場人物の一人である英国の環境活動家、ロブ・ホプキンス氏が05年秋に始めた「トランジション・タウン」活動は、石油などの化石燃料に頼らない、より健全な経済に移行することを目指しています。食やエネルギー、医療など部門ごとに住民らが事業を進めています。今では国際的なコミュニティー活動に発展し、日本にも実践者がいます。こうした人たちとの出会いが私を勇気づけます。

    --日本の市民へのメッセージはありますか。

     日本では東日本大震災と原発事故が起き、東北の人々は大きな被害を受けました。震災後、日本でも太陽光や風力などの再生可能エネルギーを利用し、地域でエネルギーを供給する「市民発電所」の取り組みが広がってきました。被災地の再生は、大手企業が主導する大規模な開発事業ではなく、市民主体のまちづくりが中心で、それを自治体や国が支えるべきだと思います。

     高度な科学技術や人工知能(AI)が投入されると生活はどうなるか、人間と自然が幸せになる経済とは何か--。各自が自分の暮らしや地域と結びつけて考える必要があります。ローカリゼーションは言い換えれば地域の基盤をつくること。そのようなコミュニティーで暮らすことができれば、私たちは、お互いに頼り合い、助け合って生きる喜びを手にすることができます。

    聞いて一言

     有機栽培の農産物やフェアトレード(公正貿易)の商品を推奨して「買い物で社会を変えよう」と訴える市民団体は内外にある。一方、ローカリゼーション運動は生産や消費の根本である経済システムを変革しようという動きだ。そこに、生態系を保つという自然界の要請を融合させた。目的が経済成長や発展でなく「幸せ」の実現という点が新鮮だ。東京でのフォーラムの意義は参加者が「何が幸福か」「どんな未来を望むのか」と考え、語り合う場をつくったことだと思う。


     ■ことば

    1 「しあわせの経済」世界フォーラム

     「ローカリゼーションの動きを世界に広めよう」とホッジさんらの提唱で2012年に米国で初開催された集会・講演イベント。以後、インド、韓国、イタリアなどで順次開かれた。昨年11月に東京で開催されたフォーラムの実行委員会呼びかけ人代表は辻信一・明治学院大教授。13の国・地域から約30人が登壇し、延べ約2000人が来場した。

    2 ラダック

     インド北部ジャム・カシミール州北東部の高山地帯にある地域。中心都市はレー。かつては独立した王国だった。ヒマラヤ山脈とカラコルム山脈に挟まれ、チベットと文化的な交流が深い。入域制限があったが1970年代に外国人に開放され、観光に力を入れるようになった。


     ■人物略歴

    ヘレナ・ノーバーグ・ホッジ(Helena Norberg-Hodge)

     1946年スウェーデン生まれ。言語学者としてインドのラダック地方を訪れた経験に基づき「ローカリゼーション運動」を展開している。著書「懐かしい未来ラダックから学ぶ」は世界約40カ国で翻訳出版された。夫のジョン・ペイジさんは弁護士。

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