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社説を読み解く

自民党の憲法9条改正論議 新たな「自衛」論争呼ぶ可能性=論説委員長・古賀攻

自民党大会で演説する安倍晋三首相=3月25日、和田大典撮影

毎日 制約があいまいに/読売 分かりやすい条文案を

 自民党が、憲法改正を目指して具体的な条文案を取りまとめた。自衛隊の明記、緊急事態、参院選での「合区」解消、教育の4分野だが、焦点は9条と自衛隊との関係をどう整理するかだろう。

     (1)自民党大会で改憲を盛り上げ、他党との協議に入る

     (2)秋の臨時国会で発議する

     (3)来年中に国民投票を実施して成立させ、安倍晋三首相の任期中に改正憲法を施行する

     公文書改ざん問題は、首相のこんな胸算用に打撃を与えている。それでも政権党が具体案を提起する意味は小さくない。メディアとしては厳密な点検が必要だ。

           ◇

     自民党の憲法改正推進本部は、3月22日の全体会合で自衛隊の根拠規定に関する議論を終えた。

     党内では、戦力の保持を禁じた9条2項を維持したまま別条文で自衛隊の存在を明記するか、2項を削除して自衛隊を通常の軍隊と位置づけるかの議論が、平行線をたどっていた。2項維持は安倍首相が唱えた考え方だ。

     首相案での意見集約が狙いの執行部は、最終的に半ば強引に「細田博之本部長一任」を取り付け、2項維持で党議を決着させた。

     その細田氏は9条1、2項とは別に「9条の2」を新設し、その1項に「前条(戦力不保持)の規定は」「必要な自衛の措置をとることを妨げず、そのための実力組織として」「自衛隊を保持する」などと盛り込む考えを示した。これが事実上の自民案になるとみられる。

     毎日新聞は3月24日社説で同案の問題点を大きく三つ指摘した。

     まず、自衛に必要か否かの判断がすべて政府に委ねられているように読める点だ。この結果、自衛隊の活動範囲や装備に対する制約が一層あいまいになる。

     政府はこれまで、自衛隊は9条2項が禁じている戦力に至らない「必要最小限度の自衛力」という論理で、自衛隊合憲論を導いてきた。「自衛隊=戦力未満」論だ。

     このため、自民党の条文案も当初は自衛隊を「必要最小限度の実力組織」と位置づける文言が入っていた。しかし、執行部は党内の異論に迎合して最終日にこの文言を削除するとともに、「必要な自衛の措置」に変えていた。

     二つ目は、自衛範囲の拡大に伴って集団的自衛権の全面行使にも道を開く可能性があること。三つ目は、「(改憲後も)自衛隊の役割と権限に変更はない」という首相発言と相いれないことだ。

     これらを踏まえて毎日は「現行憲法の核心である9条をこれほど無造作に扱い、これほど密度の粗い改憲案を提起することに、がくぜんとする」と非難した。

           ◇

     自民案でも自衛隊をめぐる憲法論議が終息しないと指摘したのは日経新聞の3月25日社説だ。

     9条2項を残したままでは「戦力とは何か、否認した交戦権の意味は何か」という議論が続く。さらに「必要な自衛の措置」という表現に変更したことで「自衛の範囲をめぐる解釈論のくびきからも逃れられない」と論じた。

     首相の提案を後押ししてきた読売新聞は3月24日社説で「自民党が改憲案のとりまとめに向けて、議論を重ねてきたことは評価できる」と好意的な立場を示した。

     ただし、「自衛隊が『戦力』に当たるのか、という長年の不毛な議論」や、「集団的自衛権の全面的な行使を意味するのかどうか」の議論が残ると指摘し、「分かりやすい条文案」の提示を求めた。

     「『自衛隊明記』を評価する」との見出しで、歓迎色を押し出したのは産経新聞3月25日社説だ。

     9条について「日本の安全保障政策と議論の水準を低め、国民の安全を損なってきた」と全面的に否定したうえで、自衛隊明記の効果を「自衛隊員の士気を高め、国民の防衛意思を示すことが抑止力を向上させる」とまで主張している。

     産経とは正反対に、朝日新聞は自民の改憲論議そのものに否定的な立場を貫いている。

     3月23日社説で「そもそも歴代内閣が合憲と位置づけてきた自衛隊を、憲法に明記するための改憲に、どんな必然性があるのか」と強い疑問を投げかけ、公文書改ざんという「目の前の憲法の危機を正すことこそ、与野党を超えた立法府の喫緊の課題である」と訴えた。

     9条と自衛隊をどう整合させるかというこの問題の出発点で、毎日の立脚点は朝日とは異なる。

     昨年5月に首相が憲法への自衛隊明記を唱えた時点から、毎日は問題提起そのものの否定は避けてきた。3月24日社説でも「憲法施行から70年以上が過ぎ、この組織を憲法上どう位置づけるかという問題提起は意味がある」と再確認している。

     安全保障の議論が左右に偏るのは本来好ましくない。ただ、9条は戦前への歴史観を反映しているだけに議論が複雑になる。

     新聞の論調でもこれだけの差があるテーマだ。必要なのは、国民世論の熟成を辛抱強く待つ政治指導者の誠実さだろう。


     ◆自民党改憲条文案に関する社説の見出し

    毎日新聞

    9条改正「どの条文案も問題がある」=3月1日

    緊急事態「『劇薬』の扱いが軽すぎる」=3月8日

    9条改正「自衛権論議の密度が粗い」=3月15日

    9条改正「熟成を待たぬ粗雑な決着」=3月24日

    朝日新聞

    憲法70年「理のない自民の9条論」=3月1日

    憲法70年「まず政治と行政を正せ」=3月16日

    憲法70年「ずさん極まる9条論議」=3月23日

    憲法70年「災害で改憲の危うさ」=3月24日

    読売新聞

    9条改正「世論喚起へ具体的に論じよ」=3月5日

    緊急事態「危機対処を憲法に規定したい」=3月12日

    9条改正「明快な条文へ熟議が必要だ」=3月24日

    日経新聞

    「問題残したままの自民の自衛隊明記案」=3月25日

    「自民改憲案は国民の支持を得られるか」=3月26日

    産経新聞

    9条改正「『自衛隊明記』を評価する」=3月25日


    自民党の9条への追加条文案

    9条の2(1) 前条の規定は、我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとることを妨げず、そのための実力組織として、法律の定めるところにより、内閣の首長たる内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する。

        (2) 自衛隊の行動は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。


     「社説を読み解く」は、前月の社説の主なテーマを取り上げ、他紙とも比較しながらより深く解説します。ご意見、ご感想をお寄せください。〒100-8051毎日新聞「オピニオン」係 opinion@mainichi.co.jp

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