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SUNDAY LIBRARY

岡崎 武志・評『真実』『私はあなたの記憶のなかに』ほか

今週の新刊

◆『真実』梶芽衣子・著(文藝春秋/税別1350円)

 あのクエンティン・タランティーノ監督が梶芽衣子の熱狂的ファンで自作「キル・ビル」に梶の歌を使用して話題に。先月には43年ぶりのアルバム「追憶」を発表するなど、「いま」の人だ。

 半世紀以上に及ぶ女優・歌手生活を回顧するのが『真実』だ。相次ぐ転変を赤裸々に語り、つくづく正直な人である。デビューは本名の太田雅子。吉永、浅丘、松原に次ぐ存在で不遇だった。マキノ雅弘監督の「日本残侠伝」で梶芽衣子となり、独自の境地を開く。

 新人時代に先輩女優に盾つくなど、武勇伝数多し。「女囚さそり」シリーズでの喋(しゃべ)らないヒロイン像、「曽根崎心中」の相手役を宇崎竜童に決めるなどは、彼女自身のアイデアだったという。帯文にあるように「媚(こ)びない めげない 挫(くじ)けない」女性だった。

 「いくつになっても挑戦することが大事。そこから未来は拓(ひら)けていく」と「はじめに」で書いている。一つのことをやり抜く女性の生き方も教えてくれる本だ。

◆『私はあなたの記憶のなかに』角田光代・著(小学館/税別1500円)

 朝のテーブルに置かれた妻の手紙には、「さがさないで」と書かれてあった。妻が消えた。角田光代の短編集『私はあなたの記憶のなかに』の表題作は、そんなふうに始まる。大型連休の最初の日、ぼくは妻を探しに出かける。

 しかし清張作品みたいに、社会の歪(ゆが)みや怨念(おんねん)は用意されない。思い出の町や店を訪ね、新婚旅行に使った夜行列車に乗り、海の近くの民宿へも行った。そして「妻がぼくの前にいない理由」を考えるのだった。「記憶のなかに消えます」と書いた「記憶」の中の旅は読者を脅かさず慰安させる。

 巻頭の「父とガムと彼女」。父の葬式に甘いガムの匂いとともに現れた初子さん。小学生時代の「私」の記憶が、甘い匂いに包まれ甦(よみがえ)る。そこには、私と初子さんだけの、秘(ひそ)かな思い出があった。

 収録された8編は、いずれも過去と現在を往き来する物語。小説家はタイムマシンを使わなくても、いつでもその時代に立てる。小説はいいなあ、面白いなあ。

◆『1964東京五輪聖火空輸作戦』夫馬信一・著(原書房/税別2500円)

 夫馬信一(鈴木真二監修)『1964東京五輪聖火空輸作戦』は驚くべき労作。当たり前の話だが、ユーラシア大陸から日本へ、聖火リレーには陸路と空路が使われた。本書は、その空前のプロジェクト遂行の全貌を、資料と取材、そして330点以上の写真や図版で再現する。YS-11の開発、DC-8は機体を塗り替えて特別機に仕立てた。開催国でもないのに、各地の聖火リレーが大々的イベントとして報道されるなど、熱気と興奮が伝わってくる。全図書館に各一冊、常備を乞う。

◆『飛田ホテル』黒岩重吾・著(ちくま文庫/税別820円)

 黒岩重吾の著作で、現状、書店で入手可能なのはほとんど古代史もの。昭和30年代、社会の底辺に生きる男女のうごめきを描いたのが、この『飛田ホテル』だ。6編のうち表題作は傑作。大阪市西成区の一大風俗地帯が「飛田」。昭和初期にできた安アパートに巣食う女たちと、そこへ通う男たち。刑務所から出たヤクザの有池が、女の待つこのアパートへ戻ってみると……。夜の女、ぽん引き、ばくち打ちなど、背徳の影が濃い人間たちの、そのまた影をくっきりと描いて溌剌(はつらつ)としている。

◆『港の日本史』吉田秀樹+歴史とみなと研究会・著(祥伝社新書/税別840円)

 言われてみればその通り。日本の歴史は港で作られた。吉田秀樹+歴史とみなと研究会『港の日本史』は、そのことを古代から現代まで通覧していく。港は、交通と物流の拠点という以外に、外国に向いた窓として、政争の舞台ともなった。縄文時代にすでに船着き場があり、「みなと」に多種多様な呼称があった。清盛や秀吉が海の向こうに抱いた壮大な野望と夢。北前船の輸送力、ペリーの来航と、港と歴史の深い関係が語られる。多くの写真や地図が、理解を助けてくれる。

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岡崎武志(おかざき・たけし)

 1957年、大阪府生まれ。高校教師、雑誌編集者を経てライターに。書評を中心に執筆。主な著書に『上京する文學』『読書の腕前』『気がついたらいつも本ばかり読んでいた』など

<サンデー毎日 2018年4月15日増大号より>

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